恋と病

aki

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 この日は珍しく、他のクラスメイトが来た。女子なので、恐らく三葉関係だ。どこかから、三葉が俺の元へ通っていることを知られたのだと思う。要するに、嫉妬。俺も良くする。
「逆巻さん。なんで三葉くんを独り占めしてるの?」
 病室に入ってそうそう、単刀直入にそう聞かれた。遠回りされるよりは断然いいけども、少々ストレートすぎる気がする。それに俺は独り占めしたくてしてる訳では無い。三葉は自分の元に好き好んできてくれているのだ。確証はないけど。
 だからどちらかと言うと、文句を言うのならば三葉に言って欲しい限りである。
 というか、俺の名前知ってるんだ。
「病人アピールして楽しい? そんなに三葉くんの気を引きたい訳?」
「はぁ? どういう事、それ」
 病人アピールなんてした覚えはない。というかまず、俺は一応病人だし。怪我したとでも言われてんのだろうか。
 気を引きたいというところにも納得がいかない。いや、確かに三葉の気は引きたいけどもこれといってなにか行動することができている訳では無いのだから。
 というか、俺が三葉と一緒にいる時間はせいぜい三十分から一時間。絶対に俺よりもこの人の方が長い時間一緒にいることだろう。名前は知らないけど、ムカつくな。
「三葉くんは皆のものなの! 陰キャは黙って教室の端に居ろよ」
「……彼は物じゃないと思うけど」
「はぁ? そんな屁理屈はいいのよ! 私は三葉くんが好きなの! あなたなんかに邪魔されたくない」
 まぁ、そんなことだろうとは思っていた。でなければ、人気者と陰キャの関係に驚きはするものの 文句は言ってこないだろうから。
 でも、実際に目の前で三葉が好きだと宣言されると心臓が痛む。心が苦しい。この人は性格はどうであれ顔は可愛い方なのだろうから三葉が押しに弱い事に気がつけばすぐに付き合うのだろうな、と思う。
 たまにめちゃくちゃ頑固だけど。
「ねぇ、分かったなら三葉くんから離れてくれない? 私は三葉くんが好きなの。アンタなんて友達にも思われてないから」
 クラスメイトの女は人を傷つけて楽しんでいるように笑った。友達にも思われていないとは心外だ。いくら三葉が優しくても友達でも無いやつの見舞いに毎日来ないだろう。ただの友達で止まるつもりは無いけど。
「アンタは三葉くんと一緒にいてもモテないから」
「……別に、モテたくはないし。 好いて欲しい人は俺の事好かないんだから、他の奴にモテても困るでしょ」
「好いて欲しい人……? あぁ、アンタ三葉くんの事が好きなのね」
 なんで俺は本人以外にバレるのだろうか。三葉が鈍感で、俺は分かりやすいのだろうか。分かりやすいとは思いたくない。
 平静を装って、黙秘を決め込む。
「でも、三葉くんは同性愛者とか嫌いだから。アンタに入る余地はないのよ!」
「誰が何を嫌いだって?」
 病室の入口には、いつの間にか三葉が立っていた。この人はつくづく運がないのだろう。この人だけじゃない。俺も、運がない。
「み、三葉くん……! 私は何も……」
「言っとくけど、俺は同性愛に抵抗はないから。てか、それ差別だよ?」
 冷たい目が怒りを表しているようにも取れる。差別に怒れるなんて、正義のヒーローか……なんて。いや、正義のヒーローなんだったら俺なんかに時間割けないだろうけど。
 全部聞かれていたなんて運が悪い。それは俺もなんだろうけど。是非とも、俺の事については何も聞かれていないことを願いたい。聞かれてたら恥ずか死ぬ。
「み、三葉くんのばかぁ」
 クラスメイトの女はそう言い残し、目に雫を貯め走り去っていった。三葉Winということでいいのだろうか?というか、三葉相手には随分と弱いようだ。俺の前ではめちゃくちゃ強気だったのに。
 好きな人の前では猫被り……ということか。周りに嫌われるタイプ。いや、あの子は結構仲のいい子が多かった気がするけど。
 三葉は困ったように笑って、俺を真っ直ぐ見据えた。
「もう俺と関わらない方がいいよ。彼女、あらぬ噂を吹聴することがあるから」
「……例えば?」
「俺と付き合ってるって言われるかもね。それか、俺を自分に縛り付けてる……とか。 ごめん」
 三葉は本当に申し訳なさそうにそう言った。そういう噂は大歓迎なんだけど。
 こういう時は、多分、素直に答えた方がいいのだろう。申し訳なくされるのは嫌だ。自分でも分かるくらい弱々しく、言う。
「三葉なら……いい。 どんな勘違いでも構わない。その、庇ってないから……」
 その言葉に三葉は顔を顰めて、俺の両肩を掴んだ。極めて真剣な三葉に少しだけ、驚いた。俺は何かを間違えたのかと少し怖くもある。
「……ねぇ、それってさ」
「ん?」
「それって自惚れてもいいの? 俺は……お前が俺のこと好きでいてくれてるんだって自惚れていい? 」
 三葉の言葉の意味が一瞬理解できなかった。パソコンとかならこういうのを処理落ち、というのだろうか。何も考えられなくなるような、そんな感じだ。
 脱却したら、言葉の意味を即座に理解した。顔に熱が集まる。俺はきっと夕焼けに当たっている時くらい顔が赤いだろう。
 三葉は自惚れてもいいかと言った。それは、三葉が俺の事を好いていると取ってもいいのだろうか。ここまで言っておいて、そうとっちゃダメだなんて酷いから勝手に勘違いすることにしようと思う。本当に勘違いだったら三葉のせいだ。
「あぁぁ……。 順序を間違えた」
 頭を抱え、反省会を始めた三葉に笑ってしまった。衝動的に……ということが三葉にもあることを知って、嬉しかったのだ。
 三葉は俺をちらっと見て、はにかんだ。恥ずかしそうに一回忘れて、と言われたが忘れられるわけが無い。
「本当に、忘れて」
「……無理かな」
 結局、顔に集まった熱は三葉が帰っても残っていた。夜、冷たい夜風に当たってやっと冷めたほどだ。嬉しさと恥ずかしさがなかなか消えなかった。
 すぅっと息を吸ってから、手紙をしたためる。これは言葉で伝えにくいなら、手紙にしたらといういつかの母の助言である。要するに、書いているのはラブレターなるものだ。正直めちゃくちゃ恥ずかしい。恥ずかしいけど、書くしかないと思っている。
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