お隣さんがパンツを見せろと言うからプロ意識を持ってそれに応える

サトー

文字の大きさ
39 / 47

しおりを挟む

 鈴井さんと交際出来るようになって迷わずに頼み込んだのは「なるべくたくさん写真を撮らせて欲しい」ということだった。

 今までは契約上、写真・動画といった撮影は一切禁止だったため何度も「こんなに可愛い顔で拗ねるなんて反則だろ……!」「ああ……、なんて可愛い笑顔なんだろう……!」と写真に残したくなるよう瞬間を目の前にしては涙を飲んでいた。

「写真……? えっと、少し恥ずかしいです……、俺ってきっと生田さんといる時は変な顔ばかりしているから……」
「変な顔だって……? 毎秒どの角度を切り取っても可愛いのに……?」

 前々からなんとなく感じてはいたが、鈴井さんは自分の容姿にほとんど関心がないらしく「もっとかっこいい人はいっぱいいる」という評価をくだしている。高校も専門学校も女子はほとんどいなかったと言うから、たぶん多数の異性からの「かっこいい」という評価が届きにくい環境にいたことが関係しているのかもしれない。

 変な顔について詳しく聞いてみると、「あの、生田さんから、可愛いとか好きだよって言われてすぐに赤くなったり、嬉しくてニヤニヤしたりしているから、きっと俺の顔はいつだってヤバイことになっていると思います」ということだった。……あまりの愛らしさに「鈴井さんという可愛い存在は、俺の脳が作り出した幻なのではないかと本気で疑った。鈴井さんから「生田さん、戻ってきて~」と言われなければそのまま幻想の世界へ取り込まれてしまっていただろう。


「それにしても可愛すぎるな……」

 まだ付き合って二週間と少しだというのに、もう整理が必要なほど大量の鈴井さんの写真を入手してしまっている。「撮るよ」と声をかけて笑顔を向けてもらえるのもいいが、カメラを意識していない表情もそれはそれで自然体で可愛い。

 アングルやポジションへのこだわりについて解説しながら撮った写真を鈴井さんと眺めたいが、本人は「撮りすぎです」「いやだー」と恥ずかしがって逃げてしまう。だから、時々、データを整理していると「この写真……モデルももちろん最高だけど、撮った人間の腕もいいな……。モデルの良さを千パーセント引き出してる……」と自分で自分のカメラの腕に感心している。

「ふう……」

 テレビを観ながら眠ってしまった顔や、ドーナツを「おいしい!」と嬉しそうに頬張っている顔の全部が可愛い。この子はどうしてアイドルにならなかったのだろう? と首を捻りたくなる程だった。

 ◇◆◇

「アイドル? 俺が?」

 テレビを見ている鈴井さんに先日思ったことをそのまま伝えてみたが、本人は「絶対ありえないです」と否定をするのに一生懸命だった。

「どうして? テレビに出ているアイドルに負けないくらい可愛い顔をしているし、明るくて真面目で頑張りやだから、鈴井さんはきっと人気者になっていたと思うよ」
「そんなことを言ってくれるのは生田さんだけです……」

 さっきまで二人でショッピングモールまで買い物へ出掛けていたが、すれ違う若い女の子がチラチラと鈴井さんのことを見ていたような気がする。当の本人はその視線を一切意識せずに、ふらっと立ち寄ったアミューズメントコーナーで「あ~、これ絶対獲れないやつだ」と、クレーンゲームの景品を熱心に覗きこみ、欲しいものがないか聞くと「一階で売ってるパンが欲しいです」とニコニコしていた。
 しかも、「えっ、デニッシュもカレーパンもカツサンドも買っていいんですか? こんなにたくさん嬉しいです、ありがとうございます」と店ごと買い取りたくなるような可愛い喜び方をする。コンサートでゴンドラに乗ってはしゃぐアイドルの笑顔にも輝きは負けていない。こういった容姿以外の、素朴で可愛い一面を知られてしまえば、その度に千人単位で鈴井さんのファンは増えていくだろう。

 頭の中ではキラキラした衣装を着た鈴井さんがステージの上で客席に手を振っている姿が容易に想像出来る。きっとSNSでは「シンプルに顔がいい」「マナト、今日も初恋ビジュすぎ」と毎日大勢のファンによって呟かれることだろう。

 ただ、そうなってしまうと、そもそも俺は鈴井さんとは出会えないという問題が出てきてしまう。出来るとすれば、アイドルの鈴井さんの応援に給料の全てをつぎ込み、毎日鈴井さんの公式インスタグラムに「事務所の人には内緒で口座番号を教えてください」とダイレクトメッセージを送り続けることぐらいだろう。全てのイベントへの出入り禁止・SNSのブロック、という未来が見えたところで「あの~……」と鈴井さんに顔を覗きこまれた。

「……ん?」
「あ、よかった、戻ってきてくれて……」

 家に戻ってくつろいでいると、鈴井さんがふと思いついたように言った。

「あの、一緒にお風呂に入りませんか? 俺、準備してきますね」

 恥ずかしかったのか、逃げるようにして風呂場へ向かう鈴井さんの後を追いかけた。見られて困るような物は全て隠しているが、万が一ということもあるからだ。

 遠出で二人とも体力を消耗しているため、湯船に浸かってゆっくりしたいということになり、鈴井さんに入浴剤を選ばせた。「これがいいです」と選んだ泡風呂を、「俺がやりますね」と鈴井さんが準備について引き受けてくれた。慣れた手つきで湯をかき混ぜて泡に空気を含ませる鈴井さんに「上手だね」と声をかけると「ああ」と得意気に頷いて見せた。

「時々入ってたんで」
「ほお……。誰と?」
「えっ!? な、内緒です……」

 誰と入っていたのか聞かれただけで、あたふたする様子は、ほぼほぼ「前の彼女とです」と言っているようなものだった。

 鈴井さんは仮にアイドルになっていたとしたらぽろっと彼女がいることを明かしてしまうタイプのような気がする。

 取材で「理想のデートは?」と聞かれれば、本人は良かれと思って「横浜の方までドライブへ行くのが好きです。車の運転も好きだけど、横に彼女がちょこって座っていると思うとそれだけで嬉しい(笑)助手席に座った時に女の子がミニのワンピースの裾を直してるのがすごく可愛いなあって思うんだけどわかる人いるかなあ~」等と事細かに答えてしまいそうな危うさがある。

 全部が想像なのにも関わらず俺にはSNS上で大勢のファンが「マナトのインタビュー、あれはどう見ても理想じゃなくて実体験。正直すぎて草」「わかってはいたけど、この世にマナトの助手席に乗った女性が存在することがつらすぎるよ……」と動揺している未来まで見えてしまった。

「生田さん?」
「……やっぱりデビューは危なっかしいか……」
「へえ?」
「なんでもない。早く入ろうか」

 危なっかしいところも含めて可愛いし、女性といる時の鈴井さんを想像すると普通に興奮する。鈴井さんは「どうして笑っているんですか?」と怖がっていたが、なんでもないよと宥めながら二人とも服を脱いだ。


 一緒に入浴、というイベントでは「あんまり見ちゃダメです」と恥ずかしがる鈴井さんを拝むことが出来たし、なんというか、明るい風呂場で見る平たい尻は、瑞々しくてエッチだった。

「……ふう。こんなに可愛い鈴井さんを俺が一人占めして本当にいいんだろうか……。鈴井さんの可愛さを広く知ってもらった方が社会全体の利益にはなるけど、そしたら一緒にいられなくなるし困ったな……」

 泡風呂と鈴井さん、という可愛さを飛び越えてあざとささえも感じられる組み合わせの威力はすごい。あまりの可愛さに架空の未来の心配事について頭を抱えていると、鈴井さんがくすりと笑った。

「社会全体? の利益のことはいいんです。俺のことは生田さんが一人占めしてください」

 恥ずかしそうにしながら、可愛いことを言う年下の恋人に対してどうリアクションするのが正解なのかわからずに固まっていると、照れ隠しなのか「いひ」と笑いかけられる。その笑顔を見て頭に思い浮かんだのは「沼」という一文字だった。

「い、いいのかな……、俺のような人間が……」
「うん。生田さんがいっぱい喜んでくれたり、笑ってくれたりすることが、俺は一番嬉しいです」
「……ありがとう」
「ううん……、俺がそうして欲しいって思っているから……」

 ぴったりと身体を擦り寄せてくる鈴井さんを後ろからおずおずと抱きしめる。こんなにいい子なんだからやっぱり鈴井さんは有名になった方が、たくさんの人を幸福に出来るんじゃないだろうか。そう思いながらも、胸が苦しいと感じる程嬉しかった。

 今まで「一人占め」とは無縁の人生を送ってきたため、どう返事をしたらいいのかもわからない。それを察してくれていたのか、鈴井さんは「言ってから恥ずかしくなってきました」と明るく笑った。この子は俺にとっての沼なのだと確信せずにはいられなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...