53 / 68
第二部 復興編
33.一触即発
しおりを挟む
全力で駆けて広場に走り込むと、そこは屋台が壊されて商人や農民達が右往左往していた。
「お赦し下さい!私共は何も……」
「嘘をつくな!ここに聖女が来たと王都に知らせが入っているんだ!」
人だかりの向こうから言い争う声がしている。
「道を開けてくれ!」
馬を下りて人だかりを掻き分けると、ルワブの部下達が屋台の商人や農民達に暴行を加えていた。
「お願いです!主人は何も知らないんです、どうか…」
ルワブの部下のひとりが、倒れ込んでいる男性を庇うように覆い被さる女性の腕を掴んで引き剥がして平手で叩くのを見た瞬間、俺は頭より体が反応して飛び出していた。
この野郎、許さん。
3歩の助走で飛び、男の脇腹に蹴りを叩き込む。
「ぐはっ……」
男の体は横向きに吹っ飛んで転がる。
すぐ傍で老人を蹴っていた男がギョッとして振り向いた。
そいつのアゴに、横から敢えてピンポイントで拳を入れて脳を揺さぶり、脳震盪を起こした所に足払いを掛けて転がす。
「なっ、何だキサマ!」
「この野郎っ」
2人を一瞬でノックアウトされて、他の部下達が俺の元に殺到してくる。
俺は掴もうとしてきたヤツの腕を逆に掴むと、腋の下に肘を打ち込む。
男は声も出せずに悶絶して転がる。
そう、ここは急所だ。
死ぬほど痛いだろう。
殴りかかってきたヤツは、横にフットワークで避けて掌底打ちを額に入れた。
これも一瞬で脳震盪を起こす。
沖縄空手もかじってるからね、俺。
もう一人は、横から膝に蹴りを放つ。
横半回転して転がった男は、肩を強く打って起き上がれない。
「こっ……この……」
5人を瞬殺した俺に、残りの男達は迂闊に近寄れなくて遠巻きにしている。
悪いが俺よりガタイが良くとも、素手で負けるつもりはこれっぽっちもない。
もちろん、剣でも互角にやり合えるつもりだけどな。
手練れのスザールに鍛えてもらってるんだから。
まだ怒りが収まらない俺は、残りの奴らをギロリと睨みつけた。
女性や老人に手を上げる奴らは、絶対に許せない。
バリバリのフェミニストである俺の前で、お前らはやっちゃいけないことをしたからな。
「何だ、お前は。どこの所属だ」
少し先の建物の陰から、ルワブが現れた。
その後ろからザウスがついてくる。
多分、ザウスはルワブに問答無用で連れていかれて部族長達の元にいたんだろう。
広場の惨状にギョッとしてから、ギリギリと歯を噛みしめているのが分かる。
ルワブがいたんじゃ、他の部下の動向まで手が回らないのは仕方がない。
そのルワブは、自分の部下達が無様に地面に転がって呻いているのを見て、眉間に皺を寄せている。
「お前ら、コイツひとりにやられてんのか」
暗く濁った眼で部下を睨みつけると、ルワブは腰の剣に手を掛けながら近づいてくる。
「どこの所属かどうでもいい。ガザル殿下の臣下である俺の部下に手を出したヤツはその場で処分する」
おう、こいよ。
叩き伏せてやるぜ。
「剣を抜くことは許さん」
俺も剣に手を掛けたところで、横から凛とした声が上がる。
その声で、俺の怒りに支配された意識がスウっと冷めた。
群衆の中でタイミングを見計らっていたんだろうライド王子が、まさに一触即発のところで制止に入ってきた。
あ~、やっちまったな。
ここまでやるつもりはなかったが、どうにも怒り心頭で突っ走ってしまった。
冷静になった俺とは逆に、ルワブは少し狼狽えたように剣から手を放した。
「!っ……ライド殿下……?…」
「ルワブ、これはどういうことか?兵士は民を守護する存在であって、危害を加えるなどもってのほか」
ギラリと睨みつけられたルワブは、言葉に詰まっている。
ライド王子の姿に面食らっているのが良く分かる。
そうだろう、そうだろう。
この7ヶ月の間に、病弱だった王子はみちがえるように変わった。
健康になって血色も良くなり、更に鍛錬によって身体もしっかりと筋肉が付き、少し日焼けして精悍になった。
前の王子を知っている者から見たら、目を疑うレベルで別人だ。
「私はどういうことかと聞いている。お前の部下達は何故民に暴力をふるった?」
「…あ………ええと、それは……」
しどろもどろになるルワブに俺は内心ニヤニヤしていたが、顔にはおくびにも出さない。
「実はここに聖女が現れたと連絡が入りまして、至急保護するようにとのガザル殿下の勅命で参った次第でございます」
保護とな?
確保の間違いだろうに。
物は言いようだなぁ。
「お赦し下さい!私共は何も……」
「嘘をつくな!ここに聖女が来たと王都に知らせが入っているんだ!」
人だかりの向こうから言い争う声がしている。
「道を開けてくれ!」
馬を下りて人だかりを掻き分けると、ルワブの部下達が屋台の商人や農民達に暴行を加えていた。
「お願いです!主人は何も知らないんです、どうか…」
ルワブの部下のひとりが、倒れ込んでいる男性を庇うように覆い被さる女性の腕を掴んで引き剥がして平手で叩くのを見た瞬間、俺は頭より体が反応して飛び出していた。
この野郎、許さん。
3歩の助走で飛び、男の脇腹に蹴りを叩き込む。
「ぐはっ……」
男の体は横向きに吹っ飛んで転がる。
すぐ傍で老人を蹴っていた男がギョッとして振り向いた。
そいつのアゴに、横から敢えてピンポイントで拳を入れて脳を揺さぶり、脳震盪を起こした所に足払いを掛けて転がす。
「なっ、何だキサマ!」
「この野郎っ」
2人を一瞬でノックアウトされて、他の部下達が俺の元に殺到してくる。
俺は掴もうとしてきたヤツの腕を逆に掴むと、腋の下に肘を打ち込む。
男は声も出せずに悶絶して転がる。
そう、ここは急所だ。
死ぬほど痛いだろう。
殴りかかってきたヤツは、横にフットワークで避けて掌底打ちを額に入れた。
これも一瞬で脳震盪を起こす。
沖縄空手もかじってるからね、俺。
もう一人は、横から膝に蹴りを放つ。
横半回転して転がった男は、肩を強く打って起き上がれない。
「こっ……この……」
5人を瞬殺した俺に、残りの男達は迂闊に近寄れなくて遠巻きにしている。
悪いが俺よりガタイが良くとも、素手で負けるつもりはこれっぽっちもない。
もちろん、剣でも互角にやり合えるつもりだけどな。
手練れのスザールに鍛えてもらってるんだから。
まだ怒りが収まらない俺は、残りの奴らをギロリと睨みつけた。
女性や老人に手を上げる奴らは、絶対に許せない。
バリバリのフェミニストである俺の前で、お前らはやっちゃいけないことをしたからな。
「何だ、お前は。どこの所属だ」
少し先の建物の陰から、ルワブが現れた。
その後ろからザウスがついてくる。
多分、ザウスはルワブに問答無用で連れていかれて部族長達の元にいたんだろう。
広場の惨状にギョッとしてから、ギリギリと歯を噛みしめているのが分かる。
ルワブがいたんじゃ、他の部下の動向まで手が回らないのは仕方がない。
そのルワブは、自分の部下達が無様に地面に転がって呻いているのを見て、眉間に皺を寄せている。
「お前ら、コイツひとりにやられてんのか」
暗く濁った眼で部下を睨みつけると、ルワブは腰の剣に手を掛けながら近づいてくる。
「どこの所属かどうでもいい。ガザル殿下の臣下である俺の部下に手を出したヤツはその場で処分する」
おう、こいよ。
叩き伏せてやるぜ。
「剣を抜くことは許さん」
俺も剣に手を掛けたところで、横から凛とした声が上がる。
その声で、俺の怒りに支配された意識がスウっと冷めた。
群衆の中でタイミングを見計らっていたんだろうライド王子が、まさに一触即発のところで制止に入ってきた。
あ~、やっちまったな。
ここまでやるつもりはなかったが、どうにも怒り心頭で突っ走ってしまった。
冷静になった俺とは逆に、ルワブは少し狼狽えたように剣から手を放した。
「!っ……ライド殿下……?…」
「ルワブ、これはどういうことか?兵士は民を守護する存在であって、危害を加えるなどもってのほか」
ギラリと睨みつけられたルワブは、言葉に詰まっている。
ライド王子の姿に面食らっているのが良く分かる。
そうだろう、そうだろう。
この7ヶ月の間に、病弱だった王子はみちがえるように変わった。
健康になって血色も良くなり、更に鍛錬によって身体もしっかりと筋肉が付き、少し日焼けして精悍になった。
前の王子を知っている者から見たら、目を疑うレベルで別人だ。
「私はどういうことかと聞いている。お前の部下達は何故民に暴力をふるった?」
「…あ………ええと、それは……」
しどろもどろになるルワブに俺は内心ニヤニヤしていたが、顔にはおくびにも出さない。
「実はここに聖女が現れたと連絡が入りまして、至急保護するようにとのガザル殿下の勅命で参った次第でございます」
保護とな?
確保の間違いだろうに。
物は言いようだなぁ。
42
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる