伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高

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「今のオリアーナは可愛くて美しいけれど、丸くなったオリアーナは可愛くて美しくてそして可愛いだろうね」
「可愛いが増えましたよ?」
「丸くて柔らかい物はそれだけでも可愛いじゃないか。だから丸くなったオリアーナには可愛いが加算されるんだ」

 クスクスと笑い合う二人であるが、だんだんとそれがオリアーナの物だけになる。いつの間にかフレドリックは無言で、そして無表情でオリアーナを凝視している。どうしたのだろうかと首を傾げるオリアーナに、彼はポツリと呟いた。

「それもいいな……」
「フレドリック様?」
「丸くなったオリアーナも見てみたい」
「却下です王子」
「どうしてだジュリア? 丸くなって可愛いが加算されたオリアーナは君だって見たいだろう!?」
「オリアーナ様は今でも充分すぎるくらい可愛らしい方ではないですか。これ以上の欲は身を滅ぼしますよ」
「人間とは欲深い生き物だ。それが恋する相手であればなおさら」
「馬鹿話を壮大な物語のように言わない」

 長年付き従っている相手である、心底呆れたグレンの突っ込みは言葉遣いも雑だ。そんなグレンを仲間に引き込もうとフレドリックは言葉を投げる。

「グレンだって夫人の可愛いが加算されたら嬉しいしそんな夫人を見たいと思わないのか!?」

 だがしかし、グレンは眉一つ動かさずにそれを打ち返した。

「俺のフェリシアの可愛いは毎日更新されているので大丈夫です」

 きゃあ、とオリアーナが黄色い声を上げる。グレンの横からはうっわこの人真顔で言い切ったうっわ、と言う冷たい眼差しが飛んでくるが、グレンはどちらも華麗に流した。

「オリアーナの可愛いだって毎日更新されているからな!」
「フレドリック様!」

 恥ずかしさのあまりオリアーナが叫ぶ。それすらも可愛い、とフレドリックは喜ぶのだから頭のネジの緩さがジュリアはとても心配だ。

「今より可愛いが加算されたオリアーナが見たい」
「そうすると今のオリアーナ様は見られなくなりますがそれでもよろしいんですか?」
「今のオリアーナは私が覚えているから問題ない」

 それに、とフレドリックは視線をオリアーナに向け、ニコリと微笑む。

「むしろ、今後出会う人間は今のオリアーナの姿を知らないことになる。うん、とても素敵じゃないか」

 他人が知らない姿を自分は知っているという優越感。想像しただけで体の奥底から沸き上がる歓喜に、フレドリックは恍惚の笑みを浮かべる。その姿のなんと危険な事か。

「どこからどう見ても完全に危ない人ですよ王子!」
「オリアーナ、もっとたくさん美味しい物を食べてみないか?」
「無理矢理太らせようとするな!」
「うるさいグレン、私はたんにたくさん食べるオリアーナが好きなだけだ!」
「そうやって無理矢理太って、健康に害がでたらどうします? オリアーナ様を病気にさせるおつもりですか」

 ジュリアの冷たい眼差しと声には無傷でも、その言葉は浮ついたフレドリックの頭を痛烈に殴りつけた。途端、フレドリックは叱られた犬の様にシュンと項垂れる。

「オリアーナにはいつまでも元気でいてほしい」

 ごめんなさい、と素直に謝るフレドリックに、ひとまず今回も無事に場を乗り切ったとグレンとジュリアは胸をなで下ろした。


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