幼馴染みが屈折している

サトー

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【その後】幼馴染みにかえるまで

信じる時間(2)

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「本当に一回で終わるから」
「うーん……」
「俺がルイとの約束を破ったことある?」
「……あるよ」
「あるかあ」

 本気なのか冗談なのかわからないやりとりに、俺もルイも笑った。考え込んでいるようで、やっぱりどこか面白がっている。俺がこんなにダサくなってしまうのはルイの前だけだと言ったら信じてくれるだろうか。

「セックスしたいって思うくらいには、ちょっとずつ元気になってる?」
「うん。……というか、ソッチの意味で元気なのはルイがよく知ってるでしょ?」
「お前、よくその顔でそういうことが言えるよなー」

 ルイが言うには「ヒカルは顔が綺麗だから下ネタが似合わなくて笑えない」らしい。関係あるんだろうか、冗談は冗談じゃない? 俺はそう思っているけど、ルイに「かっこいいんだからダメだろ」と言われたのが嬉しかったから、それでいいやと納得することにした。

「……じゃあ、明日の夜は? 明日はヒカルも夕方には帰ってきてるだろ? そしたら、時間、あるし……」

 しどろもどろになりながら話すルイは照れ臭そうだけど、ちゃんとオーケーの返事をくれた。一度した約束を絶対守るのがルイだから、いよいよ明日は俺の望みが叶うということだ。本当に俺の身体の調子が戻るまで待っていただけなのかもしれないとホッとした。それと同時に、今日も明日も拒まれていたら俺のメンタルがいよいよおかしくなっていたかもしれない、と一瞬ひやっとした考えも頭に浮かぶ。

 でも、ルイはいいよと言ってくれた。じゃあ予約するね、という俺を見て堪えられないといった様子でルイがふはっと笑う。

「そんな予約をするヤツ、聞いたことない」
「そう? 俺は毎日でも予約したいよ。ルイの予約を全部俺で埋めたい」
「……バカだな、ほんと」

 呆れたような口調でそう言っているけど、先にベッドへ入ったルイは俺の方を向いて寝そべっている。わかりにくいけど、ルイなりにおいでと言ってくれている時の格好だった。

「え、めちゃくちゃ立ってるじゃん」
「ルイと寝たらそうなるよ。普通じゃない?」
「もー……今、抜いたら明日の楽しみが減るじゃん。一日くらい我慢しろよ」
「しょうがないなあ」

 確かに、明日は目一杯久しぶりのルイとのセックスを楽しみたい。我慢をしたらご褒美くれるの? とじっと見つめると、「たぶんな」と視線を逸らされる。いっぱいくれるってことだ、と勝手に解釈してからルイのことをただ抱きしめる。
 さっさと落ち着いて寝ろということなのか、ルイが小さな声で「よし」と呟いた後、俺の背中を撫でる。肉のついていないルイの身体は肩甲骨や肘といった部分がごつっとしているのに、くっついていると温かくてなんだか柔らかいと感じた。

「……俺もさ、冬にインフルエンザで五日休んだ時はすげー落ち込んだ。みんな、ゆっくり休んでねとか、大丈夫? とか気を遣ってくれて優しいのにさ、あー、いろんな約束を破ることになってしまったって申し訳なくて……」
「うん」
「だから、ヒカルの気持ち、よくわかるよ。あのさ、もし俺が今ヒカルに言ってることを忘れて落ち込んでたら、そん時はヒカルが俺に思い出させて」
「……わかった」

 慰めるだけじゃなくて、俺もいつかはルイの支えになれるんだと、そういう自信をルイの言葉はくれる。ルイの腕の中でウトウトしていると耳にさらっとした何かが触れる。

「……ヒカルの身体よりも大事な仕事なんて無い、絶対。それが何十億かかってる仕事だったとしても。ヒカルの方がずっと大事だから」

 囁くような小さな声が、俺の鼓膜を微かに震わせる。眠くて目も開けられないのに、頭のてっぺんから足の先までがじーんと甘く痺れていくようだった。この愛情を独り占め出来るのなら、もう何もいらない。そう言ったつもりだけど、ちゃんと言葉にはなっていなかったのか、ふ、とルイが笑うのが聞こえた。

◇◆◇

 次の日はいつも出社するのとほとんど変わらない時間に家を出た。休みなんだからまだ寝ていたっていいはずなのに「一緒に食う」とルイも眠そうにしながら起きてきてくれた。

「あんま、遅い時間までは無理すんなよ」
「うん、大丈夫。ちょっと出勤して片付けておきたい仕事があるだけだから」

 トーストとハムエッグと、山盛りのサラダとキウイ。それからプロテインを飲んでいる俺の朝食の様子をルイはまるで観察するみたいにしてじーっと見つめていた。俺も、会話が途切れた時はボウルに注いだシリアルをもそもそと食べるルイをただ見ていた。

「おいしい? ていうか毎日朝はそれで足りてるの?」
「足りる。味は、今日はいつもよりうまい」
「なに、いつもよりうまいって? 毎日食べてるやつでしょ?」
「シリアルの底って……、砂糖がたまっててさ、最後まで食べきる時はそれが全部流れ出てくるわけ。だから、いつもより味が濃くて甘くてうまい」
「ははっ……」
「笑うなよー」

 笑われてことについては若干不満そうにしながらも、「ヒカルがたくさん食べてるのはいいな」とルイが呟く。平日にバタバタと準備をして出て行く時では考えられないくらい、穏やかで幸福な朝だった。きっとこれから俺は家やスーパーでシリアルの袋を見るたびに、ルイの言う「シリアルの底」について思い出すだろう。

「じゃあ、行ってくるね」
「ん」

 珍しくルイの方から軽くハグしてくれた。またあとでね、と言って家を出る。着替えていたからルイもこの後どこかへ出かけるのだろう。どこへ行くのかは聞かなかった。夕方こうして、またこの部屋で一緒にいられればそれでいい。
 ずいぶん朝の陽ざしが柔らかくなっていることに気が付く。そうか、あの時暑さで倒れてから一ヵ月が経ってるんだった、と思えるくらい、いつの間にか俺の心は軽くなっていた。

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