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小話
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しおりを挟む「おやすみなさいグレン様」
横になったグレンの身体に今度はフェリシアがシーツを掛ける。と、その手をグレンはそっと掴む。え、と軽く驚くフェリシアに対し、我ながら未練がすぎるなとグレンは苦笑を浮かべつつ、それでもせっかくの彼女との一時なのだからとなりふり構わずすがりつく。スルリと指を絡めると、暗闇の中でもフェリシアの頬に赤みが差したのが分かった。
「フェリシアはもう寝る? 眠い?」
「いえ……今起きたばかりなのでわりと元気ですけど……」
「じゃあ少しだけ話をしないか?」
フェリシアは言葉を詰まらせる。話はしたいが、しかしグレンの睡眠を優先せねば、との欲と理性が葛藤しているのだろう。そこに、最早欲しか残っていないグレンが後押しをする。
「ここしばらくはろくに会話もできなかっただろう? 君が足りなくてどうにかなりそうなんだ。せめて、少しでもいいから話がしたい」
年下の妻のいじらしい気遣いを、年上の夫が蹴散らしていく。我ながら拗らせ方が酷いものだと笑うしかないけれど、優しい彼女は頬を赤く染めたまま小さく頷いてくれた。
「じゃ……じゃあ、あの、眠くなるまで、一緒にお喋りしましょうね」
照れ笑いのままフェリシアもシーツを肩まで引き上げた。かと思いきや、それはまさかのグレンのシャツで。
「――あ」
「ん?」
「あ……あああああッ!!」
フェリシアはまるでバネ仕掛けの人形の如く跳ね起きた。ベッドの上にペタリと座りこんだまま、掴んでいたシャツを背中に隠しプルプルと震えながら首を何度も横に振る。
「フェリシア」
「ちがっ、く、て、……その、これは、ちが、わないけど! でもちがうんですったら!」
じんわりと両目に涙まで浮かばせてフェリシアは「ちがわないけどちがうんです」とひたすら繰り返す。これは確実に話がしたい、の中身がズレ、且つ、眠気が四方八方へ散らばっていくのをグレンはひしひしと感じた。
それでも彼女としばし賑やかな一時が過ごせる、という事実に胸が躍るのだから末期である。
小動物の様に震えながらも、こちらの色んなアレコレソレをゴリゴリに削ってきたり揺さぶってきたりする彼女だ。これからどんな会話が飛び出すのか楽しみで仕方がない。
グレンはゆくっりと身を起こすと、フェリシアと同じ様に座ったまま彼女の正面に向き、そっと両手を取る。どんな話でもいいから聞かせて欲しい、怯えなくても君に引く様な事はないよ、という意思表示。そして、なにがあっても逃がす気はないからなという、とてもじゃないが表に素直に出せる様な物では無い感情を隠す為でもある。
そんな夫からのぐつぐつに煮詰まった感情を向けられているとは露ほども思っていないフェリシアは、ひたすら己の所業がバレた事に対して羞恥に半泣きだ。
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