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ひたすら仕事を詰め込んだ。周りが心配する程に仕事、仕事、仕事の日々。
新婚なのに、だのうまくいってないのか、だの周りは口を揃えて言うけれど私は笑って誤魔化した。
あれから運が良かったのか、和臣さんとは全くと言っていい程顔を合わせていない。会社でもだ。
前は定期的に皆の様子を見る為に、ちょこちょこと顔を出していたらしいのだが。
どうやらかなり仕事が忙しいようだ。泊まる事もある、と麻美さんと上司が言っていた。
ちらりと時計を見遣ればかなり集中していたのか、思っていた以上に時計の針は進んでいて。流石に身体に疲れが感じたのと、仕事もキリの良いところまで進められたので、パソコンの電源を落とし、上着を羽織ればポッケに入れていた携帯が音を立てずにぶるぶる、と震え、止まった。
携帯を見遣れば奏太さんからのメールだった。
終わった?迎えに行こうか?と書いてあった。私は返信せずにしまおうと思ったが、大丈夫、タクシー拾うから。と打ち込みポケットにしまいこんだ。
外に出れば、秋を感じさせる風が私の身体に触れて、少しだけ身震いをした。
家から会社まで多少距離があるが、私は歩いて帰る事にし、駅に向かわず何時もと違う方向へと足を向けて。
たまたまウインドウに映った自分を見遣れば、前よりも幾分か痩けていた。顔色も良くは無い。
そう言えば今日は何も食べていないな、と思ったら少しだけ空腹を感じて。けれど空腹を感じただけで、食べたいとは思わなかった。
毎日、麻美さんが皆の弁当を作って持たせてくれる。ついでだから、と言って私の分までだ。最初は断ったのだけれど捨てるよと言われた為、頂いている。
いつの日からか、どうしても食べる事が出来なくなってしまった。見るだけで吐きそうになる為、見つからないように職場で破棄している。今、鞄の中には空になった弁当箱が窮屈そうにしながら入っている。
朝は朝で、元々食べれない体質なので食べていない。
私は足を止め、近くにあるコンビニに寄りブラック珈琲と煙草を1つ買った。
備え付けられている喫煙所でプルタブを開け、一口飲めば苦味で顔を顰めて。煙草をくわえ、火を付けて吸い込めば危うく咳き込みそうになった。
元々、珈琲も煙草も好きではない。寧ろ嫌いだ。煙草に至っては吸った事も無い。
けれど、どうしてか摂取したくなった。無意識の行動。
自傷行為に何ら変わりのない行為に苦笑を漏らしながら短くなった煙草を灰皿に押し付けた。
そのまま重い足取りで家に辿り着けば、家はしんと静まり返っていた。私は物音を立てぬよう、寝室に行き着替えを持って浴室へと向かう。
和臣さんはまだ帰っていないようだった。愛車が止まっていなかった。
早くシャワーを浴びて布団に潜って眠ってしまおう。そして気付けば朝が来て。仕事をこなしてこの時間に帰って――の繰り返し、だ。
疲れない、と言えば嘘になる。だが早くに帰ってこの家で生活する方が、余程苦痛だ。
私はカジュアルワンピースを脱ぎ捨て、浴室へと入る。熱いシャワーを浴び、ざぁざぁと一日の汚れと疲れを落としていく。
泡だったタオルで自分の身体を擦れば目に入る貧相な身体。元々細かったが、前よりも更に細くなっている。
浮き出た肋を撫でながら、泡だった身体をシャワーで流し、お湯を止めて浴室から出た。
身体からむわむわ、と湯気が出ていて、まるでオーラのようだ、と内心笑いながらバスタオルで乱暴に頭、身体…と拭いて家着に腕を通した。
リビングに出て、冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを拝借して喉に流し込めば、身体の熱が下がったように感じて溜息を漏らす。
ちらりと視線を動かせば、棚に置いてある結婚式の写真が目に入って。皆、幸せそうに笑っていた。
どうしても直視出来なくなって目を反らせば後ろで人の気配がし、咄嗟に振り向いてしまった。
「あ……」
そこには和臣さんが居た。暗くて表情は見えないが、良い雰囲気ではないのは確かで。
まさか、鉢合わせするとは思っても居なかった。私は咄嗟に視線をずらし、一言挨拶して和臣さんの横を通りすぎる、筈だった。
「――捕まえた。」
そう言った和臣さんが私を捕らえ、逃がさない、と言うかのようにテーブルに組み敷かれて。思わぬ状況に私の鼓動が停止しそうになった。
気まずい静寂の中、互いの視線がねとりと絡み合う。
我に返った私は、どうにか抜け出そうとするも、力の差がありすぎて逃げられる訳が無かった。
そんな私を見下ろしながら、和臣さんの長い足が私の両足の間に入り込む。ますます逃げ道を塞がれた。
「…少し、痩せた、ね。」
片手で私の手首を固定しながら、もう片方は優しく頬を撫でて。その撫で方が余りにも勘違いしてしまいそうな程、慈しみを帯びていて。
そんな触れ方に泣きそうになる。更に焦がれてしまう。諦めるって決めた筈なのに。私が消える事で全てを無くそうって思ったのに。
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