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しおりを挟む誘われるままに中庭へと出てしまった。周囲はほんのりと灯りがありはするが薄暗い。人気も無く、これは一般的にいってもあまりよろしくないのではなかろうか、とセレスはふと思った。まあ自分は身の安全だけは確保されているので、そういった意味でも大丈夫だろうと暢気に灯りに照らされた花を愛でる。すると、セレスを案内するように前を歩いていた青年が歩みを止めた。
「こんな所までお連れして申し訳ない。実は、どうしても貴女と話がしたかったのです……聖女、セレス」
真摯な眼差しがセレスを射抜く。セレスはそれを正面から受け止めながら、思うままに口を開いた。
「よくご存知でしたね、わたしの名前」
初めて見た、と言っていたのは彼自身だ。セレスとしても教会で出会った記憶は無い。大きな儀式の時にもしかしたら同じ場にいた事があったかもしれないが、そういった時はセレスは頭にベールを被っているので顔を見られるはずはない。
「それに、その服は少なくともフェーネンダールの物ではありませんよね? イーデンの方とも違う様ですが……」
「え……ええ、はい、そうですが」
「それなのに、わたしの名前も役職もご存知だったんですね」
青年は目に見えて動揺している。えええ、とセレスは声をあげそうになるのをぐっと呑み込んだ。
わざわざセレスに気がある様な素振りでここまで連れ出したにも関わらず、そのままその設定で進むでもない。即本題に入るためかと思いきや、どうやらそうではないらしい。まさかセレスに突っ込まれるとは思っていなかったからか、視線を彷徨わせどうしたらいいのか懸命に考えている様だ。
「つまりはさっきの美辞麗句は嘘だったと」
別に本気で言われているとは思っていないけれど。それでもあからさまに嘘だと言われるとそれはそれで腹が立つ。セレスの声は小さかったので幸いにも彼にはよく聞こえなかったらしく、視線だけが飛んできた。
「まあ別にわたしの名前をご存知だったのはいいです。それで、お話と言うのはなんでしょう?」
本当はもっと少しずつ話を詰めていかなければならないのだろうけれども、そんな腹の探り合いをする技量をセレスは持っていない。面倒くさい、というのが正直な所だけれどそれは脇に置いておく。
「貴女に心を奪われて」
「アリガトウゴザイマス」
心が籠もっていないのはお互い様だ。茶番はいいからさっさと話を進めてください、とセレスは言外に圧を掛ける。青年もそれを感じ取ったのか、バツが悪そうにしつつも言葉を続けた。
「貴女を想うからこそ、今の貴女の立場がどうしても許せないのです。どうか、私と共に来てくださいませんか?」
「どこに?」
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