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小話
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しおりを挟む一旦城へ戻ったグレンだが、夕食の時間には間に合うように帰ってきた。その頃には普段と同じ穏やかさで、午後のやり取りなどまるで無かったかのようだ。安心したフェリシアはそのまま湯浴みも済ませ、何の躊躇いもなく寝室へと足を入れた。
おかげでこのありさまだ。ベッドの上で足を伸ばして座るグレンの膝の上で横抱きにされている。
またこの状況、とフェリシアは両手で顔を覆ってひたすら己の中の羞恥心と戦う。せっかく身体を綺麗にしてきたというのに、じんわりと汗を掻いている。
「グレン様がひどい」
「ひどいのはフェリシアだろう」
抱き締める腕に力を込め、グレンはフェリシアのこめかみに軽く口付けた。
「どうして無理なんだ?」
無理、とは、とフェリシアは指の隙間からグレンを見る。話の中身はお茶の時間の時のであろうが、それをまだ引き摺っているのか。え、本当に? あんな他愛も無い話なのに? そう驚いているのが伝わったのか、グレンの眉間に僅かに皺が寄る。
「度量が狭くて悪いとは思っている」
それでも愛しくてやまない相手からの拒絶の言葉を、はいそうですかと受け入れる事はできない。それが与太話であったとしても。
「こ……拗らせすぎでは?」
「自覚している」
で? とグレンはフェリシアからの突っ込みを受け流して答えを促す。
「え……えええええ……」
どうして無理ってだって一人でもこんなに素敵でかっこよくって大好きなグレン様なのよ! そんなグレン様が何人もいたら私の心臓壊れちゃうじゃない!!
素直にそう叫べば終わるだけの簡単な話だが、素直に叫べないからこそこうなっているのだ。うう、とフェリシアはまた顔を覆って低いうなり声を上げる。
「そんなに言えない?」
「……と言いますか、グレン様もうわかってるんでしょう?」
「君は顔に出るからな」
「だったらいいじゃないですかー! 私の乙女心が無理だと言ってます!」
「俺の男心がぜひ聞きたいと言っているから仕方がない」
「お……おたすけ……」
「じゃあこうしようフェリシア」
グレンは片手でフェリシアの手首を掴むと軽く引き剥がした。真っ赤になって、目元まで潤ませた状態でフェリシアは見上げる。その無自覚の誘惑にグレンは苦笑を浮かべた。全くもってこの可愛い妻は、軽率にこちらの理性を揺さぶってくるからタチが悪い。
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