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第一蓮
起句 はじめてのおつかい
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謝意
この作品を書くに当たり協力してくださったたくさんの中国の友人たちに感謝します
Thanks for Chinese friends’ cooperating
簡単な前書きと注意
私はこの数年間の間たくさんの中国人としゃべり、飲み食いし、ともに語り明かしましたが、それでも自分の内なる偏見、先入観、そしてたくさんの感情を排するに至りませんでした。人間は決して自分自身の内なる記憶から逃れることはできず、それにもかかわらずなお個人としての友情をはぐくめる生物なのだと私は理解しています。
だから、この物語には私の感じた双方の根強い偏見、先入観がふんだんにちりばめられていますが、それら全ては私の主観的なものであって決して確固として実在するものではないことを事前に予告しておきます。
また、この物語に出てくる人物、団体、国家、その他もろもろの名詞において表現される意味は全て現実に実在するものとはいかなる関係もないことを最大限強調しておきます。
第一連・起句 はじめてのおつかい
View point of 若桜響
暗闇の中できらめく時代遅れのラップトップ型コンピュータ。こほんこほんと思わず咳き込んでしまいそうな廃墟のなかでそのモニターだけが優しく白く輝いている。最新型の使い慣れたものと比べればずいぶん性能に差があるものの、これはこれで使い勝手はいいと思う。
わたしが学校で使っていたメガネ型の端末はとっても使いやすいし快適だけれども、買った時に当局に登録されてしまっているし、わたしの生体認証もされてしまっている。この旧型の少し重い四角い端末はだれでも使えて、当局も知らない、多少の使いづらさはがまんしなきゃ。
モニターの向こうに映るのは見慣れた街の大通り、練習したとおりカメラはどんどん進む。簡単な無線誘導のラジコン飛行機、おじさんのお手製だ。手慣れた手順でモニターを確認しながら操作する
。これを動かすのもけっして簡単じゃなかった。何度も何度も似たようなゲームで練習して、失敗しちゃった。こうしてスムーズに画面が動くのが練習あってのことだと思うと少しこみ上げてくるものすらある。大通りの角の東京飯店を曲がると目的のお店が見える。
大通りは元々わたしの通学路だった。十年以上も通って目をつぶってさえどこに何があるかわかる歩き慣れた道が、滑らかに迷いなく進むカメラに写されては消えていってしまう。あの街頭の一本一本、そこについたCCTV(監視カメラ)の一つ一つすら懐かしく感じられる。先週わたしは高等部を卒業し、東京飯店の従業員になることが決まった。だから今ここで写っている景色は、これから続く何年ものやはりつまらない日常のなかで繰り返される景色。違うのはこれから作る一つの変化だけ。
大通りの角を曲がるとさらに300メートルほどの直線、その右側の6つ目の雑貨店。クラスメートの李春暁さんのお店がカメラの視界に入り始める。通行人の中に街中を飛ぶ飛行機に気がついた人がいるみたいで何人かがこのカメラを指差している。
今更気がついたって遅いのに。まぁ、どっかで気が付かれるのもわかっていたと思う。でも、みんな遅すぎるよ。カメラはクラスメートのお家をロックオン。もう、操作すら必要ないよ。このまままっすぐ行くだけ。
ちょっとだけ彼女に申し訳ないと思う。ううん、そんなふうに考えちゃダメ。彼女はわたしを虐めたじゃない。靴の中に鋲(びょう)を入れたり、机の上に卑猥な落書きをしたり、そういうことを十年も繰り返してきたじゃない。だからこれは同情の余地のない正当な復讐。わたしの方に正義があるんだから。
「弱気になっちゃダメ」
自分に小さく言い聞かせて私は加速のボタンを軽く押す。バッテリーの限り加速してくれればそれでいい。どうせ帰ってこないんだから。
お父さんに聞いたことがある。こういうのをカミカゼって言うんだって。本当に国を想う志士にしかできないことなんだって。私はまだカミカゼできないけど、わたしの代わりにこの飛行機がやってくれるよね。
どんどん飛行機は加速し、画面の向こうの景色も近づいてくる。やっぱりこの時間は人が多いね。いっつも大忙しだっていつだったか言っていたよね、わたしを足蹴にしながら。お店にいる人達には悪いけれども、わたしを虐めるようなひどい人のお店で買い物するんだから同罪だよね。ううん、同情なんてしないよわたし。
ついに店のウィンドウが画面いっぱいに広がって次の瞬間ガラスの破片が画面の中で舞う。ちょっと綺麗かも。そう思いながら最後のボタンを押す。これを押さなくても自動的に発動するはずだけど、やっぱり念には念を入れてね。モニターの中の動画が急変しカメラの視点が床からのものになる。
よかった、ちゃんと自爆できたんだね、わたしの飛行機。画面の中には床の上を悶える何人かの人たちが映る。飛行機に積んでいたのは何種類かの化学物質。わたしは詳しくないんだけどお母さん達が肥料とか洗剤とかそういうのをもとにして作ってくれたものだ。爆発とともに化学変化して毒ガスにうまく変わったみたい。みんな苦しそうに喉を抑えて床の上をのたうち回っている。なんだか腐った肉にわく蛆みたい。
もう少しこの画面を見ていたいけれど、はやくコンピューターの電源を切ってここを後にしないと当局の逆探知?とかでバレちゃうみたいだから。わたしは画面の端で見知ったクラスメートが苦しんでいるのを見つけてから飛行機の誘導ソフトを切って、ラップトップをシャットダウンする。李春暁ちゃん後悔してくれてるかな?わたしたちをさんざんいじめて来たんだから天罰だよね。
それにしてもわたしの設計した自爆装置がうまく機能してくれてよかった。つらいことしかない学校生活だったけど簡単な基板の扱いかたを教えてくれたのだけは感謝してるかな。そういえば中等部のあのクラス、春曉ちゃんは珍しく苦戦してたよね。いつもなんでもすらすら出来るあなたがあの時だけはわたしに負けた。ああ、その腹いせにあなたは友達と一緒にわたしの髪の毛を全部丸刈りにしたんだっけ。
嫌なこと思い出しちゃったな。でも、まぁ、作戦は成功。帰ったらお父さんお母さんほめてくれるかな?これでやっとわたしも大人の仲間入りだよね。
ラップトップを閉じて足早に廃墟を後にする。街路のCCTVを出来る限り避けながら大通りに出る。ここまでくれば大丈夫かな。
いつものように毎日飽きるほど通った道を通って家を目指す。何も特別なことはないように装いながら、でも心臓はバクバク、緊張で汗はだらだら。大通りはすぐに駆けつけたパトカー、武装警察の装甲車、さらには軍の特殊車両まで動員して封鎖される。わたしは驚いたように野次馬に紛れて立入禁止の線ぎりぎりまで近づく。物々しく全身を防毒マスクで覆った人たちが担架で救出作業をしているのが見える。明日のニュースが楽しみだな、そう思いながら私は人混みに紛れてその場を後にした。足が少し震えていた。きっとこれは長年の遺恨を果たせた喜びの震えだって、そう自分に内心言い聞かせていた。
この作品を書くに当たり協力してくださったたくさんの中国の友人たちに感謝します
Thanks for Chinese friends’ cooperating
簡単な前書きと注意
私はこの数年間の間たくさんの中国人としゃべり、飲み食いし、ともに語り明かしましたが、それでも自分の内なる偏見、先入観、そしてたくさんの感情を排するに至りませんでした。人間は決して自分自身の内なる記憶から逃れることはできず、それにもかかわらずなお個人としての友情をはぐくめる生物なのだと私は理解しています。
だから、この物語には私の感じた双方の根強い偏見、先入観がふんだんにちりばめられていますが、それら全ては私の主観的なものであって決して確固として実在するものではないことを事前に予告しておきます。
また、この物語に出てくる人物、団体、国家、その他もろもろの名詞において表現される意味は全て現実に実在するものとはいかなる関係もないことを最大限強調しておきます。
第一連・起句 はじめてのおつかい
View point of 若桜響
暗闇の中できらめく時代遅れのラップトップ型コンピュータ。こほんこほんと思わず咳き込んでしまいそうな廃墟のなかでそのモニターだけが優しく白く輝いている。最新型の使い慣れたものと比べればずいぶん性能に差があるものの、これはこれで使い勝手はいいと思う。
わたしが学校で使っていたメガネ型の端末はとっても使いやすいし快適だけれども、買った時に当局に登録されてしまっているし、わたしの生体認証もされてしまっている。この旧型の少し重い四角い端末はだれでも使えて、当局も知らない、多少の使いづらさはがまんしなきゃ。
モニターの向こうに映るのは見慣れた街の大通り、練習したとおりカメラはどんどん進む。簡単な無線誘導のラジコン飛行機、おじさんのお手製だ。手慣れた手順でモニターを確認しながら操作する
。これを動かすのもけっして簡単じゃなかった。何度も何度も似たようなゲームで練習して、失敗しちゃった。こうしてスムーズに画面が動くのが練習あってのことだと思うと少しこみ上げてくるものすらある。大通りの角の東京飯店を曲がると目的のお店が見える。
大通りは元々わたしの通学路だった。十年以上も通って目をつぶってさえどこに何があるかわかる歩き慣れた道が、滑らかに迷いなく進むカメラに写されては消えていってしまう。あの街頭の一本一本、そこについたCCTV(監視カメラ)の一つ一つすら懐かしく感じられる。先週わたしは高等部を卒業し、東京飯店の従業員になることが決まった。だから今ここで写っている景色は、これから続く何年ものやはりつまらない日常のなかで繰り返される景色。違うのはこれから作る一つの変化だけ。
大通りの角を曲がるとさらに300メートルほどの直線、その右側の6つ目の雑貨店。クラスメートの李春暁さんのお店がカメラの視界に入り始める。通行人の中に街中を飛ぶ飛行機に気がついた人がいるみたいで何人かがこのカメラを指差している。
今更気がついたって遅いのに。まぁ、どっかで気が付かれるのもわかっていたと思う。でも、みんな遅すぎるよ。カメラはクラスメートのお家をロックオン。もう、操作すら必要ないよ。このまままっすぐ行くだけ。
ちょっとだけ彼女に申し訳ないと思う。ううん、そんなふうに考えちゃダメ。彼女はわたしを虐めたじゃない。靴の中に鋲(びょう)を入れたり、机の上に卑猥な落書きをしたり、そういうことを十年も繰り返してきたじゃない。だからこれは同情の余地のない正当な復讐。わたしの方に正義があるんだから。
「弱気になっちゃダメ」
自分に小さく言い聞かせて私は加速のボタンを軽く押す。バッテリーの限り加速してくれればそれでいい。どうせ帰ってこないんだから。
お父さんに聞いたことがある。こういうのをカミカゼって言うんだって。本当に国を想う志士にしかできないことなんだって。私はまだカミカゼできないけど、わたしの代わりにこの飛行機がやってくれるよね。
どんどん飛行機は加速し、画面の向こうの景色も近づいてくる。やっぱりこの時間は人が多いね。いっつも大忙しだっていつだったか言っていたよね、わたしを足蹴にしながら。お店にいる人達には悪いけれども、わたしを虐めるようなひどい人のお店で買い物するんだから同罪だよね。ううん、同情なんてしないよわたし。
ついに店のウィンドウが画面いっぱいに広がって次の瞬間ガラスの破片が画面の中で舞う。ちょっと綺麗かも。そう思いながら最後のボタンを押す。これを押さなくても自動的に発動するはずだけど、やっぱり念には念を入れてね。モニターの中の動画が急変しカメラの視点が床からのものになる。
よかった、ちゃんと自爆できたんだね、わたしの飛行機。画面の中には床の上を悶える何人かの人たちが映る。飛行機に積んでいたのは何種類かの化学物質。わたしは詳しくないんだけどお母さん達が肥料とか洗剤とかそういうのをもとにして作ってくれたものだ。爆発とともに化学変化して毒ガスにうまく変わったみたい。みんな苦しそうに喉を抑えて床の上をのたうち回っている。なんだか腐った肉にわく蛆みたい。
もう少しこの画面を見ていたいけれど、はやくコンピューターの電源を切ってここを後にしないと当局の逆探知?とかでバレちゃうみたいだから。わたしは画面の端で見知ったクラスメートが苦しんでいるのを見つけてから飛行機の誘導ソフトを切って、ラップトップをシャットダウンする。李春暁ちゃん後悔してくれてるかな?わたしたちをさんざんいじめて来たんだから天罰だよね。
それにしてもわたしの設計した自爆装置がうまく機能してくれてよかった。つらいことしかない学校生活だったけど簡単な基板の扱いかたを教えてくれたのだけは感謝してるかな。そういえば中等部のあのクラス、春曉ちゃんは珍しく苦戦してたよね。いつもなんでもすらすら出来るあなたがあの時だけはわたしに負けた。ああ、その腹いせにあなたは友達と一緒にわたしの髪の毛を全部丸刈りにしたんだっけ。
嫌なこと思い出しちゃったな。でも、まぁ、作戦は成功。帰ったらお父さんお母さんほめてくれるかな?これでやっとわたしも大人の仲間入りだよね。
ラップトップを閉じて足早に廃墟を後にする。街路のCCTVを出来る限り避けながら大通りに出る。ここまでくれば大丈夫かな。
いつものように毎日飽きるほど通った道を通って家を目指す。何も特別なことはないように装いながら、でも心臓はバクバク、緊張で汗はだらだら。大通りはすぐに駆けつけたパトカー、武装警察の装甲車、さらには軍の特殊車両まで動員して封鎖される。わたしは驚いたように野次馬に紛れて立入禁止の線ぎりぎりまで近づく。物々しく全身を防毒マスクで覆った人たちが担架で救出作業をしているのが見える。明日のニュースが楽しみだな、そう思いながら私は人混みに紛れてその場を後にした。足が少し震えていた。きっとこれは長年の遺恨を果たせた喜びの震えだって、そう自分に内心言い聞かせていた。
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