え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

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第二部  復興編

33.一触即発

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全力で駆けて広場に走り込むと、そこは屋台が壊されて商人や農民達が右往左往していた。 

「お赦し下さい!私共は何も……」 

「嘘をつくな!ここに聖女が来たと王都に知らせが入っているんだ!」 

人だかりの向こうから言い争う声がしている。 

「道を開けてくれ!」 

馬を下りて人だかりを掻き分けると、ルワブの部下達が屋台の商人や農民達に暴行を加えていた。 

「お願いです!主人は何も知らないんです、どうか…」 

ルワブの部下のひとりが、倒れ込んでいる男性を庇うように覆い被さる女性の腕を掴んで引き剥がして平手で叩くのを見た瞬間、俺は頭より体が反応して飛び出していた。 

この野郎、許さん。 

3歩の助走で飛び、男の脇腹に蹴りを叩き込む。 

「ぐはっ……」 

男の体は横向きに吹っ飛んで転がる。 

すぐ傍で老人を蹴っていた男がギョッとして振り向いた。 

そいつのアゴに、横から敢えてピンポイントで拳を入れて脳を揺さぶり、脳震盪を起こした所に足払いを掛けて転がす。 

「なっ、何だキサマ!」 

「この野郎っ」 

2人を一瞬でノックアウトされて、他の部下達が俺の元に殺到してくる。 

俺は掴もうとしてきたヤツの腕を逆に掴むと、腋の下に肘を打ち込む。 

男は声も出せずに悶絶して転がる。 

そう、ここは急所だ。 

死ぬほど痛いだろう。 

殴りかかってきたヤツは、横にフットワークで避けて掌底打ちを額に入れた。 

これも一瞬で脳震盪を起こす。 

沖縄空手もかじってるからね、俺。 

もう一人は、横から膝に蹴りを放つ。 

横半回転して転がった男は、肩を強く打って起き上がれない。 

「こっ……この……」 

5人を瞬殺した俺に、残りの男達は迂闊に近寄れなくて遠巻きにしている。 

悪いが俺よりガタイが良くとも、素手で負けるつもりはこれっぽっちもない。 

もちろん、剣でも互角にやり合えるつもりだけどな。 

手練れのスザールに鍛えてもらってるんだから。 

まだ怒りが収まらない俺は、残りの奴らをギロリと睨みつけた。 

女性や老人に手を上げる奴らは、絶対に許せない。 

バリバリのフェミニストである俺の前で、お前らはやっちゃいけないことをしたからな。 

「何だ、お前は。どこの所属だ」 

少し先の建物の陰から、ルワブが現れた。 

その後ろからザウスがついてくる。 

多分、ザウスはルワブに問答無用で連れていかれて部族長達の元にいたんだろう。 

広場の惨状にギョッとしてから、ギリギリと歯を噛みしめているのが分かる。 

ルワブがいたんじゃ、他の部下の動向まで手が回らないのは仕方がない。 

そのルワブは、自分の部下達が無様に地面に転がって呻いているのを見て、眉間に皺を寄せている。 

「お前ら、コイツひとりにやられてんのか」 

暗く濁った眼で部下を睨みつけると、ルワブは腰の剣に手を掛けながら近づいてくる。 

「どこの所属かどうでもいい。ガザル殿下の臣下である俺の部下に手を出したヤツはその場で処分する」 

おう、こいよ。 

叩き伏せてやるぜ。 

「剣を抜くことは許さん」 

俺も剣に手を掛けたところで、横から凛とした声が上がる。 

その声で、俺の怒りに支配された意識がスウっと冷めた。 

群衆の中でタイミングを見計らっていたんだろうライド王子が、まさに一触即発のところで制止に入ってきた。 

あ~、やっちまったな。 

ここまでやるつもりはなかったが、どうにも怒り心頭で突っ走ってしまった。 

冷静になった俺とは逆に、ルワブは少し狼狽えたように剣から手を放した。 

「!っ……ライド殿下……?…」 

「ルワブ、これはどういうことか?兵士は民を守護する存在であって、危害を加えるなどもってのほか」 

ギラリと睨みつけられたルワブは、言葉に詰まっている。 

ライド王子の姿に面食らっているのが良く分かる。 

そうだろう、そうだろう。 

この7ヶ月の間に、病弱だった王子はみちがえるように変わった。 

健康になって血色も良くなり、更に鍛錬によって身体もしっかりと筋肉が付き、少し日焼けして精悍になった。 

前の王子を知っている者から見たら、目を疑うレベルで別人だ。 

「私はどういうことかと聞いている。お前の部下達は何故民に暴力をふるった?」 

「…あ………ええと、それは……」 

しどろもどろになるルワブに俺は内心ニヤニヤしていたが、顔にはおくびにも出さない。 

「実はここに聖女が現れたと連絡が入りまして、至急保護するようにとのガザル殿下の勅命で参った次第でございます」 

保護とな? 

確保の間違いだろうに。 

物は言いようだなぁ。 
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