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【その後】幼馴染みにかえるまで
信じる時間(1)
しおりを挟む最近、ルイの様子がおかしい。
おかしいというか、直感に従うなら「怪しい」だ。前よりもずっとスマートフォンを眺めている時間が増えたし、俺が近くへ寄ってくるとぱっと画面を伏せて隠そうとする。今までのルイは「そんなに無防備で大丈夫?」とこっちが心配になるくらいスマートフォンについて無防備で、俺のガードの固さを笑っていじっていた程だったのに。
べつに何を見ていたってルイの自由だってことはわかっている。けれど、ああもコソコソされると「よっぽど俺に知られたらマズイ何かを見ているんだろうか」と思ってしまう。
「……明日? んー、適当にブラブラして本屋にでも行こうかな。ヒカルは仕事だよな?」
休日は何をしているのと聞いた時の様子は決定的だった。不自然に目を逸らした後で、いつものルイよりもずっと明るい口調でそんなことを言う。予定がないならないで「あー……、決めてない」ともう少し雑に答えてもいいのに。何かを隠している時程、ルイは丁寧に受け答えを整えてから俺に接する。
「うん。昼過ぎまでは仕事かも」
「そっか。あんまり無理すんなよ」
体調は? と心配そうに顔を覗き込まれると、途端に俺の中で「怪しい」という気持ちがぐらつき始める。ずっとルイのことだけを見つめていて、誰よりもルイのことを知っているつもりだった。
だけど、ここ最近のルイは「優しい」と「怪しい」の行ったり来たりで、俺自身も「疑うなんてどうかしてる」「いいや、絶対に何か隠してる」と心は常に揺らいでいる。何か俺の知らない重要なことをルイは抱えていて、常にそれへ意識を向けているような、そんな雰囲気だ。
信じて待つこと。大学時代、ルイと離れ離れになっていた時に俺が学んだことだ。ルイをたくさん傷つけてしまったあの頃の自分には戻りたくない。
最近の様子だって俺の考えすぎで、今は何か一人で考えたいことがあってそれで調べものをしているのかもしれない。他の誰かにこそこそと連絡を取ったり、会いに行ったりしているなんてことはありえない。……頭ではちゃんと大丈夫だってわかっているのに、モヤモヤとくすぶる気持ちが「仕事へ行ったふりをして後をつけるか」と、俺を焚き付ける。
たぶん、一ヶ月前に熱中症で倒れた時のことがまだ後を引き摺っていて、それがルイを疑う気持ちを生んでいるのかもしれない。
身体は三日も寝ていれば完全に回復したけど、やっぱり関わる大勢の人に迷惑をかけてしまったことで、「どうしてあの時、しっかり体調を管理していなかったんだろう?」とふとした時に自分を責めてしまっていた。
どれだけ頑張っていたって身体の不調は本人の努力だけではどうにもならないことがある。働くようになってからはそういう人達をたくさん見てきたからわかっていたつもりだけど、いざ自分がその立場になると落ち込んだ。
自分に原因があるのにルイを疑うなんてやっぱり間違ってる。なんとか冷静になれたことにホッとしていると「ヒカルー、ヤクルト飲もうー」とルイが呼ぶのが聞こえた。
「普通のやつより高いだけあってさ、やっぱ効いてる感じがするよな」
そうなんだ、と返事をしながら俺はルイから支給されたヤクルト1000をしげしげと見つめる。毎日飲んでいるこの飲み物が一本あたりいくらするのか俺は知らない。いつもルイが買ってきてくれるからだ。
熱中症になった時はルイにもずいぶん迷惑をかけてしまったのに、今も俺のことをとても心配して気遣ってくれている。
あれからルイは熱心に食生活や身体を休める方法について調べてくれていた。元々俺が家を空けることが多いせいで家事だってずいぶん負担してもらっていたのに、「いいから! 家にいる時はゆっくりしてろよ」と俺の回復を優先してくれる。
同じタイミングでソファーへ座ったはずで、俺はまだ一口しか飲んでいないのに、ルイは一瞬でヤクルトを飲み干してしまうところが可愛い。うめー、という心の声が聞こえてきそうな飲みっぷりだ。子供の頃麦茶やカルピスを一気飲みするルイとアサヒにおばさんが「もう飲んだの!?」とビックリしていたのが懐かしい。
「ヒカルっていっつもうまそうに飲むよなー」
「俺が?」
「うん。ゆっくり味わって飲むから」
行動は対照的なのに同じことをルイも考えていたのが笑えた。
「……最近の俺って変だと思う?」
「変って?」
「元気が無いっていうか……、まだ弱ってるっていうか……。早く治んなきゃとは思ってるんだけど」
じっと俺を見つめたままルイはしばらく黙っていた。答えに困っているというわけではなさそうだ。ただ、眉間に微かにシワを寄せて考え込む様子は「なんでそんなことを聞くんだ?」と思っているに違いなかった。
「そりゃあ、元気な方がいいけど。べつに、浮き沈みがあるのは普通っていうか……。最近のヒカルがどうとかは思わない。そういう時も含めてヒカルはヒカルだから。ごめん、早く元気になって欲しいとか、俺、そういうふうにヒカルを焦らせた?」
「ううん。……なんか、やっぱりあの時から結構ガクって来ててさ。ルイに大丈夫だって、ヒカルは何も変わってないって言って欲しかったのかも。ごめん」
「そうかー」
ルイの「ヒカルはヒカルだから」という言葉が、沈んでいる状態の俺の側にずっと寄り添ってくれていたのがわかってホッとする。ルイの言う通り、毎日が絶好調なんてことはない。きっと、逆もそうなんだろう。プラスとマイナスの帳尻を合わせるように、緩やかに調子を取り戻していけばいい。
「ルイといると元気になるなー」
「だろお?」
「……ところで、俺の禁欲はいつ解除されるのかな」
「えっ」
俺を思ってのことなのだろうけど、「元気になってから」「ヒカルは無理するから」という理由でこの一ヶ月間ルイとはセックスをしていない。もちろん、スキンシップが完全に禁止されているわけではない。普通にハグやキスもするし、同じベッドで寝ている。「して?」と頼めばルイは手と口を使って一生懸命応えてくれる。それはそれで、いいとも思っているけれど……。
「ねえ、そろそろ寂しいよ」
「でも……」
「ヒカルは一回したら、止まんなくなって、何回もするから」と言ってから、ルイはひひっと笑った。
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