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婚約者編
ⅩⅡ
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呆れ顔のヴァレンティーナがそう言うとグレンが慌てて反論する。
「まだ私は若いんだよ!王位に就きたかったら私を倒してから…」
「分かったよ」
グレンの言葉に一つ頷くと徐に拳に魔力を纏い始めるヴァレンティーナを焦るジルベルトが止める。
「ティーナ!止めて下さい!!」
「ジルがそう言うなら…」
「ガクガク、ブルブル」
本当にガクガク、ブルブルしているグレンは青い顔をして擬音を発する。
「ほ~ら、グレン帰りますよぉ~」
「ほぎゃぁぁぁぁ!!」
グレンの背後の叢から突然飛び出すナルサスと本気で驚くグレン。そして、そんな絶叫に驚くヴァレンティーナとジルベルトは同時にビクッとした。
「書類が滞ってるんですよ。早く帰りますよ」
叢から出てきたナルサスは全身に葉っぱをつけたままだが特に払う事もなく、グレンの首根っこを捕まえる。
「ビックリした!やだよ!ナルサスのせいで最近、寝つきが悪いんだよ」
「昨日は、何時間寝たんですか?」
「十時間」
「寝過ぎですよ!!」
ナルサスは有無を言わせずに上司であるグレンを引き摺って、去っていった。呆然と去っていった嵐を見ていたが、話題を変えようとヴァレンティーナが口を開いた。
「そう言えば、ここには青い薔薇があるんだったね」
「え?あ、はい。見ますか?」
「ふふ。見せてくれるかい?」
「勿論です」
ストヴォール公爵家では世界で唯一、ここにだけ青い薔薇が植えられている。その薔薇はジルベルトが、まだ幼い頃に突然変異で青い蕾をつけた。幼いジルベルトが、大事に端正込めて今まで育ててきた品種だった。ジルベルトに大切に育てられた青薔薇は、その愛情に答えるように見事に咲き誇り、今では庭の一角を青く染めている。
「見事だね」
「ありがとうございます」
ジルベルトは腰に挿したままだった剪定鋏でパチンと小気味良い音を鳴らし、青薔薇を切りると棘を丁寧に取り去るとヴァレンティーナの髪へと挿した。
「似合うかい?」
「はい。とても」
ジルベルトにそう言って貰えて、嬉しくてヴァレンティーナの頬は、ほんのり色付いた。すると以前もこんな事をした事があるような気がすると既視感に襲われた。しかし、次の瞬間には記憶の彼方へと逃げてしまった。掴めそうで掴めない記憶に不快感が募るジルベルト。
「どうしたんだい?」
「以前も花を誰かに送った?」
考えていた事が口から漏れてしまったジルベルトは「しまった」と思い、ヴァレンティーナへ向き直った。が、そこには、
「!」
ジルベルトの過去の女性の影が見え隠れするような発言に怒るでもなく、泣くわけでもでもなく、ただただ青くなったヴァレンティーナが、そこにいた。
慌てるジルベルトに取り繕うようにヴァレンティーナは大丈夫だと言うが、手を取ってみると、いつも温かく心地好い体温が今は、冷たく冷えきっている。
「ティーナ?どうしたんですか?」
「…ジル、今日は帰るよ。庭を案内してくれて、ありがとう」
ヴァレンティーナはジルベルトを庭園に残したまま、足早に去って行った。立ち竦んでヴァレンティーナの足早に去る後姿にまた、記憶を喚起された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ジル………て」
小さな女の子が泣いている。
「……………僕の……」
「……殺す……」
必死に何か、言っているようだ。
「そ…………」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「!」
胸を裂かれる様な悲鳴に意識が覚醒した。白昼夢の様だったが、とてもリアルに感じた。心臓は壊れそうな程に早鐘を打ち、汗も掻いているのか、シャツが肌に貼り付いている。眉を顰め、嘆息すると着替えるために屋敷へと足を向けた。
「まだ私は若いんだよ!王位に就きたかったら私を倒してから…」
「分かったよ」
グレンの言葉に一つ頷くと徐に拳に魔力を纏い始めるヴァレンティーナを焦るジルベルトが止める。
「ティーナ!止めて下さい!!」
「ジルがそう言うなら…」
「ガクガク、ブルブル」
本当にガクガク、ブルブルしているグレンは青い顔をして擬音を発する。
「ほ~ら、グレン帰りますよぉ~」
「ほぎゃぁぁぁぁ!!」
グレンの背後の叢から突然飛び出すナルサスと本気で驚くグレン。そして、そんな絶叫に驚くヴァレンティーナとジルベルトは同時にビクッとした。
「書類が滞ってるんですよ。早く帰りますよ」
叢から出てきたナルサスは全身に葉っぱをつけたままだが特に払う事もなく、グレンの首根っこを捕まえる。
「ビックリした!やだよ!ナルサスのせいで最近、寝つきが悪いんだよ」
「昨日は、何時間寝たんですか?」
「十時間」
「寝過ぎですよ!!」
ナルサスは有無を言わせずに上司であるグレンを引き摺って、去っていった。呆然と去っていった嵐を見ていたが、話題を変えようとヴァレンティーナが口を開いた。
「そう言えば、ここには青い薔薇があるんだったね」
「え?あ、はい。見ますか?」
「ふふ。見せてくれるかい?」
「勿論です」
ストヴォール公爵家では世界で唯一、ここにだけ青い薔薇が植えられている。その薔薇はジルベルトが、まだ幼い頃に突然変異で青い蕾をつけた。幼いジルベルトが、大事に端正込めて今まで育ててきた品種だった。ジルベルトに大切に育てられた青薔薇は、その愛情に答えるように見事に咲き誇り、今では庭の一角を青く染めている。
「見事だね」
「ありがとうございます」
ジルベルトは腰に挿したままだった剪定鋏でパチンと小気味良い音を鳴らし、青薔薇を切りると棘を丁寧に取り去るとヴァレンティーナの髪へと挿した。
「似合うかい?」
「はい。とても」
ジルベルトにそう言って貰えて、嬉しくてヴァレンティーナの頬は、ほんのり色付いた。すると以前もこんな事をした事があるような気がすると既視感に襲われた。しかし、次の瞬間には記憶の彼方へと逃げてしまった。掴めそうで掴めない記憶に不快感が募るジルベルト。
「どうしたんだい?」
「以前も花を誰かに送った?」
考えていた事が口から漏れてしまったジルベルトは「しまった」と思い、ヴァレンティーナへ向き直った。が、そこには、
「!」
ジルベルトの過去の女性の影が見え隠れするような発言に怒るでもなく、泣くわけでもでもなく、ただただ青くなったヴァレンティーナが、そこにいた。
慌てるジルベルトに取り繕うようにヴァレンティーナは大丈夫だと言うが、手を取ってみると、いつも温かく心地好い体温が今は、冷たく冷えきっている。
「ティーナ?どうしたんですか?」
「…ジル、今日は帰るよ。庭を案内してくれて、ありがとう」
ヴァレンティーナはジルベルトを庭園に残したまま、足早に去って行った。立ち竦んでヴァレンティーナの足早に去る後姿にまた、記憶を喚起された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ジル………て」
小さな女の子が泣いている。
「……………僕の……」
「……殺す……」
必死に何か、言っているようだ。
「そ…………」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「!」
胸を裂かれる様な悲鳴に意識が覚醒した。白昼夢の様だったが、とてもリアルに感じた。心臓は壊れそうな程に早鐘を打ち、汗も掻いているのか、シャツが肌に貼り付いている。眉を顰め、嘆息すると着替えるために屋敷へと足を向けた。
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