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【番外編】鈴井さんの初体験(2)
しおりを挟むその日は生田さんと駅で待ち合わせてから、オイスターバーという所へ連れて行って貰えた。
正直に「カキフライでしか食べたことがないです」と言ったら、生牡蠣も蒸し牡蠣もたくさん食べさせて貰えた。すごく美味しくて、ビックリした。
「生田さんも、いっぱい食べてください」
「食べてるよ?」
「もっと、いっぱい食べてください!」
「鈴井さん……?」
生田さんは油断したら、なんでもすぐ俺に与えようとする。俺だけ精力がついても意味がないから、たくさん食べて貰った。
アルコールは飲まないつもりだったけど、なんだか生田さんが一緒に飲みたそうだったから、ほんの少しだけビールを飲んだ。
宿泊する場所はてっきりラブホテルだろうと思っていたら、ラグジュアリーホテルだったからすごくビックリした。
もう20時を過ぎているし、明日の昼前にはチェックアウトしないといけないのに、こんなに高そうな所に泊まってもいいんだろうかって、なんだか勿体なく思えた。
生田さんがチェックイン専用カウンターで椅子に座って手続きをしている間、ロビーで待っているように言われたから大人しくそうした。
考えすぎなのかもしれないけれど、部屋は一つしかとってないのに、チェックインの手続きの時に二人でいたら、なんだかいかにも「僕達、デキてるんです」とホテルの人へ言ってるみたいだ、と思っていたから少しホッとした。
本当はこんなこと思うべきじゃないし、俺がお願いして連れて来て貰ったのにすみません、と生田さんに申し訳なかった。
生田さんの連れが女の人じゃなくて、俺だということに対して、ホテルスタッフの女性は顔色一つ変えずに部屋まで案内してくれた。
この人は、全ての宿泊客にそう接しているんだろうな、と感じられる笑顔と上品な喋り方だった。
向こうはきっと仕事でそうしているんだろうけど、それだけでなんだか安心出来た。
部屋のドアが閉まって生田さんとようやく二人きりになった時、ものすごく緊張していて、心臓がバクバクとすごい速さで鳴っているのに気が付いた。
「すごい……こんな所に泊まるのはじめてです……」
そうなんだ?と返事をしてから生田さんは、俺をまじまじと見つめた。
たぶん、俺の顔が緊張で強張っていることに気付いているようだった。けれど、ほんの一瞬困った顔をしただけで、特に何もしてこなかった。
「大丈夫」と安心させる目的であったとしても、「果たして触っていいんだろうか?」と迷っているみたいだったから、自分から生田さんの手をそうっと掴んだ。
「あの、こんなにすごい所へ連れて来てくれて、ありがとうございます……」
「……うん」
やっぱり40平米程度だと狭いね、と言われても、どこが?としか思わなかった。
何サイズなのかよく分からないくらいベッドは大きいし、家具は全部モダンで高級感がある。
「本当はリビングルームとベッドルームに、それぞれベッドやテレビがあるような部屋が良かったけど……」
「えっ!?なんでですか?どうせベッドは一台しか使わないのに?」
「…………うん」
すごいすごい、と部屋をチョロチョロしているだけで楽しかった。
なんで、こんなに高い所に連れて来てくれたんだろう、初めてセックスするから?と思うと、気恥ずかしくて、一ヶ所にじっとしていられなかった。
「……鈴井さん」
「わっ!」
冷蔵庫とミニバーを覗いていたら、ニュッと現れた生田さんに後ろから腕を掴まれたからすごくビックリした。
「何か飲みたいの?」
「あっ、いえ、何が置いてあるか見てただけです……」
「……鈴井さんに、飲んで欲しいものがあるんだけど」
「俺にですか?」
なんだろう?と首を捻っていると、生田さんが小さな瓶を差し出してきた。
とりあえず受け取ってから、手の中でよく観察した。色は茶色で、よくある栄養ドリンクの瓶にソックリだ。
ただ、ラベルが貼られていないから、中に入っている液体がなんなのかはさっぱりわからない。
「なんですか?これ……」
「ああ……。飲んだら、セックスが気持ちよくなる薬」
「えっ……」
生田さんから答えを聞いた瞬間に、ゾッとして、軽々しく受け取ってしまったことを心から後悔した。
「……絶対、違法薬物ですよね?」
「鈴井さん、違うよ。普通にドラッグストアで買ったものだよ。俺が、そんなもの手に入れられるわけがない」
「……ほんとに?ラベルも貼られてないし、すごい怪しいんですけど……。
生田さん、俺、逮捕されるのはほんとに嫌です、怖い……」
「……鈴井さん、蓋を見て。ちゃんとした会社のものだから」
確かに、アルミで出来た蓋には大手の製薬会社の名前が入っている。ちゃんと未開封ではあるし、めちゃくちゃ怪しいけど「ドラッグストアで買った」というのは本当で、俺が想像しているような違法なものでは無さそうだった。
生田さんが「騙されたと思って飲んで欲しい」としつこいから、開封しておそるおそる匂いを嗅いだ。
栄養ドリンク特有の甘い匂いがする。
迷ったけど、生田さんが無言の圧力で「飲んで」というプレッシャーをかけてくるから、ほんの少しだけ口に含んだ。
「…………普通だ」
「鈴井さん、そりゃそうだよ。まさか俺が本当に怪しいものを手に入れられるとでも?」
「……売人に土下座したのかと」
俺が牡蠣を食べさせたのと同じように、生田さんも精力剤でも買ってきたのかもしれない。
俺の考えすぎかな、と思いつつ半分くらいは飲んだ。
「……生田さんも、飲んで?」
「……鈴井さん、これは……一人で全部飲まないと効かないんだ」
「……そんなことってあります?」
「うん」
飲みきるまで生田さんが俺の側を離れそうになかったから、思い切って全部飲み干した。
急に全身がムズムズするとか、火照るとかそういうこともなく、どこも変わりは無かった。
「生田さん、飲んだけど何の変化もないですよ?」
「……鈴井さん、こういうのは効果が表れるまでに時間がかかるから」
「本当に?なんか全然信じられないんですけど……。
だいたい、あんなドリンクでセックスが気持ちよくなるなんて、そんなこと……あっ…」
捲し立てるように喋っていたのに、「そうだ、これから生田さんとセックスするんだった」ということを思い出してしまった。
場所が場所だからなのか、付き合ってない時から散々いやらしいことをしてきたのに、なんだか急にドキドキしてきた。
俺はこれからお風呂に入っていろいろと準備があるけど、この前みたいに一緒に入ることになったら出来ない……どうしよう、と困っていたら、「鈴井さん、ゴメン。先にシャワー使う」と生田さんはサッサとバスルームに行ってしまった。
生田さんが戻ってきてから、交代でバスルームに向かおうとしたら生田さんに「大丈夫?」とだけ聞かれた。
自分で出来る?大丈夫?と言う意味でそう言ってるんじゃないかと思えたから、黙って頷いた。
ネットで調べた通りの方法で、キレイにした。
「……大丈夫だった?」
「…………はい」
頷きつつも、毎回こんな準備があるなんて大変だ、とは思っていた。
生田さんは「少し休もう」とベッドで横になるよう促してきた。
口には出していないけど、少し休憩したいと思っていたから有り難かった。
そのまま、横になっていつもみたいに話をした。
生田さんは免許は持っているけど、ペーパーだと言っていて、車にはそれ程興味は無いのかもしれないけれど、いつも学校の話をたくさん聞いてくれる。
今日は、学校で友達の車をいじらせて貰ったのが楽しかったから、「俺も車が欲しい」と、深く考えずに言ったら「今すぐ買う」と生田さんが言い出したからすごく焦った。
「本当にいらないです。いつか、自分で買うから大丈夫です!」
「搾り取って欲しいのに?」
「……お、お金は今はちょっと……。あの、今はいっぱい愛して貰えて幸せだから…」
照れ臭かったけど、こうでも言わないと生田さんがトヨタやニッサンのディーラーへ行って「すみません、20代男性に一番売れてるやつをください」と車を買ってきてしまう。
生田さんは「うん」と頷いた後、大人しくなったから車を買い与えることは諦めてくれたようだ。
俺が欲しい、って言ったらすぐ買おうとするから気を付けなきゃ、と反省している時だった。
「……鈴井さん、薬効いてきた?」
「あっ!」
飲んだことすら忘れてました……とは言えず「よく、わかんないです」と答えた。実際、そうで飲む前と変わったところは一つも無かった。もう30分以上経っているし、即効性がないとは言え、いくらなんでも遅すぎる気がした。
「ほんとに……?変な感じしない?さっきから、ずっとモゾモゾしてるけど」
「うひゃっ!……モゾモゾ、は、別の理由です…あっ、ちょっと、だめ……」
着ているものを捲り上げられて、裾から手が入ってくる。乳首を撫でるように触られて、くすぐったい。
「……これ、脱ごっか」と生田さんの手で、服がどんどんずり上がってくる。
「し、下も…?」
「もちろん」
「あの、待ってくださいっ!」
手を掴んで制止すると、俺に嫌がられていると思ったのか生田さんは、ほんの少し驚いたようだった。
「あの、嫌とかじゃなくて、脱いだら……ひ、引かれるかも……」
引くって?と不思議そうな首を傾げた後、生田さんは「……ケガ?」と心配そうな声で尋ねてきた。
「ケガじゃなくて、えっと……」
どうしよう、恥ずかしい。でも、脱がないとセックス出来ない。きっと、今、俺の顔は真っ赤だし、生田さんにはジロジロ見られている。
散々迷って、生田さんにも待って貰って、ようやく服を脱ぐ決心が着いた。
「あの、絶対引かないでくださいね」
「うん……?」
布団で下半身を隠しながら、身に付けていたものを脱いだ。ホテルオリジナルだという部屋着は肌触りが柔らかくて気持ち良かった。
雑に扱うことも出来ず、一応キチンと畳んだ。
その間も生田さんの視線はずっと感じていた。
「……い、生田さん本当に引かないでくださいね」
そうお願いしてから、そうっと布団を捲った。
「……これは」
生田さんはそう言ったきり黙ってしまった。
……絶対に絶対に履きたくなかったけど、喜んで貰えるかと思って、シャワーの後、この前貰ったビキニパンツに着替えていた。
どう考えても、俺には似合っていないし、布の面積が小さいし、小さいパンツに慣れていないから、履いてからずっとしっくり来なかった。
ほんのちょっとでも足を開いたりしたら、見られたくないところが見えそうな気がして、しばらくバスルームから出られなかった。
「あ、あんまり、見ないで貰えますか?恥ずかしくて……」
「うん……」
うん、と言いつつ一切目が合わないし、どう見ても生田さんの目は俺の下半身を見ている。
「すごい……」
「あっ、触らないで。くすぐったいです……」
太ももを指先で撫で回される。触られた足全体にゾクゾクとした感覚が走る。
「すごい。顔を埋めたい……」
「えっ!?」
「鈴井さん、ありがとう……」
「うん……」
「……ちょっと四つん這いになってくれないかな」
「えっ?!……うーん、そういうのはちょっと……」
「お願い。本当に、一生のお願い」
いつものように土下座する、とは言わずに血走っているギラギラした目で迫ってくるのが、かえって本気っぽかった。
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