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2章『転生×オメガ=当て馬になる』
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しおりを挟む「やっとくっついたかー」
「え?」
後日、私は有沢さんのところへと向かい、先日の申し出を断った。
そんな私にニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、馬鹿だなぁって言う有沢さんに私は間抜けな声を出してしまった。
「だって端から見ても両想いじゃん?まぁ、在昌はああいう性格だから君が変な事でも考えて一人でぐるぐるしてただけだと思うけど」
「……」
図星だ。その通りで、感謝しているのだが…なんだろう。素直に感謝出来ないというか、ムカつくというか…。
でも、有沢さんがふっかけてくれなかったらあのままズルズルと気まずいままだったのは事実だったので感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございました」
「うん?良いよ。面白いモノも見れたしねぇー」
ニヤニヤしたまま、有沢さんは午前中に在昌さんがここに来た事を教えてくれた。そして私に対して釘を刺してくれたとの事だ。
「俺にも好みってものがあるんだけどって言ったら黙ってたよ」
ははは、と笑いながら私の胸を一瞥する有沢先生。
嬉しいけれど、やっぱりムカつくのは事実だ…。
「ところでさ、如月桃ちゃんの事なんだけど」
「桃ちゃんですか」
有沢さんから桃ちゃんの名前が出て驚いた。前に、名前を出した際は反応無かった為、関係が無いと思っていたから。
「うん。彼女には気を付けてね」
「桃ちゃんにですか…?」
「ちょっとヤバそうな子、だからさ」
恐らく在昌さんから聞いたのだろう。
確かに、私が見ても桃ちゃんは普通では無かった。所謂メンヘラ、という感じだ。だが、私には桃ちゃんとの接点は無いのだ。彼女が家に来ない限りあり得ない。
「ありがとうございます。気を付けておきますね」
「うん。何かあったら在昌に連絡して。繋がらなかったら俺にしても良いから」
何だか大袈裟だなぁ。と思いつつも、有沢さんの優しさに感謝する。
在昌さんや有沢さんに沢山助けられている私はいつかこの二人に恩返しが出来る日が来るのだろうか。
*****
「うん。やっぱり真緒ちゃんのご飯は美味しいね」
「そうですか?ありがとうございます、嬉しいです」
今日の献立はほかほかの白米に味付けした唐揚げに、鮮度の良い野菜を千切ったサラダ。ドレッシングは手作りだ。昨日の野菜の余りで煮物を作って、お味噌汁は私の大好きな茄子と長ネギ。
最初の頃は、もっと量を作っていたのだけれど、私も在昌さんも大食らいでは無い為、このくらいの量で落ち着いた。
美味しそうに唐揚げを平らげていく在昌さんに笑みが溢れる。昨日から仕込んだ唐揚げはジューシーで柔らかい。市販の唐揚げ粉よりもふっくら作れるから私は昔から自分で仕込んでいる。
「ご飯のおかわりいりますか?」
「貰って良いかな」
在昌さんからお茶碗を受け取り、お米をよそう。唐揚げも残り少ないから中ぐらいにしておいた。
「ありがとう」
私からお茶碗を受け取った在昌さんは再び、唐揚げに箸を伸ばす。
暫くしてわかった事だけど、在昌さんは唐揚げやオムライス。ハンバーグ等のいかにも子供が好きな料理が好きだ。
ペロリと今日も平らげた在昌さんと一緒にご馳走様でした、と手を合わせる。
「珈琲入れるので待っていてくださいね」
「うん、ありがとう」
ハウスキーパーとして働かせて貰って暫くたつが、兎角在昌さんは褒めてくれる。掃除にしろ、アイロンがけにしろ何に於いてもだ。
先程も、シャツのアイロンがけで褒めてくれた。
本当はクリーニング店に出せば良いのだが、折角洗濯可のシャツを購入したのだから家でした方がお得だ。
その件は在昌さんの了承を得ている。
食器を洗い、珈琲を作れば良い匂いが部屋中に広がる。味は苦手だけれど、匂いは素敵なんだよね。
在昌さんはブラック。私はお砂糖とミルクをたっぷりと入れる。
「どうぞ」
「ありがとう、美味しそうだ」
いやいや、機械が作ってくれたやつですから…。ポーションを機械にセットすれば、喫茶店顔負けの珈琲が出てくる。何とも便利な時代だろうか。
私もマグカップを手に、在昌さんの隣に腰掛ける。
「今日、病院はどうだった?」
「異常無しでした。お薬の副反応も無しです」
在昌さんが病院に来た事をばらした事は黙っていよう。
当たり障り無い会話をしながら、意を決して桃ちゃんの事を聞く事にした。
「あの、桃ちゃんは大丈夫でしたか…?」
「…如月さんなら異動届け出したよ。流石にあんな事をしたんだ。俺の専属秘書は出来ないだろう」
「そう、ですか…」
安心しつつも、少しの罪悪感。
私には桃ちゃんの気持ちがわかるのだ。おこがましいかもしれないけれど、痛い程にわかる。
「真緒ちゃんが責任を感じなくても良いからね」
私の気持ちを読んだのか、在昌さんは私の頬をふにふにしながら言う。
前に、何で私の考えている事がわかるのかって尋ねたところ、顔に出ていると返ってきた。
今回も顔に出ていたのだろうか。
「…仕事には態度は出さないけど、君の可愛い顔に傷を付けた事は許さないよ」
「ッ…!」
実はというと、桃ちゃんに殴られた後、身体に痣が出来ていた。顔はそんなに目立たなかったが、身体は痛々しい程にあちこち青く染まっている。
私の身体を見た在昌さんが怒りを露わにして、今すぐに桃ちゃんを殴りに行こうとする彼を止めるのが大変だった。
「傷は直ぐに治りますから…」
私の身体に付いた傷は直ぐに治るけれど、桃ちゃんの心に負った傷は暫くは治らないだろう。
「真緒ちゃん」
「はい…ンっ!」
振り向いた途端に軽い口付け。
「痛くてあまり身体動かせないくせに」
「うっ…」
その通りだった。
むち打ちのようになっていて、お腹を丸めたりすると激痛が走る。骨や内臓には異常が無い為、安心したが本音を言えば凄く痛い。
「今日は一緒にお風呂入ろうか」
「そうで…はい!?」
「だって一人で洗えないよね。それとも洗わないつもり?」
つんつんと頬を突きながら、私の入ってください、という言葉を待つ在昌さん。
これ以上、心配掛けたくない私。そして正直身体を洗って頂くのはありがたい。恐らく自身で洗えば浴室内で絶叫が響き渡るだろう。
恥ずかしいけれど、室内は暗くしてもらえばいいや。そう思った私は在昌さんの提案に頷くのであった。
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