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2章『転生×オメガ=当て馬になる』

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皆さんこんにちは。オメ蜜の当て馬担当、高瀬真緒(30)です。

――なんてね。
少し現実逃避をさせて頂きました。
あれから私は桃ちゃんの殺意の籠もった熱視線に逃げるように工場を後にした。勿論安全運転を心がけていたので安心して欲しい。

「はぁ…。まさかこんなにも早く桃ちゃんに会うとは…」

絶対に私の事、嫌いになったよね。オメ蜜の桃ちゃんなら天然ちゃんだから何も起きなさそうだけれど、先程の桃ちゃんは…。

思い出すだけで怖い。そもそも人との関わりを持っていなかったから、あんな露骨に向けられる憎悪に慣れていないのだ。

もしも私が前の世界で普通に人間関係をサボっていなければ、多少はマシだったのかもしれない。23歳の小娘に子鹿のように足を震わせる30歳の女ってどうなの…。

私が頭を抱えながら蹲っていると、メッセージアプリの通知音がポロンと鳴った。

「在昌さん?」

鞄から携帯電話を取りだし、操作すれば在昌さんから『さっきはごめんね』とメッセージが入っていた。

私は急いで返信する。

『いいえ、大丈夫ですよ。というか仕事の邪魔をしてしまったみたいですみません』

『いや、邪魔なんかじゃないよ。寧ろ元気出たし』

『元気ですか?』

『うん。真緒ちゃんの顔が見れたから。今日は20時頃に帰るね。オムライス楽しみにしてます』

……
………
駄目だ。この携帯は在昌さんのものなのだから…。投げてはいけない。握り潰してもいけないよ、私…!耐えろ!萌えに耐えるんだ!!

私は動揺を隠しつつ、クールな表情で返信を返す。

『私も元気出ましたよ。オムライス楽しみに指定テク多彩』

『していて管差』

『下さい』

動揺ログアウト求む。

――慌てながら何度も連投しているメッセージに、在昌さんが噴き出していた事を私は知る由もなかった。



*****



「え、まだヤってないの?」

在昌さんが美味しそうな表情を浮かべながらオムライスを平らげた次の日、私は病院に来ていた。在昌さんが会社を休んで着いてくる、と言ったが丁重に断っておいた私、グッジョブ。

「何言ってんすか」
「いや、だってアルファとオメガが一つ屋根の下に居るのよー?ヤらない方がおかしいっしょー」

腕を組みながらクソ眼鏡改め、クソ眼鏡先生が私の方へ値踏みするような視線を送りながら不思議そうに言う。

「君、失礼な事考えているでしょう?」
「いいえ…」

何だこのクソ眼鏡先生、エスパーかよ。

「いや、エスパーじゃないし」
「え、何。なんか気持ち悪い……」

すみません…。

「いや、心と言葉が逆よ?」
「…冗談はさておき…。抑制剤が凄く効いているのではないですか?」

あれから毎日欠かさず飲んでいる抑制剤。副反応も出る事も無く、私は日々平和に過ごしていた。
転生してきた初日の出来事が夢では無いかと思えるくらいに。

「…何頬を赤らめてるの。キモー」
「あ、赤らめてませんが!」

ぷぷぷ、と笑いながら私に指を指す有沢先生。本当に大人げない。在昌さんの爪の垢1トンくらい飲めば良いのに。

「…ちょっと在昌に猫被りすぎじゃなーい?俺との対応の差が酷すぎよー」

と言いつつも楽しそうに笑う有沢先生。
正直、私は有沢先生と話すのが楽なのだろう。なんだろう。変に緊張しないというか。なんというか。

「話は戻して…。確かに抑制剤のお陰もあると思うんだけど、アルファとオメガってそんな簡単な問題じゃないんだよねぇ」
「そう、なんですか」
「うん。本能で惹かれ合う存在だからね。だから長時間居るだけ発情するんだ。薬はあくまでその場を収める為のものなんだ」

言っている事はわかる。小説や漫画で何度も読んだ事があるから。けれど、実際問題なにも起こってないのだ。

「ねぇ。在昌の薬の量はどう?」
「在昌さんの…。飲んでいるところ、見たことないですね」
「んー…」

私の言葉に有沢先生が腕組みをしながら眉をひそめる。そして徐にパソコンのキーボードを叩き始めた。

「有沢先生…?どうしたんですか」
「あー…」

パソコンを覗く訳にもいかず、私は有沢先生の言葉を待つ。
あまり良い事では無い事は察知出来た。有沢先生の眉間の皺が増えていたから。

「あいつオーバードーズしてんなぁ…」
「おーばーどーず、ですか」

オーバードーズ…。確か、薬を大量摂取する事だよね。それが本当だとすると…。

「アルファ向けの抑制剤はオメガの抑制剤よりも強力なんだよ。これ以上薬を増やすとあいつの身体、壊れるぞ」
「え、えぇ!?」
「バース性の院では他の院と情報が共有出来るようになってるんだ。いつもは俺のところで薬を処方してるんだけど…。他のところで処方してもらった履歴が残ってる」

はぁ、と溜息を吐きながら有沢さんは説明を続けてくれた。

「確かに抑制剤は飲めば飲むほど、フェロモンの放出を抑える事が出来る。だから真緒ちゃんも平気で在昌の傍に居れたんだろ」
「……」

だとすると、在昌さんは命を冒してでも私に触れたく無かった。と言う事なのだろうか。



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