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旅に出る
17.エルレエラへの旅路②(5月10日)
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「お前ら無事か!!」
ハビエルが大声を上げている。
「大丈夫だ!こっちまで近寄れたオオカミはいない」
事実、荷馬車の周囲まで近寄らせたオオカミはいなかった。その殆どがハビエルの陣取った10m地点で討ち取られたのである。
「いやあ、とんだ災難だったな!まさかこんな所で一角オオカミの待ち伏せをくらうとはな。しかし兄ちゃんの魔法は何だ?タンって軽い音がしたと思ったら、ヤツらがバタバタと倒れていったが……」
「あれはカズヤの魔法だよ!すごいでしょう!!」
何故かカリナが胸を張る。それにしてもこの娘は……“自分はカサドールじゃない” そう言い切っていた割には、さほど臆する様子もなく矢を射てはいなかったか。この娘の中でカサドールとはいったいどういう連中を指すのだろう。
「まあ詮索は無しにしよう。カリナの弓の腕もよかったな!それはそうと、あいつらから貰うもんを貰わにゃならん。なにせ一角オオカミの角と皮は高値で売れるし、魔石も貴重だ。お前達も手伝え!」
ハビエルが皆を促し、手近な一頭から解体を始めた。
ハビエルはあっという間に自分の背丈の七割程のオオカミの腹を裂き、皮をスルスルと剥いでいく。価値があるのは胴体部分だけのようで、足先や頭部は落としてしまっている。
「俺が皮を剥ぐから、カリナは魔石と角を回収してくれ。一角オオカミだけでなく、魔獣の類の魔石は心臓部にあるからな。母さんに教わっただろう?」
「はい。大丈夫です!」
「あ!兄ちゃんは俺の手伝いな。そっち持ってくれ!」
はいはい。
カリナは皮を剥ぎ終わったオオカミから心臓をえぐり出してくっついている魔石を剥がし、ハビエルが切り飛ばした頭部を探し出しては角を切り取っている。なかなかシュールな絵面だ。
一角オオカミの角は頭蓋骨から生えている感じらしい。サイのように皮膚や毛が硬化したものではなく、シカの角のように骨の一部のようだ。
しかし、心臓に石がくっついているのか……本来ならばまともに生きられるはずもないのだが。
そう言えばゴブリンから回収した魔石は小指の爪ほどの大きさの物から親指大の物まで色々な大きさがあった。自分達で狩った獲物から魔石を回収していたにせよ、ゴブリンが狩れるサイズの生き物などそんなに大型だとは思えない。
「ハビエルさん。魔物は生まれた時から体内に魔石を抱えているのですか?魔物が成長するにつれて魔石が大きくなっていくのでしょうか?」
わからないことは知っている(かもしれない)人に聞いてみよう。
「なんだ兄ちゃん、変なこと聞くなあ?魔物が成長するって話は聞かねえな。ただ同じ魔物でも取れる魔石の大きさは違うから、何かしらの成長はしてるのかもしれん。お前さんはアルカンダラに行くんだろ?あっちにゃ長年魔物の研究ばかりしている学者さんがいるから、興味があるなら訪ねてみるといい」
なるほど。魔物を研究する機関のようなものがあるのかもしれない。
「よし!いっちょ上がりだ!次行くぞ!」
ハビエルに急き立てられるように、次のオオカミの解体に入る。
こんな感じでおよそ5分に1頭のペースで解体を続け、30枚の皮と30本の角、それに魔石を30個得た。
オオカミの魔石は透き通った琥珀色だった。
「しっかし、ちょっと休憩のつもりが、とんだ道草になっちまった!ほれ!出発するぞ!」
ハビエルがオオカミの皮を荷台に乗せる。
俺達の乗るスペースが少々狭くなったが、こっちは便乗させてもらっている身だ。文句は言うまい。
またカリナとハビエルの会話が始まる。
どうやら次の町、エルレエラまではだいたい50kmほどらしい。
早朝にスー村を出れば、馬車でなら日暮れの頃には到着する。徒歩だと途中で野宿して、次の日の昼頃に到着することになる。
今回はスー村を10時ぐらいに出発したから、道程を6割から7割ほど行った辺りで日没になるはずだった。
一角オオカミの襲撃で2時間余りロスしたから、だいたい半分辺りで野宿することになるだろうとの見立てだ。
◇◇◇
日が陰ってくるとハビエル達の口数も少なくなってきた。
そんな2人を見ていると、俺も眠たくなってきた。
さすがに先ほどの戦闘は堪えた。
自宅を守っていた時は高低差があったし、洞窟や森でゴブリン達を狩った時は一瞬でケリがついた。
今回の戦闘では俺とカリナは荷台に乗っていたとはいえ、オオカミの脚力なら簡単に飛び上がれる距離での戦いとなったのだ。
俺自身の命の危険より、知り合って間もないカリナの身の方が心配だったのは、精神年齢の差によるものだろうか。
荷馬車はガタゴトといい音を立てて進む。前方に見えていた山を左周りでかわしながら進むようだ。
うとうとしているうちに、すっかり日が陰っていた。
荷馬車がゆっくりと停まる。
「よし!今日はここで野営だ!日没までに野営の準備をせにゃあならん」
荷台を降りたカリナが辺りを確認し矢筒を背負い弓を持つ。
「ちょっと一狩りしてくる!」
そう言い残し駆け出していった。
慌てて周囲にスキャンを放つ。周囲300m圏内に魔獣の反応はない。カリナなら大丈夫だろう。
辺りは街道から少し離れた平坦な草地だ。10mほど離れた所を小川が流れ、その向こうは林になっている。カリナが向かったのは、川沿いの草地のほうだ。
小川では釣りは難しそうだから、彼女の腕に期待しよう。
ハビエルと二人で薪を拾いにいく。
しばらく雨が降っていない様子で、地面に落ちた枯れ枝は乾いている。
生えている木はカシやブナ、クヌギといった、いわゆるドングリのなる木だ。
枯れ枝を踏みつけ、簡単に折れるものを中心に集めていく。
指ほどの太さの物から手首ほどの太さの物を拾い集め、一抱えごとに野営地へ運ぶ。
薪の量が少し心許ない。太めの枯れ木のみを拾い集め、野営地へ運ぶ。
テントを張り始めると、ハビエルが声を掛けてきた。
「なんだそれ?天幕か??」
「そうです。簡単に張れて便利ですよ。ハビエルさんはどうやって寝るんですか?」
「俺か?まあ今夜は天気もいいし、オオカミの毛皮も手に入った。荷台で寝るさ。それはそうと、カリナはまだ帰ってこないか?」
そういえばそうだ。周囲にスキャンを掛ける。
有効範囲のギリギリにカリナの反応を見つける。こちらに戻ってきているらしい。
しばらくするとカリナがウサギを2羽ぶら下げて帰ってきた。
このウサギは魔物ではない、普通のノウサギのようだ。
野営地に戻ったカリナが手際良くウサギを捌いていく。
鍋に水を張って火に掛け、何やら袋から取り出した野草を刻み始めた。
見た感じはネギのようなニラのような……球根っぽい部分があるからノビルかもしれない。春菊のようにも見える葉はヨモギだろうか。
捌かれた二羽のウサギは、ぶつ切りにされ鍋に投入された。
大量に浮いてくるアクを掬いきったところで、刻んだ野草を投入し、味見をしながら塩を投入する。
「できました!ハビエルさんも一緒に食べますよね!!」
「おう!お前さんなかなか良い手際だな!感心感心!」
そう言いながらハビエルが自分の木皿とスプーンを持ってやってきた。
焚火と鍋を囲んでの夕食が始まった。
始めて食べるウサギのスープは、鶏肉のような歯応えで癖のないあっさりした味だった。
味噌仕立てにしたら旨そうと思うのは、やっぱり日本人だからだろう。
西洋風にいうなら、シチューにしても旨そうだ。
こうして野営1日目の夜が更けていった。
食事を終えたハビエルは、さっさと馬車に戻る。交代で見張りをするような気はないらしい。
もっとも普段は単独行ということだから、野営する時は寝ていないか、あるいはあっさりと寝ているのだろう。
流石にハビエルのような豪胆さはない。俺達は交代で起きていることにした。
「カズヤ、最初は私が見張りをする。先に寝ていいぞ」
せっかくのカリナの申し出に甘えることにした。
流石に眠たい。
ハビエルが大声を上げている。
「大丈夫だ!こっちまで近寄れたオオカミはいない」
事実、荷馬車の周囲まで近寄らせたオオカミはいなかった。その殆どがハビエルの陣取った10m地点で討ち取られたのである。
「いやあ、とんだ災難だったな!まさかこんな所で一角オオカミの待ち伏せをくらうとはな。しかし兄ちゃんの魔法は何だ?タンって軽い音がしたと思ったら、ヤツらがバタバタと倒れていったが……」
「あれはカズヤの魔法だよ!すごいでしょう!!」
何故かカリナが胸を張る。それにしてもこの娘は……“自分はカサドールじゃない” そう言い切っていた割には、さほど臆する様子もなく矢を射てはいなかったか。この娘の中でカサドールとはいったいどういう連中を指すのだろう。
「まあ詮索は無しにしよう。カリナの弓の腕もよかったな!それはそうと、あいつらから貰うもんを貰わにゃならん。なにせ一角オオカミの角と皮は高値で売れるし、魔石も貴重だ。お前達も手伝え!」
ハビエルが皆を促し、手近な一頭から解体を始めた。
ハビエルはあっという間に自分の背丈の七割程のオオカミの腹を裂き、皮をスルスルと剥いでいく。価値があるのは胴体部分だけのようで、足先や頭部は落としてしまっている。
「俺が皮を剥ぐから、カリナは魔石と角を回収してくれ。一角オオカミだけでなく、魔獣の類の魔石は心臓部にあるからな。母さんに教わっただろう?」
「はい。大丈夫です!」
「あ!兄ちゃんは俺の手伝いな。そっち持ってくれ!」
はいはい。
カリナは皮を剥ぎ終わったオオカミから心臓をえぐり出してくっついている魔石を剥がし、ハビエルが切り飛ばした頭部を探し出しては角を切り取っている。なかなかシュールな絵面だ。
一角オオカミの角は頭蓋骨から生えている感じらしい。サイのように皮膚や毛が硬化したものではなく、シカの角のように骨の一部のようだ。
しかし、心臓に石がくっついているのか……本来ならばまともに生きられるはずもないのだが。
そう言えばゴブリンから回収した魔石は小指の爪ほどの大きさの物から親指大の物まで色々な大きさがあった。自分達で狩った獲物から魔石を回収していたにせよ、ゴブリンが狩れるサイズの生き物などそんなに大型だとは思えない。
「ハビエルさん。魔物は生まれた時から体内に魔石を抱えているのですか?魔物が成長するにつれて魔石が大きくなっていくのでしょうか?」
わからないことは知っている(かもしれない)人に聞いてみよう。
「なんだ兄ちゃん、変なこと聞くなあ?魔物が成長するって話は聞かねえな。ただ同じ魔物でも取れる魔石の大きさは違うから、何かしらの成長はしてるのかもしれん。お前さんはアルカンダラに行くんだろ?あっちにゃ長年魔物の研究ばかりしている学者さんがいるから、興味があるなら訪ねてみるといい」
なるほど。魔物を研究する機関のようなものがあるのかもしれない。
「よし!いっちょ上がりだ!次行くぞ!」
ハビエルに急き立てられるように、次のオオカミの解体に入る。
こんな感じでおよそ5分に1頭のペースで解体を続け、30枚の皮と30本の角、それに魔石を30個得た。
オオカミの魔石は透き通った琥珀色だった。
「しっかし、ちょっと休憩のつもりが、とんだ道草になっちまった!ほれ!出発するぞ!」
ハビエルがオオカミの皮を荷台に乗せる。
俺達の乗るスペースが少々狭くなったが、こっちは便乗させてもらっている身だ。文句は言うまい。
またカリナとハビエルの会話が始まる。
どうやら次の町、エルレエラまではだいたい50kmほどらしい。
早朝にスー村を出れば、馬車でなら日暮れの頃には到着する。徒歩だと途中で野宿して、次の日の昼頃に到着することになる。
今回はスー村を10時ぐらいに出発したから、道程を6割から7割ほど行った辺りで日没になるはずだった。
一角オオカミの襲撃で2時間余りロスしたから、だいたい半分辺りで野宿することになるだろうとの見立てだ。
◇◇◇
日が陰ってくるとハビエル達の口数も少なくなってきた。
そんな2人を見ていると、俺も眠たくなってきた。
さすがに先ほどの戦闘は堪えた。
自宅を守っていた時は高低差があったし、洞窟や森でゴブリン達を狩った時は一瞬でケリがついた。
今回の戦闘では俺とカリナは荷台に乗っていたとはいえ、オオカミの脚力なら簡単に飛び上がれる距離での戦いとなったのだ。
俺自身の命の危険より、知り合って間もないカリナの身の方が心配だったのは、精神年齢の差によるものだろうか。
荷馬車はガタゴトといい音を立てて進む。前方に見えていた山を左周りでかわしながら進むようだ。
うとうとしているうちに、すっかり日が陰っていた。
荷馬車がゆっくりと停まる。
「よし!今日はここで野営だ!日没までに野営の準備をせにゃあならん」
荷台を降りたカリナが辺りを確認し矢筒を背負い弓を持つ。
「ちょっと一狩りしてくる!」
そう言い残し駆け出していった。
慌てて周囲にスキャンを放つ。周囲300m圏内に魔獣の反応はない。カリナなら大丈夫だろう。
辺りは街道から少し離れた平坦な草地だ。10mほど離れた所を小川が流れ、その向こうは林になっている。カリナが向かったのは、川沿いの草地のほうだ。
小川では釣りは難しそうだから、彼女の腕に期待しよう。
ハビエルと二人で薪を拾いにいく。
しばらく雨が降っていない様子で、地面に落ちた枯れ枝は乾いている。
生えている木はカシやブナ、クヌギといった、いわゆるドングリのなる木だ。
枯れ枝を踏みつけ、簡単に折れるものを中心に集めていく。
指ほどの太さの物から手首ほどの太さの物を拾い集め、一抱えごとに野営地へ運ぶ。
薪の量が少し心許ない。太めの枯れ木のみを拾い集め、野営地へ運ぶ。
テントを張り始めると、ハビエルが声を掛けてきた。
「なんだそれ?天幕か??」
「そうです。簡単に張れて便利ですよ。ハビエルさんはどうやって寝るんですか?」
「俺か?まあ今夜は天気もいいし、オオカミの毛皮も手に入った。荷台で寝るさ。それはそうと、カリナはまだ帰ってこないか?」
そういえばそうだ。周囲にスキャンを掛ける。
有効範囲のギリギリにカリナの反応を見つける。こちらに戻ってきているらしい。
しばらくするとカリナがウサギを2羽ぶら下げて帰ってきた。
このウサギは魔物ではない、普通のノウサギのようだ。
野営地に戻ったカリナが手際良くウサギを捌いていく。
鍋に水を張って火に掛け、何やら袋から取り出した野草を刻み始めた。
見た感じはネギのようなニラのような……球根っぽい部分があるからノビルかもしれない。春菊のようにも見える葉はヨモギだろうか。
捌かれた二羽のウサギは、ぶつ切りにされ鍋に投入された。
大量に浮いてくるアクを掬いきったところで、刻んだ野草を投入し、味見をしながら塩を投入する。
「できました!ハビエルさんも一緒に食べますよね!!」
「おう!お前さんなかなか良い手際だな!感心感心!」
そう言いながらハビエルが自分の木皿とスプーンを持ってやってきた。
焚火と鍋を囲んでの夕食が始まった。
始めて食べるウサギのスープは、鶏肉のような歯応えで癖のないあっさりした味だった。
味噌仕立てにしたら旨そうと思うのは、やっぱり日本人だからだろう。
西洋風にいうなら、シチューにしても旨そうだ。
こうして野営1日目の夜が更けていった。
食事を終えたハビエルは、さっさと馬車に戻る。交代で見張りをするような気はないらしい。
もっとも普段は単独行ということだから、野営する時は寝ていないか、あるいはあっさりと寝ているのだろう。
流石にハビエルのような豪胆さはない。俺達は交代で起きていることにした。
「カズヤ、最初は私が見張りをする。先に寝ていいぞ」
せっかくのカリナの申し出に甘えることにした。
流石に眠たい。
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