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四話
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綾坂先生が風邪で学校を休んだ日、何故か物凄く強い喪失感と倦怠感に似たものが僕を襲った。
そこではじめて思い知らされた、綾坂先生の存在が自分のなかでどれ程大きい存在であったかが。
学校を何となく過ごした。凄く退屈であった。
凄くモヤモヤした。気が気でなかった。
こんな不思議な気持ちに苛まれたことは今までになかった。
どうしてこんなにも自分が自分を理解できないような状態になったのだろう。綾坂先生が休んだだけで?
どれだけ無い知恵を絞っても結果は変わらず、この謎は迷宮入りになってしまう。それはなんとか避けたいので、放課後、久々に旧友に、一本、連絡をいれてみた。
学校近くのカフェで待っているとの連絡が入り、すぐにそちらへ向かった。
カフェに入り、旧友を探す。すると、僕の姿を見つけたらしく入り口から一番遠くて囲いになっている席から手を振っていた。
周りに聞かれたくないような話を持ってこられた場合でも対応できるように、こういう配慮をしてくれるところが本当にありがたい。
席に腰を下ろすと、間を見計らって旧友が口を開く。
「んで、慧。今回の話はどんなやつだ?」
「まぁ、僕なりには結構ややこしいことだったから、捺、お前に意見を聞きたくてさ。」
僕の言葉に少しおどけてみせる捺。
今までの話で、僕がややこしい、といった類いの話はしたことがなかった。
故に、実に不思議なことだろう。
僕は、高校に入ってからの綾坂先生との出来事を色々と話した。そして、今日のことも。
話している間、捺はどんな気持ちで見ていただろう。真面目な顔つきではいたものの心の内はどうだったかはわからない。
お互いにその部分は聞かない、それは暗黙の了解だ。だから、そこは少し気になったが心の隅においておく。
話終わったあと、少し眉間にシワを寄せて考えていた捺。やがて、パッと明るい面持ちで答えた。
「慧~!お前、それ、きっとこれだよ。」
捺は両手でハートマークを作った。ハートマーク……?
「愛?恋?そんなわけ……」
自分の口から出た言葉を止めた。
恋だとかそういう類いならこういう現象があるという風にも聞いた。もしかして、そうなのか?
「そして、喪失感や倦怠感というより、空虚感に苛まれているんだろう。きっと。」
悩む僕なんかお構い無しに、言葉を続ける。
驚いた。恋?そんなもの自分には縁のない遠い存在だと思いっていた。捺が間違うことは今まで見たことがない。捺はいつだって正解と呼ばれる道を歩んできた。それになんの優越感も劣等感も考えず、良い意味で単純なやつだ。
だから、今回もきっとそうなのだろう。でも、僕もまだまだ子供だったらしく、その真実なのかわからないことを受け入れることを拒んだ。
「もしそうだったら、お前に一杯おごる。答えはまたあったときに。じゃあ、またな。」
僕は勢いよく立ち上がって、颯爽と立ち去った。そのとき捺がどんな顔をしていたかも知らずに。
そこではじめて思い知らされた、綾坂先生の存在が自分のなかでどれ程大きい存在であったかが。
学校を何となく過ごした。凄く退屈であった。
凄くモヤモヤした。気が気でなかった。
こんな不思議な気持ちに苛まれたことは今までになかった。
どうしてこんなにも自分が自分を理解できないような状態になったのだろう。綾坂先生が休んだだけで?
どれだけ無い知恵を絞っても結果は変わらず、この謎は迷宮入りになってしまう。それはなんとか避けたいので、放課後、久々に旧友に、一本、連絡をいれてみた。
学校近くのカフェで待っているとの連絡が入り、すぐにそちらへ向かった。
カフェに入り、旧友を探す。すると、僕の姿を見つけたらしく入り口から一番遠くて囲いになっている席から手を振っていた。
周りに聞かれたくないような話を持ってこられた場合でも対応できるように、こういう配慮をしてくれるところが本当にありがたい。
席に腰を下ろすと、間を見計らって旧友が口を開く。
「んで、慧。今回の話はどんなやつだ?」
「まぁ、僕なりには結構ややこしいことだったから、捺、お前に意見を聞きたくてさ。」
僕の言葉に少しおどけてみせる捺。
今までの話で、僕がややこしい、といった類いの話はしたことがなかった。
故に、実に不思議なことだろう。
僕は、高校に入ってからの綾坂先生との出来事を色々と話した。そして、今日のことも。
話している間、捺はどんな気持ちで見ていただろう。真面目な顔つきではいたものの心の内はどうだったかはわからない。
お互いにその部分は聞かない、それは暗黙の了解だ。だから、そこは少し気になったが心の隅においておく。
話終わったあと、少し眉間にシワを寄せて考えていた捺。やがて、パッと明るい面持ちで答えた。
「慧~!お前、それ、きっとこれだよ。」
捺は両手でハートマークを作った。ハートマーク……?
「愛?恋?そんなわけ……」
自分の口から出た言葉を止めた。
恋だとかそういう類いならこういう現象があるという風にも聞いた。もしかして、そうなのか?
「そして、喪失感や倦怠感というより、空虚感に苛まれているんだろう。きっと。」
悩む僕なんかお構い無しに、言葉を続ける。
驚いた。恋?そんなもの自分には縁のない遠い存在だと思いっていた。捺が間違うことは今まで見たことがない。捺はいつだって正解と呼ばれる道を歩んできた。それになんの優越感も劣等感も考えず、良い意味で単純なやつだ。
だから、今回もきっとそうなのだろう。でも、僕もまだまだ子供だったらしく、その真実なのかわからないことを受け入れることを拒んだ。
「もしそうだったら、お前に一杯おごる。答えはまたあったときに。じゃあ、またな。」
僕は勢いよく立ち上がって、颯爽と立ち去った。そのとき捺がどんな顔をしていたかも知らずに。
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