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【番外編】鈴井さんの初体験(1)
しおりを挟む付き合い始めてからの生田さんは、なんだか張り切っている。
まず、部屋のシングルベッドがダブルベッドに買い換えられていた。
単身用の狭い部屋は、ほぼベッドに占領されてしまって、生田さんの部屋のベッドでしょっちゅうくつろいでいる俺でさえも、「果たしてこの部屋はこれで正解なんだろうか?」と首を傾げたくなる程だった。
「どうして、買い換えたんですか?」
「ああ…。狭いと鈴井さんも集中出来ないかな、と思って」
集中って?何にですか?とも思ったけど、だいたい予想はついたし、「なんだと思う?鈴井さんの口から言ってみて」と言われそうだから、あえて聞かなかった。
……このベッドって、俺と寝るために買ったんだ、と思うと見ているだけで恥ずかしい気持ちになる。
「……鈴井さん、顔すごい赤いけど大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
「ちょっと、おいで…」
「えっ、あの、駄目です……生田さん、ちょっとって言って、いっつも嘘つくから……あっ、駄目だってば、あ……」
……やっぱり「ちょっと」というのは大嘘で、下に履いてたものを全部脱がされて、生田さんにしゃぶられた。
嘘つき、と俺が怒っても「違う、ちょっとフェラチオさせて、って意味だったんだ」と生田さんは惚けるばっかりで、全然堪えていなかった。
「鈴井さん、明日も学校とバイト?なんか、俺よりも鈴井さんの方が忙しい気がする」
「……明日は学校の後、夜までピザ屋です。また、会える時、連絡します……」
朝が早いから、という理由で生田さんの部屋からそそくさと帰った。
……付き合うようになってからは、当然生田さんに雇われなくなったわけで、収入がすごく減ってしまった。
それで、ピザ屋のバイトに行く時間が増えてしまって、せっかく付き合ってるのに生田さんになかなか会えない。
「はあ……」
部屋でルーズリーフを開きながら、もう何度目か分からないため息を吐いた。
下手くそな字で「水溶性ローション」と「シリコンオイル系ローション」とメモしてある。
男の人とセックスをする時に必要なものを調べてみたら、コンドームとローションは必須だということが分かった。
水溶性ローションは水に溶けるからシャワーで簡単に洗い流せるけど、乾きやすい。
シリコンオイル系ローションは、乾きにくくてセックス中に付け足しはいらないけど、シャワーでなかなか洗い流せない。
一応、日本では水溶性ローションの方がメジャーとあった。
さらに調べたら、同じローションでも商品によって、コスパが良いとか、ポンプ式で使いにくいとか、コラーゲン入りとか、オーガニック成分で出来ているとか、いろいろな違いがあって、ますます分からなくなった。
俺って本当に無知だったんだなあ、と思いながら、一生懸命勉強した。
それで、すごくドキドキしながらネットで注文した。
「買ったけど、そもそも使う機会はあるのかな……」
……生田さんは張り切っているようなのに、なかなかセックスをしてくれない。
休みがあえば生田さんの部屋には行っている。
今まで以上にいっぱい甘やかしてくれるし、親切にしてくれる。
生田さんは買ってきたアルフォートやシルベーヌといったお菓子を俺に「あーん」して食べさせたり、一緒にテレビを見ている時に可愛い犬の映像が流れると「鈴井さんに似てる」と言ってきたりする。
そういう時、たいてい俺は、なんだかむず痒いような、すごく照れ臭い気持ちになる。
もちろん、「ちょっとオナニーしてるとこ見せてくれる?」、「鈴井さん「美味しい」って言われるのと「美味しくない」って言われるの、フェラチオ中どっちがより興奮するかを確かめたいんだけど……」という別の意味で恥ずかしいことも言われる。
最近一番ビックリしたのは、プレゼントだと言って、俺にパンツを買ってきたことだ。
なんでビックリしたかと言うと、いつも履いているようなボクサーパンツじゃなくて、すごく小さいビキニパンツを贈られたからだ。
「なんですか、これ!?」
「ああ……前に、スケスケは絶対嫌だって言ってたから」
「ええ……。生田さん、違うんです!俺は、エッチな下着を履くこと自体が嫌なんです!」
どうしてスケスケが駄目なら、別のエッチな下着ならイケるかもしれない、という発想になるんだろう、と引きまくっている俺を眺めながら「怒ってる?可愛いな…」と生田さんはデレデレしていた。
「いらないです、本当に本当にいらないです」と何度も断ったのに「鈴井さん!履かなくてもいいから!俺が鈴井さんにエッチな下着を渡したという事実を残すためだけに受け取って欲しい!その事実が充分オカズになるから!」と土下座しながらしつこく言われて、渋々受け取った。
生田さんは、変なことばっかりひらめく割にはセックスをなかなかしたがらない。
付き合い始めてからは、キスをしたり、手と口でお互い相手を気持ちよくさせたりはしているけど、絶対に挿入してこようとはしなかった。
何度かすごく恥ずかしいのを我慢して「入れる?」と俺の方から聞いてみたことはあるけど、「うーん…」と困った顔で言われるばかりだ。
一回だけほんの少し指を入れられたことがある。
生田さんは、俺の尻をあちこち確かめるようにして触った後、「……なるほど」
と呟いて、それであっさり指を抜いてしまった。
なるほどって、なに?!と困惑した。
それからは、何も進展がない。
俺は、いつそういうことがあってもいいようにネットでいっぱい調べていると言うのに、なんだか寂しい。
前にラブホテルに行った時は「入れたくなる」と言っていたし、一応挿入してみたいという欲求はあるのかもしれないけど、もしかしたら遠慮しているのかもしれない。
俺はしてみたいけど……「入れる?」と聞いても分かってくれないし、どうやったら伝わるんだろう?生田さんみたいに土下座するしかないのかな…?嫌だな…と思いながら、「生田さんとのセックス」について、一人で悶々と考えていた。
数日後に、生田さんの家に遊びに行った。
……はじめて一緒にお風呂に入った。
湯船に浸かってたら変なところばっかり触ってくるから……それで、俺も欲情してしまって、生田さんにしがみつくようにして何度もキスをねだった。
温かくて、気持ちよくって夢中になりすぎて、ほんの少しのぼせてしまって、生田さんにすごく心配された。
「……鈴井さん、大丈夫?ごめん……」
「大丈夫です。俺、すごく暑がりで、すぐのぼせちゃうみたいで……すみません……」
水を飲まされてから横になって休んでいる間、生田さんはずっと側で心配そうにしていた。
「……生田さん」
「うん?」
「……あの、お風呂で迷惑かけたうえに、甘えてもいいですか?」
「……もちろんいいし、迷惑とは思ってないよ」
「…………あの、出来れば今度、前みたいに外へ泊まりに行きたいです」
「いいよ」
もっと早く頼めば良かった、と後悔してしまうくらい、あっさりオーケーされた。
「鈴井さん、何が食べたい?肉?」
「う、鰻か牡蠣……」
「お、いいね」
今の時期だと牡蠣かな、冬の鰻はいいって人もいるよね、どう思う?とウキウキしている生田さんに、適当に話を合わせながら相槌を打つ。
本当はカキフライよりエビフライの方が好きだし、同じお金で鰻を食べるなら肉が食べたい。
じゃあなんで、生田さんにリクエストをしたかと言うと、「精力 食べ物」で検索をしたら、「セックスにいい食べ物」として紹介されていたからだ。
「……鈴井さん、ぼーっとしてるけど大丈夫?まだ、しんどい?」
「大丈夫です……」
俺はいったい何を調べているんだろう、すごく下心があるみたいだし、なんかこれじゃあ、俺、生田さんみたい……と勝手に失礼なことを考えている間も、生田さんは嬉しそうにスマホで何か調べものをしていた。
お互いの都合のいい日を確認したら、一番近くて明後日ということが分かって、生田さんが「じゃあ、思い切ってホテル予約する」と言ってくれてすごく嬉しかった。
「あの、生田さん……」
「うん……?」
住所や電話番号と言った、予約者情報を入力しているのか、生田さんはスマホから顔を上げなかった。
その様子を確認してから、言うなら、今しかない、と思った。
「……あの、生田さん、俺、最近、ローション買いました。すみませんけど、コンドームはお願いします……」
生田さんに「鈴井さん!?」と名前を呼ばれたし、何か話しかけられたけど、じゃっ、お邪魔しましたっ!と逃げるようにして部屋を出た。
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