野良錬金術師ネモの異世界転生放浪録(旧題:野良錬金術師は頭のネジを投げ捨てた!)

悠十

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野良錬金術師

第四話 不穏な影1

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 町で買い物をしていると、やはり視線を感じる。見慣れぬ人間を警戒していのだ。それに、騎士の姿が昨日より増えているように感じた。
 店で野菜を詰めてもらいながら、店主に話をふってみる。

「何だか町の雰囲気が昨日より物々しい感じがするけど、何かあったんですか?」
「ああ、詳しい事は分からないんだが、王族の方が来るらしいんだ。……お嬢さんは聖職者の失踪事件の事は知ってるかい?」

 ネモが大量に野菜を買ったからか、店主の男が愛想よく教えてくれた。そして、店主の声を潜めての問いに、ネモは神妙に頷く。

「結構とんでもない事になってるんじゃないか、って話だ。何と言っても、この町に来て下さるのが『神の加護』持ちの方らしくてな」
「えっ⁉」

 驚くネモに、店主は気持ちは分かる、と深く頷く。
 『神の加護』とは、その言葉の通りで神からちょっとした――けれども特別な力を授かった存在の事だ。それは人間に限らず、動植物も神に気に入られれば、それを与えられる。
 ネモが声を潜めて言う。

「この国の王族で、『神の加護』持ちっていったら第七王子でしょ? なんか、浄化系の加護だとか聞いたんだけど」
「そうなんだよ。行方不明になってる連中も聖職者だろ? それらから考えると、この事件には悪魔が関わってるんじゃないか、って噂だ」

 うげぇ、と嫌そうな顔をしたネモに、聖職者じゃなさそうだが、お嬢ちゃんも気をつけてな、と店主は話を締めくくった。
 そうしてネモは店を後にし、宿屋へ帰る。
 何だか随分と面倒な事になりそうな事件に、やはり早々に町を出るべきだと思った。
 ネモは聖職者ではないが、珍しい職種である錬金術師だ。犯人の目的によっては巻き込まれる可能性があった。



   ***



「はい。では、ネモの集中クッキングの時間です。拍手~」
「きゅっきゅ~い!」
「おう、待ってたぜ!」

 時刻は夕食時を過ぎた午後八時半。酒を出さない夕焼け亭では、業務の終了時間である。
 町を取り巻く不穏な空気の事はいったん横に置いておき、今やるべきは食事作りだ。

「さて、食事作りの前に、いつも厨房を貸していただいているお礼に、ゼラさんにお土産があります」
「え、何だ?」

 少し驚いた様子で目を瞬かせるゼラに、ネモが「ふっふっふ」と少しばかり不気味に笑いながら、マジックバックからそれを取り出した。

「じゃ~ん、『フードプロセッサー』で~す!」
「フード……なんだって?」

 ネモが取り出したのは、台所の便利道具『フードプロセッサー』だった。

「これは、かの魔道具生産大国モンステラ共和国の魔道具師が、とある貴い方の要請を受けて作り、最近出回るようになった料理用の魔道具です!」
「えっ、そうなのか⁉」

 ぶっちゃけ、こちらも醤油の王弟殿下が関わっている品である。ライトノベルのテンプレ転生者ぶりに拍手を送りたい。素晴らしい金と権力の使い方だ。
 料理用の魔道具と聞き、ゼラが身を乗り出してフードプロセッサーを見つめる。

「試しに使って見せますから、見ておいてくださいね――と、その前に……」
「?」

 ネモはもう一つ、掌大のピラミッド型の魔道具を取り出す。

「このフードプロセッサー、ちょっと音がうるさいんですよ。いつも張ってる防音結界張りますね」
「ああ、そうだったな。お願いするよ」

 その言葉に、ネモは魔道具のボタンを押した。
 すると、魔道具から魔法陣が浮かび上がり、それが床に落ちると半透明の壁が部屋いっぱいにドーム型に浮かび上がって消える。これで防音結界が張られたのだ。
 この防音結界はただ音を外に漏らさないだけなので、物理的な障壁にはならず、出入りは自由だ。
 ネモは厨房を借りるときは大体夜に借りるので、騒音で迷惑にならないようにこの防音結界を張っている。……ただし、匂いは防げないので、稀にメシテロをしてしまうが。
 防音結界が張られたことを確認し、ネモはマジックバックから材料をどんどん取り出す。

「お、これはいい肉だな。魔物のボア系か?」
「あ、それ、グレートボアです」
「グレ――、えっ⁉」

 ぎょっとして目を剥くゼラを尻目に、ネモはのほほんと材料の確認をする。

「ちょ、ネモちゃん! グレートボアっつったら、高級食材じゃないか! これ、単純に焼くだけでも凄く美味いんだぞ!」
「あ、要ります? 大きいの狩ったんで、沢山あるんですよ」

 そう言って塊肉をどんどん出していくと、ゼラが焦った様子で「そんなに要らん! というか、金が無い!」と叫ぶ。

「お安くしときますよ?」
「いや、しかしな、うちの宿でそのグレードは保ち続けられんからな……」

 ゼラは一時良くてもそれを保ち続けられないからやめておく、と苦笑する。

「ただ、個人的に食べる分だけ買わせてもらえるか? 実は、息子が王都から帰ってくるんだ」
「ああ、確か騎士見習いになったんでしたっけ」

 平民から騎士になるのは珍しい。魔力量が潤沢で、武の才能が無ければまず声はかからない。
 ゼラの息子の場合は、突然変異的に魔力量が多く、本人が努力家だった為に武の才能が花開いたのだ。

「ふふ、もう見習いじゃないぜ。任務でこの町に来るんだ。明日帰って来るんだが、一日くらいは泊っていけるらしくてな」

 あいつはステーキが好きだから、その時に食わせてやりたい、と嬉しそうに言うゼラに、じゃあ、見習を卒業したお祝いにお肉は差し上げますね、とグレートボアの塊肉を差し出せば大慌てで固辞された。

「いや、金は払うから!」
「いやいや、私からのお祝いですから!」

 そうやって軽く揉めていると、リタがやってきて、何を揉めているのかと聞いた。そして理由を聞き、苦笑気味に言う。

「ああ……、そうだね。お祝い、って言うなら、素直に貰っておくよ。ただし、その塊の三分の一で良いからね」
「おい、リタ!」
「はい! どうぞどうぞ!」

 ネモは気が変わらないうちに、とばかりに塊肉をカットし、トレイの上に乗せてゼラに渡す。

「ショウユを使ったステーキソースの作り方もあとで教えますね!」
「くぅ……、ありがとうよ、ネモちゃん」

 ゼラは悔しそうだが嬉しそうという複雑な表情を浮かべる。
 そんなゼラを横目に、リタが机の上に乗っている見慣れぬ物に目を止めた。

「で、それは何だい?」
「「あ」」

 視線の先に在るのは、フードプロセッサーだ。これを使おうとしたのに、すっかり忘れていた。グレートボアの魅力、恐るべし。
 その後、フードプロセッサーの使い方を実演し、ゼラが子供のように目を輝かせて歓声を上げた。
しかし、リタがこれがお土産と知り、こんな高価な魔道具貰えない、お金は払うと言って、今度は彼女ともめることになった。
 そんな人間達の様子を、何やってるんだか、と言わんばかりの目であっくんが見ていた。
 あっくんはつまらなさそうにあくびをし、厨房が一望できるカウンターの端に丸まって目を閉じた。
 きっと次に目を覚ました時には、ご馳走が出来ているに違いない。
 そうして、翌日を楽しみにしながら夢の世界へ旅立ったのだった。
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