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しおりを挟む「突然お声がけして申し訳ない。ですが、よろしければ少しお話しをしていただけないかと思いまして」
見知らぬ青年がそうセレスに微笑みかける。スラリとした身長はセレスがよく見上げていた彼と同じくらいか。栗色の髪はきめ細やかで、後ろで一つに結ばれている。服や装飾品にセレスは詳しくないが、そんなセレスから見ても質が高いと分かる。あまり見慣れないデザインではあるので、どうやら来賓の一人だろう。薄紫色の瞳が蠱惑的にも見えるが、何よりもその浮かべる笑みがとてつもなく――胡散臭い。
きた、とセレスは身構えてしまったが、相手はその緊張を「見知らぬ人間に声を掛けられたから」だと感じた様で、さらに笑みを深めてくる。
「その……今日こちらで初めて見かけてからずっと貴女に心を奪われてしまって……ああすみません、いきなりこんな事を言われても困りますよね」
ほんのりと目元を赤く染めて笑う美形である。普通のご令嬢であればあっと言う間に落ちてしまう事だろう。残念ながらセレスは己を弁えているのでそうはならない。あげく余計な情報を事前に入れられてしまったせいで、彼こそが「そう」なのだろうと緊張感に包まれている。
それでもこれこそある意味待っていた展開でもあるのだ。セレスは数回呼吸を繰り返し息を整えると、ようやく青年へ笑顔を向けた。
「こちらこそ失礼いたしました。そういう風にお声がけいただくのがはじめてなので」
嘘では無い。ずっと教会の中にいる聖女なのだから当然だ。
「そうなのですか? 驚いたな、貴女の様な可愛らしい方が……それとも、可愛らしすぎて恐れ多くて声を掛けられないのかもしれませんね」
「わ……わあ、お上手ですね!」
慣れなさすぎてこんな時にどう返していいのかセレスは分からない。緊張も相まってどうしたって引き攣った笑みになってしまうが、相手は気にしていないのか、それとも気にする必要がないからなのかさらりとセレスを外へと誘う。
「テラスか中庭にでも行きませんか? 貴女とじっくり話がしたい……」
うわあ、という表情を表に出さなかった事を我ながら褒めたいとセレスは思いつつ、「よろこんで」となんとか答えた。
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