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小話
6※
しおりを挟むルイスは元々騎士の一族である。それがある日突然菓子職人の道に目覚め、周囲が戸惑っている間に勝手に突き進みあっと言う間に王室お抱えの職人になった。三男坊で家督を継ぐ必要がなかったとはいえ、それにしたってどうなんだろうかと、初めて会った時にジュリアは少し引き気味に見ていた。
「おれって見た目がいいだろう? それに気遣いもできる優しい男で、さらに実家は騎士の名門とまで言われるリンデゴード家。だから狙ってくるご令嬢が多くてね」
あ、自分で言うんだ、と喉元まで出かかった言葉をジュリアは飲み込む。それにしては彼がどこぞのご令嬢と付き合っているという噂は聞かないが。それが顔に出ていたのだろう、ルイスは自他共に認める美しい顔に笑みを湛えて、とんでもない事を口走った。
「好きな相手は監禁したくなるんだ」
「そういうご趣味が」
「実際はやらないけど。したいなあ、ってずっと思うだけ」
「そういう嗜好をしておいでで」
「結婚したとしても、常時監禁したいなあとか首に鎖付けておれの側においておきたいなあとか想像してるんだけど、それでもいいですか? って聞くとまあ見事に断られるよね」
「でしょうね」
「だからおれは今も誰とも付き合ったりしてないんだ」
「まあ……そうなって当然かと」
自己申告すればいいと言う物ではないだろうが、彼はこれを職場でも元気に言い放っている。当然貴族の令嬢達にも筒抜けだ。
「たまにそれでもいいから、って寄ってくる猛者もいるけど」
「それはお受けにならないんです?」
「本当に監禁してしまったら可哀相じゃないか」
「……監禁したいのでしょう?」
「したいなあと思うだけで、実際はやらないって。でも相手はしてもいいって言うんだから難しいもんだよ」
「単にあなたの嗜好が面倒くさいだけなのでは」
「うん、そう、おれの監禁したいなあって希望を冷たく断ってくれる子がいいんだよね」
君みたいに、とまでは言われなかったけれど。それから怒濤の勢いで言い寄られ口説かれ押し切られ、ついには婚約者の立場まで手に入れたのだ。やはりあの時点でジュリアは狙い定められていたのだろう。迷惑極まりない。
本当に失敗だったとジュリアは思う。あの時に押し切られさえしなければ、今こんな目に遭いはしなかったというのに。
ああでも彼とこうなったからこそ、オリアーナ様の専属侍女になれたわけだし……でもやっぱり後悔していないわけではないのよ! そう強く思った途端、ふと意識が浮上した。
ゆっくりと瞼を開けば、心底嬉しそうな顔をしている男の顔が目の前に広がっている。
「……痛いんだけど!」
細い指で両頬の肉を薄く摘まんで横に引っ張ってやれば、ルイスがペシペシとジュリアの掌を叩く。
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