ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

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第23話:エピローグ

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秋。
石の影は長く、色は深い。王宮の倉は満ち、記録は整い、噂は仕事に負けている。
輪番は緩やかに戻り、けれど透明さは残った。『側に立つ者』の印は紙にあり、鍵は正しく回る。

俺は二十になり、巡見の印は地図の上に増えた。
橋は新しく石を足し、古い水車は若い手で回る。
パン屋の新しい配合は、砂糖を控え、塩をひとつまみ。
民は笑って、冬に備える。

「殿下」

秋の光の回廊。礼儀の距離。彼は変わらない歩幅で来る。
胸甲の縁に、音を鳴らさず指を置く。『在る』。
俺は剣帯の金具に触れず、紙の端をひとつ叩く。影の楽器。
約束は、道具のようにいつでも手に取れる。派手ではないが、強い。

父上は昔の目で笑い、長兄は新しい紙を渡す。
『春の叙任にて、近衛の列に新しい名を。補詞は第三王子が』
紙は静かに明るい。
俺は短く頷き、夜に下書きを三度して二度削り、残すのは三行に決める。

光の近くで、俺は言うだろう。
『剣と盾が道を空け、人を並べ、疑いを減らした』
『記録は石。感情は結び目。どちらも、壊さないで運ぶ』
そして、最後に――
『私は、近衛騎士ナハトとともに歩く』

名を、光の近くで呼ぶ。
名を、光の真ん中で呼ぶ日も、遠くない。
そのために、石を運び続ける。橋を手入れし続ける。
走らないで追いつく、と決めた足は、もう止まり方も知っている。

夜。書斎。火は小さく、紙は静かに明るい。
しおりの革紐は、同じ色、同じ幅、同じ硬さで、今日の頁を挟む。
俺は今日の空欄に、三行。

『影の約束は、光のそばで生き続ける。
合図は減り、言葉は増え、温度は変わらない。
結び目は、ほどけない。』

窓の外、月。
三、二、一――数えない。
代わりに、唇だけで名前を呼ぶ。

――ナハト。

五歳の頃は甘く、十一の夜は祈りで、十五の冬は選ぶ音。
十八の夏至は宣言の音。
二十の秋は、静かな継続の音。
選んで、置いた。置いて、歩く。王子だから。欲張りだから。叶えるために。

俺はお前が好きだ。
光の真ん中で、影の外で、同じ歩幅で。
砂糖は控えめに。塩をひとつまみ。
そして、頁を閉じるたび、同じ結び目に指を触れる。
次の頁は、ふたりで開く。
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