正義の劣等生は異世界にて活躍する夢を見ない

マキシマム・ザ ・俊ちゃん

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第二章 スーパーハカーがただ無双するだけの話

うん、何だか『翼を授ける』って感じの飲み応えだった

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 異世界に来て二日目の朝。
 川の側でオタカリとの早朝特訓が始まった。

 少しだけ先送りにしていた検証が平行して行えることに感謝しつつ、しかしその認識が甘い考えから来たものだと実感させられたのもほぼ同時だった。

 雑なフォームの拳が――。

 いや、テレビなどで格闘技の試合を見ていたから雑だと理解できる素人目が追ったところで、残像を纏ったオタカリの動きが正確に捉えられるわけではない。

 特に恐怖で固まった体というのは、これまたしなやかさに欠けるものだった。

「ぐぅ! っで、あだっ!」

 思いっきり顔面にくらって川原の砂利へ吹き飛ばされていく。
 ゴロゴロと転がるだけで落ちている砂利は凶器となるだろう。

 しかし、思考するよりも先に転がってしまった俺が咄嗟に感じたものは『痛ぇ』という簡素なものだった。

 いや、痛ぇで済むもんなんか?

 制服はボロボロだけどさ…………。

 普通、向こうの世界でこんな目に遭ったら、擦りむいた皮がベロンベロンになって、下手すりゃ骨まで見えてるぜ?

「何か感じたかい?」

 オタカリは俺の思考を妨げるような戦いはするつもりがないらしい。

 なるほどね。
 俺がこの戦闘で考えさせられる全てが経験値になるってわけだ。

 ステータスの【VIT】はやっぱり重要だな。
 俺たちの世界の法則があてにならないというのはこのことで、人間の頑丈さの基準が違いすぎる。

 ってか、砂利以前に顔面クリーンヒットで頭蓋骨粉砕コースだろ。

 やっぱり昇◯拳が頭を過る。
 いかんいかん遊びで考え過ぎだ。
 しかし、ピンピンしているってことは――。

 ステータスを確認してみれば、【HP】が2のダメージを受けていた。

【最大HP】は10なので、丁度2割の損失となる。

 オタカリの【STR】13で、俺の【VIT】は8。差し引いたら5というのが受けるダメージの鉄板計算式かなと思ったんだが――。

 違うのか、はたまた裏で追加計算がなされたか。

 係数が混じってると、小数点などの計算が面倒だ。

 加速した攻撃だったから【AGL】のボーナスがあるのかもしれない。

 雑なフォームがマイナス補正になっていたかもしれない。

 いや、そもそも計算すら法則が違うのか?

 分かったことと言えば、まず一つ目に一定の素早い動作には残像効果が発生するということだろう。

「ああ、でもオタカリだけか!」

 オタカリに向けて振った、残像が発生しない俺のパンチが空を斬る。
 オタカリの上体だけ動かした最小限の回避にすら残像があるというのに、【AGL】の数値の壁というのは残酷らしい。

 それから、スキル発生時に残像が発生するということではないようだ。

 パンチなんてスキルはないからな。

 朗報だったのは、やっぱりスキルというのは誰でも覚えているようなものではないらしい。

 レベル1でも誇れるほどに。

 じゃなかったら、こんなオタカリの雑なパンチにだって威力があるのだ。【格闘技の心得レベル1】程度があってもおかしくないのである。

「くそっ、ステータスの差は致命的だな!」

 当たらない。
 しかしオタカリの攻撃は全てクリーンヒットで返される。

 二発もらったところで俺のHPは半分を切った。

 起き上がろうとした時にオタカリは告げる。

「こっちの世界では一般的に10ごとの壁がある」
「ステータスのことか?」
「ああ、10を越えたら達人。【AGL】なんかは残像が付くね。20を越えたら超人。それから先は魔人クラスと言って、10増える度に等級が上がるんだ」

 ってことは【VIT】37の白井は頑丈さだけなら魔人級かよ。俺の紙装甲ボディーガードなんて無意味じゃねーか。

「いやいや、二人とも強すぎて何も言えないねえ」 
「それは違うよジンヤ。君はワイルドボアのステータスを知らないから平気でいられるんだ。あれ、【AGL】17も危険なんだけど、【STR】なら25はあったからね?」

「は?」

 白井のステータスも規格外だが、レベル2の雑魚モンスターのステータスかそれ?

【VIT】8で受けてたら即死だったんじゃないか?

 余りにも気が遠くなるような話に呆けていると、いつの間にかオタカリが背後に回り、俺の首筋に短剣を当てていた。

 残像どころか目ですら追えてない……だと?

「これが20の壁だよ。【暗殺の心得】がなくったってね。これくらいの芸当ができる領域なんだ。そして――」

 鈍い痛みと共に俺の体は軽くなる。
 吸い込まれるように地面へと向かって重力に引き寄せられていく。

「HPが三割まで減ると生物は気絶する。単独行動だったらこれが最大HPだと思っておいた方がいい」

 く……そ…………。

 7受けただけ……で……気絶かよ…………。

 ざけっ…………んなよ!

「俺が諦めてもいねぇ時に……倒れるんじゃねえ!」

 俺の右足が踏ん張った。
 踏ん張って、振り返るのがやっとで、オタカリにもたれかかる。

 そしてオタカリの顔を見上げた。

 オタカリが目を見開いて俺を見つめている。

「へへっ、今なら二割に訂正してもいいんだぜ?」
「ジンヤ、多分違うよ。レベルアップしたのかと思ったけど、それはスキルだ」

「あん?」

 ステータスを見れば俺の欄に待望のスキルが――。


~~~ ~~~ ~~~ ~~~


【スキル・食いしばりLV1】
 自動 消費スタミナ30 【忍耐】
 気絶効果を無効にする


~~~ ~~~ ~~~ ~~~


 うわぁ、これは白井が覚えるべきものじゃね?

 紙装甲が覚えたところで直撃したら気絶どころか死ぬんだぜ?

 かすった攻撃の気絶を回避したところで、大した延命措置にもならないだろ?

「とりあえずおめでとう?」
「オタカリ、疑問符を付けて称賛するのはやめろ……」
「嬉しそうじゃなかったからつい、ね」
「あんまり無茶しないで」

 白井が駆け寄ってきて、俺の口にHPポーションを流し込む。

 うん、何だか『翼を授ける』って感じの飲み応えだった。

 しかしまあ、【忍耐】系統か…………。

 忍者になるフラグとでも思っておくことにしよう。

 でもレベルは変わらず1のまま、か。

「いい運動もできたし、朝食を食べて小休憩したら先へ進もう」
「汗でベトベトだな」
「ああ、それなら全身にこの水を馴染ませるといいよ」

 オタカリがペットボトルサイズの瓶を取り出すと俺に差し出してくる。

「香水……か?」
「女性が特に好んで使うんだけど、汚れの分解と香水の魔法効果を持った優れものだよ」
「魔法すげぇな!」
「わ、私も使いたい」

 服をぬがなくてもいいってのは便利だな。しかも同時に服にまで染み込んで綺麗にしてくれるんだからな。しかもすぐに乾く。

 風呂も洗濯もなしなのに身綺麗なまま旅できるって最高じゃね?

 毛布にもこれがかけてあったらしい。
 どうりで気持ちよかったはずだわ。

 とまあ、そんなこんなで朝食の時間がやってきた。

 昨日の余りの肉を【ストレジ】に入れておいたので、またまたマジックスパイスのお時間となった。

 味噌汁は何度飲んでも最高だ。
 しかも舌が覚えている最高の味だから、出汁の良さまでしっかりと再現されてしまっている。

「うーん、ここで一眠りしたくなる満足度と旨さだな」
「気持ちは分かるけど、のんびりしていたら今日中に辿り着かなくなっちゃうよ?」
「分かってるさ。隠田さんを見つける為にも急がないとな」
「しかし結構アジトに近付いたと思うんだよね。二人の友達はまだ反応なしかい?」
「夕食の後に【リンクサーチ】を試してはいたけどダメだった。山から出ちゃったかな?」
「その可能性もあるか。山賊から何か情報を得られればいいんだけどね」

「あっ!?」

 白井の叫び声に俺とオタカリは目を白黒させた。

「今、小森くんの後方で反応…………」

「はぁ?」

 そんなわけ…………。

 俺が振り返ると、制服姿の少女が山林の隙間から姿を現した。

 良く言えばロングヘアーの天然パーマ。
 悪く言えば手入れのなっていないボサボサの髪。

 白井よりも背が低く、クラスでも下から数えた方が早い体型には、相応しくない程のビッグボリュームの胸。

 ワンサイズ大きい制服はダボダボで、斜めに傾いて着ていてもお構い無し。ファッションに無頓着どころか清潔感を出そうとも思わない。

 それより何よりも、俺はこいつが陰険であると知っていても【隠覆】などという【魂の形状】の持ち主であることが未だに理解できずにいる。

 だってさあ――。

「お頭、この三人組と知り合いなんですか?」

 山賊らしきむさ苦しい男が隠田に尋ねた。

「うん、そうだねぇ~。同じ制服を着てる二人とは知り合いかな? あとのイケメン君は知らないけれど…………ま、問題なさそうかな~。さ、皆で挨拶しようか~」

 ぞろぞろと山賊たちが現れた。
 ざっと見ても五十人はいそうだな。

 いやまあツッコミたいところは色々あるんだけどさあ――。

「「「「よろしくお願いしやすっ!」」」」

 丁寧に仕込まれたジャパニーズ土下座だった。

 はっ、だから何が?

 お前らは読書感想文で『面白かった!』しか書けないアホなの? バカなの? 死ぬの?

「まあ、そういうわけで誘いに来たよ~。今は山賊の頭をやってるんだけどさ~、二人ともウチにこない?」

 胸もそうだが、お前って本当に隠れる気0だよな!?

 俺の心の中の叫びなど届くはずもなく、隠田はあくびをしながら手をヒラヒラさせて挨拶するのだった。
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