お隣さんがパンツを見せろと言うからプロ意識を持ってそれに応える

サトー

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恋人

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「あれ、鈴井さん、なんか疲れてる?」
「……だ、誰のせいだと思ってるんですかっ!」

はは、と生田さんはなんだか嬉しそうで、それに対して妙に腹が立ったし、なんてマイペースな人なんだろう、と恨めしく思った。
こっちは生田さんが戻ってくるまでに気合いで気持ちを落ち着かせたと言うのに。

生田さんが側に座るとなんだか、落ち着かない。
「今日はエッチなことをされなかった」という考えが頭を過る。やめろ、と頭をブンブン振る。こんなことを考えるなんてどうかしている、全部、抜いてないのが悪い……、必死で自分に言い訳をした。

「鈴井さん、様子がおかしいけど、どうしたの?」
「いえ、べつに……どうぞお構い無く…。そうだ、今日はこの後どうしたらいいですか?まだ全然時間がありますけど……」

そう質問しながらなんだか自分がドキドキと緊張していることに気が付く。
さっき、興奮状態だったのを落ち着かせたばかりなのになんで?と自分でも不思議だった。

「……ああ、適当に話しでもしてくれればそれでいいよ。鈴井さんはゲームをしててもいいし」
「……分かりました」

「いい」とは言われても、さすがに、二万円も貰っておいて生田さんを放置して好き勝手にゲームをするわけには行かないので、お話をすることにした。

「あの、今日はあれで満足出来たってことですか……?俺、何にもしてないのに、お金を貰ってもいいんですか?」
「もちろんいいよ」

生田さんは上機嫌だった。心なしかスッキリした顔をしているようにも見える。
俺だったら二万円も払っているのに、自分のオナニーをチラッと見せただけで終わりなんて絶対嫌だけどな…と思ったけど、生田さんは涼しい顔で済ましている。
「勿体ないことをした」という後悔は一切感じられなかった。

「……なんだか、リンちゃんといた頃を思い出したよ」
「えっ……」

リンちゃん。ずいぶん久しぶりに耳にする名前だ。俺が生田さんに雇われるきっかけになった、生田さんの元恋人。

「……前にリンちゃんの部屋で、リンちゃんがプレステで遊んでる時にムラッと来たんだけど、『はあ?知らないよ。横で勝手に抜いてりゃいいじゃん』って言われたことがあって」
「えっ……。それで、どうしたんですか?」
「……そういうのも悪くないなと思って、リンちゃんの横顔を見ながら抜いたら、『やだー、ほんとに抜いたのー? キモ』って、呆れられたよ」
「よく、そこまで雑に扱われても平気でいられますよね……」

 生田さんは「いや、逆に興奮するよ」と不思議そうにしていたけど、それって彼氏と彼女というよりも、女王様と犬、或いは下僕じゃん……、と俺は引いていた。まさか、踏まれたりして喜んでないですよね、と軽い気持ちで俺が聞くと、生田さんは苦笑いを浮かべた。

「何回土下座して頼んでも『やーだよ。めんどくさい。さっさとシコって寝な!』って怒鳴られたよ」
「うーわ……」

 リンちゃんはマジの女王様だ、と頭の中で女みたいに綺麗で迫力のある美女を勝手に想像した。もう前みたいに号泣することは無いけど「……みんなに優しいようで、誰にも優しくないのがリンちゃんの魅力だから」と力説する生田さんは、まだリンちゃんのことが忘れられていないみたいだった。


「えっと……」

一度会話が途切れると、その後、何を話題にしていいのかが分からない。「……俺なんかと話せと言われても、困っちゃうよね」と生田さんも気まずそうにしている。
ヤバい、と焦った。世の中には初対面であろうと、客を退屈させないために、楽しい会話を提供している人はいくらでもいる。
美容師やバーテン……行ったことはないけど、キャバクラやホストクラブの人もそうだ。
プロには到底及ばないだろうけど俺も、そういう努力をしなきゃ、と慌てて「お仕事は?」と定番の質問をした。

「……エレベーターを開発してる」
「えっ?本当に?エレベーターの開発って?」
「集めてきたデータを基に、振動や騒音がより少ない製品を考える仕事」
「すっごーい!えっ、というか、エレベーター作ってるのに、こんなエレベーターがないマンションに住んでるんですか?」

うん、よく言われる、と生田さんは、はにかんだように笑った。「なんで、エレベーターがないところに住み続けてるの?」と今まで何度も聞かれてきたのか、ここはRCの打ちっぱなしの外観が気に入って入居したから、と慣れた口調で淡々と生田さんは説明した。

「生田さんの力でエレベーターを付けることって出来ません?」
「うーん……ちょっと無理かな」
「えー…そんなあ……。俺も手伝いますから」
「ははは」

生田さんが笑うから俺も笑った。生田さんと話すことの中心と言えば、「今日はどこをどういうふうに触らせて欲しい」とかそういう内容ばかりだったけど、普通に何気ないことを話してみると、思っていたよりも楽しかった。

「生田さん、趣味とかありますか?好きな音楽やスポーツ、漫画とか……俺も、一生懸命覚えてきてお話出来るようになりたいです」
「趣味ね……そうだな……。今の趣味は鈴井さん」
「えっ」
「……鈴井さんと会う以外はひたすら、仕事と家の往復。……リンちゃんもそうだったけど、可愛い人や綺麗な人にお金を渡して会っている間は、非日常が感じられるから楽しい」

なんとなく、生田さんが忙しいであろうことは知っていた。
朝は早くに出勤しているようだし、俺がピザ屋のバイトから22時過ぎに帰ってきても、生田さんの部屋の電気が暗いのを何度か目にしたことがある。
仕事に追われる忙しい日々の楽しみになっているのはプレッシャーに感じられるけど、「楽しい」と言ってくれるのは嬉しい。
生田さんが喜んでくれているようだし、いろいろ調べたり禁欲したりしてる、俺の努力も浮かばれる……と、安心出来た。

「鈴井さんのことを聞きたいけど、今日はもう時間だから。どうもありがとう」

俺のことを聞きたがってた、と帰ったらメモしようと思いつつ「お邪魔しました」と頭を下げた。
生田さんに見送られながら、玄関先で靴を履いている最中に、ずっと思っていたことを、ふと尋ねてみた。

「生田さんって新しい彼女を作らないんですか?」
「彼女……」
「あ、生田さん、まだ30歳なんだし、勿体ないなと思って。結婚とか……」

 生田さんに恋人が出来ちゃうと、たぶん俺はクビになるだろうけど、いつまでもダラダラと続けるよりは、ある程度の期間を決めていた方がお互いのためになるような気はした。
生田さんは、俺の顔を凝視した後「そうだった」と頷いた。

「そうだな。アプリで探してみようかな……。じゃあ、鈴井さん、彼女……恋人が出来るまでの間はひとつよろしく」
「はいっ! 素敵な彼女が見つかるといいですね」
「どうかな……俺は理想が高いから」
「そんなに? どんな人が好きですか?」
「……それはちょっと、言いたくない」
「なんで?芸能人とかスポーツ選手だと、誰がタイプですか?」
「うーん……」

 嫌そうにしていたけど、しつこく聞いたら、最終的にやっと聞き取れるくらいの小さな声でボソッと「……リンちゃん」と返ってきた。
 やっぱり、まだ好きなんだ……と苦笑いしつつ「じゃあ、リンちゃんに似てる人が見つかるといいですね」と励ましてから帰った。
 生田さんは性癖が独特ということを除けば、顔はまあかっこいいし、定職にも就いている。きっと、新しい恋人はすぐに見つかるに決まっていた。


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