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黒さんのニコニコ化学実験!編
95.硫酸と硝酸を製造する
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これでようやく化学実験用の器材が揃った。
ガスバーナーはコークスで事足りるし、アルコールは酒を単蒸留すればいい。そのための単蒸留器だ。
では早速硫酸の合成から取り掛かる。
硫酸を合成するには硫化鉄を乾留するか、硫黄と硝石しょうせきを混ぜて、ごく少量の水蒸気を吹き込みながら加熱すればよい。
「タケル。硫化鉄の乾留のほうが簡単?どこかで採掘できる?」
「たぶん火山性の鉱脈があって、水の影響が少ない場所からは採掘できると思う。落ち着いたら阿蘇山や別府で探してみるか」
だが今手元にあるのは硫黄と硝石だから、選択肢は後者しかない。
硫黄と硝石を細かく砕き、蒸留器に投入する。
もう一台のフラスコに水を入れ、蒸気取り出し口を蒸留器の原料投入口に接続する。
蒸留器の蒸気取り出し口には凝縮器を接続し、先端にはナス型フラスコを繋ぐ。
凝縮器で凝縮しなかった排ガスは、水の入ったバケツに導入され、排ガスに含まれる成分を水に吸収させる。
これで、硝石の熱分解生成物による酸素が硫黄を三酸化硫黄まで酸化し、三酸化硫黄が水蒸気に吸収されて硫酸となり、凝縮器で冷えてナス型フラスコに溜まっていく。
簡単に化学式を書いてみよう。
2KNO3 → 2KNO2 + O2
S+O2 →SO2
SO2+1/2O2→SO3
SO3+H2O→H2SO4
ここで亜硝酸カリウムKNO2 は更に熱分解して窒素ガスと酸化カリウムK2Oになる。
結果的に蒸留器の底には酸化カリウムの黄色い残渣が残っていく。
この残渣を集め水を加えると水酸化カリウムKOHを得られるが、それは後回しだ。
ナス型フラスコに溜まった液はまだ濃度の低い希硫酸。
希硫酸の濃度を上げる方法はいくつかあるが、もっとも簡単なのは単蒸留して水分を飛ばす方法だ。
ただし常圧で硫酸を沸騰させるには300℃以上に加熱しなければならず、そこまで温度をあげると水と一緒に亜硫酸ガスも放出されてしまう。
そこで、アスピレーターを使って系内を減圧とする。
アスピレーターは水流ポンプとも呼ばれるが、要は内部が狭くなったトの字型のガラス管だ。
上から下に水を通すと、水の流れが空気を巻き込む事で減圧になる。
アスピレーターの減圧容量は水量に依存し、到達真空度は水の蒸気圧が限界。
しかし吸引したガスは水と一緒に流されるため、排ガスの除害を考えなくてもいいのはメリットだ。
この減圧脱水法で、希硫酸を概おおむね60%程度までは濃縮できる。
更に濃度を上げるにはフラッシュフィルム型蒸発器やカスケード型煮詰装置が必要だが、今回はそこまでの濃度は求めない。
濃硫酸が必要になれば、硫酸に更に三酸化硫黄を吹き込んでいけばいい。
こうして、硝石2kgと硫黄300gから、濃度60%の硫酸1.6kgと酸化カリウムを得た。
酸化カリウムは出番が来るまで密閉して保管する。
とりあえず硫酸の製造とプロセス開発はこれで終わりだ。
硫酸が出来れば、次は硝酸の製造を行う。
必要な材料である硫酸と硝石で材料は揃っている。
硫酸に硝石を加え、120℃程度で蒸留すればよい。
化学式で表すと次のようになる。
KNO3+H2SO4→HNO3+KHSO4
ここでの副生成物はKHSO4つまり硫酸水素カリウムだが、今のところ用途はない。加熱しすぎると三酸化硫黄に分解し硝酸の純度を下げてしまうから、そこそこのところで蒸留残渣として取り出す。
使っている硫酸の濃度が高くないため、得られる硝酸の純度も低くなる。
そのため、純度を上げるために凍結濃縮を試みる。
硝酸の融点は-40℃程度だから、希硝酸をゆっくり冷やすと水分だけが凍結し浮いてくる。
浮いた氷を取り除けば、ほぼ純粋な硝酸が得られる。
こうして、ほぼ2日かけた化学実験は終わった。
「ところで……なんでこの硫酸と硝酸の製造に拘ったの?」
「いい事を聞いてくれた。というか説明してなかったっけ??」
「うん。聞いてない。話の流れ的にたぶん次の火薬の原料だろうと思ってはいる」
さすがは俺の腹心の黒様だ。その通りです。
「火薬には大きく分けて2種類、黒色火薬と無煙火薬があることは説明したな。黒色火薬は硝石・硫黄・木炭から製造した」
黒は頷きながら聴いている。
「次は無煙火薬の一種である綿火薬を作る。そのために必要なのはセルロースと硝酸、そして硫酸だ」
「セルロース?植物の細胞壁??」
「ああ。その認識は間違ってはいないが、里ではもっと純粋なセルロースを小夜が栽培している」
「もしかして綿花のこと?」
「その通り。綿花はほぼ純粋なセルロースだ。これを脱脂して使おう」
「脱脂ってどうやるの?」
「本来は脱色も兼ねて水酸化ナトリウムなどのアルカリ液に浸けて洗浄するらしいが、今回はそこまでは必要ない。せっかく石鹸を作ったから、石鹸で洗ってみよう」
「わかった。じゃあ綿花を貰ってくる!」
ガスバーナーはコークスで事足りるし、アルコールは酒を単蒸留すればいい。そのための単蒸留器だ。
では早速硫酸の合成から取り掛かる。
硫酸を合成するには硫化鉄を乾留するか、硫黄と硝石しょうせきを混ぜて、ごく少量の水蒸気を吹き込みながら加熱すればよい。
「タケル。硫化鉄の乾留のほうが簡単?どこかで採掘できる?」
「たぶん火山性の鉱脈があって、水の影響が少ない場所からは採掘できると思う。落ち着いたら阿蘇山や別府で探してみるか」
だが今手元にあるのは硫黄と硝石だから、選択肢は後者しかない。
硫黄と硝石を細かく砕き、蒸留器に投入する。
もう一台のフラスコに水を入れ、蒸気取り出し口を蒸留器の原料投入口に接続する。
蒸留器の蒸気取り出し口には凝縮器を接続し、先端にはナス型フラスコを繋ぐ。
凝縮器で凝縮しなかった排ガスは、水の入ったバケツに導入され、排ガスに含まれる成分を水に吸収させる。
これで、硝石の熱分解生成物による酸素が硫黄を三酸化硫黄まで酸化し、三酸化硫黄が水蒸気に吸収されて硫酸となり、凝縮器で冷えてナス型フラスコに溜まっていく。
簡単に化学式を書いてみよう。
2KNO3 → 2KNO2 + O2
S+O2 →SO2
SO2+1/2O2→SO3
SO3+H2O→H2SO4
ここで亜硝酸カリウムKNO2 は更に熱分解して窒素ガスと酸化カリウムK2Oになる。
結果的に蒸留器の底には酸化カリウムの黄色い残渣が残っていく。
この残渣を集め水を加えると水酸化カリウムKOHを得られるが、それは後回しだ。
ナス型フラスコに溜まった液はまだ濃度の低い希硫酸。
希硫酸の濃度を上げる方法はいくつかあるが、もっとも簡単なのは単蒸留して水分を飛ばす方法だ。
ただし常圧で硫酸を沸騰させるには300℃以上に加熱しなければならず、そこまで温度をあげると水と一緒に亜硫酸ガスも放出されてしまう。
そこで、アスピレーターを使って系内を減圧とする。
アスピレーターは水流ポンプとも呼ばれるが、要は内部が狭くなったトの字型のガラス管だ。
上から下に水を通すと、水の流れが空気を巻き込む事で減圧になる。
アスピレーターの減圧容量は水量に依存し、到達真空度は水の蒸気圧が限界。
しかし吸引したガスは水と一緒に流されるため、排ガスの除害を考えなくてもいいのはメリットだ。
この減圧脱水法で、希硫酸を概おおむね60%程度までは濃縮できる。
更に濃度を上げるにはフラッシュフィルム型蒸発器やカスケード型煮詰装置が必要だが、今回はそこまでの濃度は求めない。
濃硫酸が必要になれば、硫酸に更に三酸化硫黄を吹き込んでいけばいい。
こうして、硝石2kgと硫黄300gから、濃度60%の硫酸1.6kgと酸化カリウムを得た。
酸化カリウムは出番が来るまで密閉して保管する。
とりあえず硫酸の製造とプロセス開発はこれで終わりだ。
硫酸が出来れば、次は硝酸の製造を行う。
必要な材料である硫酸と硝石で材料は揃っている。
硫酸に硝石を加え、120℃程度で蒸留すればよい。
化学式で表すと次のようになる。
KNO3+H2SO4→HNO3+KHSO4
ここでの副生成物はKHSO4つまり硫酸水素カリウムだが、今のところ用途はない。加熱しすぎると三酸化硫黄に分解し硝酸の純度を下げてしまうから、そこそこのところで蒸留残渣として取り出す。
使っている硫酸の濃度が高くないため、得られる硝酸の純度も低くなる。
そのため、純度を上げるために凍結濃縮を試みる。
硝酸の融点は-40℃程度だから、希硝酸をゆっくり冷やすと水分だけが凍結し浮いてくる。
浮いた氷を取り除けば、ほぼ純粋な硝酸が得られる。
こうして、ほぼ2日かけた化学実験は終わった。
「ところで……なんでこの硫酸と硝酸の製造に拘ったの?」
「いい事を聞いてくれた。というか説明してなかったっけ??」
「うん。聞いてない。話の流れ的にたぶん次の火薬の原料だろうと思ってはいる」
さすがは俺の腹心の黒様だ。その通りです。
「火薬には大きく分けて2種類、黒色火薬と無煙火薬があることは説明したな。黒色火薬は硝石・硫黄・木炭から製造した」
黒は頷きながら聴いている。
「次は無煙火薬の一種である綿火薬を作る。そのために必要なのはセルロースと硝酸、そして硫酸だ」
「セルロース?植物の細胞壁??」
「ああ。その認識は間違ってはいないが、里ではもっと純粋なセルロースを小夜が栽培している」
「もしかして綿花のこと?」
「その通り。綿花はほぼ純粋なセルロースだ。これを脱脂して使おう」
「脱脂ってどうやるの?」
「本来は脱色も兼ねて水酸化ナトリウムなどのアルカリ液に浸けて洗浄するらしいが、今回はそこまでは必要ない。せっかく石鹸を作ったから、石鹸で洗ってみよう」
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