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第十話 たまには論破しないことも、なくはない
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その夜。
寝室で、ルーファスは珍しく自分から口を開いた。
「カレン」
「何ですか」
「今夜は……俺から誘ってもいいか?」
カレンの眉がわずかに動いた。
「契約履行の一環ですか?」
「違う」
「違う?」
「……違うと思う」
「思う、ですか。曖昧ですね」
「ああ、曖昧だ。でも……」
ルーファスはカレンの目を見た。
「俺は君と、ちゃんと向き合いたいんだ。嘘なしで」
カレンはしばらく黙っていた。
それから、小さく肩をすくめた。
「……ご自由にどうぞ」
◇
翌朝。
カレンが目を覚ますと、隣にルーファスの姿はなかった。
身を起こすと、寝室の扉が開いた。
「あ、起きたか」
ルーファスが水差しとグラスを持って入ってきた。
「……何をしているんですか」
「水。喉、渇いてないか?」
「……」
カレンは黙ってグラスを受け取った。
ルーファスは寝台の端に腰かけ、妻の様子を伺った。
「体調は……大丈夫か?」
「なぜそんなことを聞くんですか」
「昨夜、その……少し激しかったかと思って」
「……」
「痛いところとか、ないか? 無理させてないか?」
カレンはグラスに口をつけたまま答えない。
「俺、これからはちゃんと君のことを——」
「調子に乗らないでください」
遮られた。
「あ……すまない。でも、俺は本当に——」
「……まあ、いいでしょう」
「え?」
ルーファスは目を瞬かせた。
「今……論破しないのか?」
「……たまには」
カレンは窓の外へ視線を向けた。
朝日が差し込んでいる。
その横顔を、ルーファスはじっと見た。
耳が、赤い。
「……カレン」
「何ですか」
「いや……何でもない」
ルーファスは小さく笑った。
カレンは振り向かない。
でも、耳の赤さは消えなかった。
---
「初めて、論破されなかった。……これって、そういうことだよな。
その『たまに』が増えるように、頑張ろう」
ルーファス・ベルンワード候爵
寝室で、ルーファスは珍しく自分から口を開いた。
「カレン」
「何ですか」
「今夜は……俺から誘ってもいいか?」
カレンの眉がわずかに動いた。
「契約履行の一環ですか?」
「違う」
「違う?」
「……違うと思う」
「思う、ですか。曖昧ですね」
「ああ、曖昧だ。でも……」
ルーファスはカレンの目を見た。
「俺は君と、ちゃんと向き合いたいんだ。嘘なしで」
カレンはしばらく黙っていた。
それから、小さく肩をすくめた。
「……ご自由にどうぞ」
◇
翌朝。
カレンが目を覚ますと、隣にルーファスの姿はなかった。
身を起こすと、寝室の扉が開いた。
「あ、起きたか」
ルーファスが水差しとグラスを持って入ってきた。
「……何をしているんですか」
「水。喉、渇いてないか?」
「……」
カレンは黙ってグラスを受け取った。
ルーファスは寝台の端に腰かけ、妻の様子を伺った。
「体調は……大丈夫か?」
「なぜそんなことを聞くんですか」
「昨夜、その……少し激しかったかと思って」
「……」
「痛いところとか、ないか? 無理させてないか?」
カレンはグラスに口をつけたまま答えない。
「俺、これからはちゃんと君のことを——」
「調子に乗らないでください」
遮られた。
「あ……すまない。でも、俺は本当に——」
「……まあ、いいでしょう」
「え?」
ルーファスは目を瞬かせた。
「今……論破しないのか?」
「……たまには」
カレンは窓の外へ視線を向けた。
朝日が差し込んでいる。
その横顔を、ルーファスはじっと見た。
耳が、赤い。
「……カレン」
「何ですか」
「いや……何でもない」
ルーファスは小さく笑った。
カレンは振り向かない。
でも、耳の赤さは消えなかった。
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「初めて、論破されなかった。……これって、そういうことだよな。
その『たまに』が増えるように、頑張ろう」
ルーファス・ベルンワード候爵
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