野良錬金術師ネモの異世界転生放浪録(旧題:野良錬金術師は頭のネジを投げ捨てた!)

悠十

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野良錬金術師

第五話 不穏な影2

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 翌日、ネモはいつもより遅い時間に目を覚ました。
 お土産の支払い交渉は食事代をタダにすることで決着がつき、ゼラは今朝から早速フードプロセッサーを使っているようだ。朝食に枝豆のポタージュが出て来た。
 朝食を食べ終え、満腹になって仰向けに寝転がるあっくんの丸いお腹を眺めながら、今日はどうするか悩み、そういえば、と思い出す。

「あ。盗賊のこと忘れてた」

 生きて捕らえられた盗賊は、犯罪奴隷として売り払われる。そのお金は『地域泰平協力費』という名目で、手数料を引いた額を捕まえた人間に渡される。そして、賞金がかかっている場合もあるので、関所か冒険者ギルドで確認しなければならない。
 ネモの場合は冒険者登録を済ませているため、冒険者ギルドでの確認、支払いとなる。
 あっくんを肩に乗せ、冒険者ギルドへ向かう。ギルド内は早朝の混雑する時間帯からずれているせいか、人はまばらだった。
 ネモは受付カウンターの猫耳の獣人女性に声を掛けた。
 
「すみません、一昨日引き渡した盗賊の件なんですが」
「あ、はい。それでは冒険者カードの提示をお願いします」

 ネモは金属製のカードを取り出し、受付嬢に渡す。
 受付嬢はそれを専用の機械にかざし、少し驚いたような顔をするも、何も言わずに笑顔を作ってカードを返す。
恐らく、ネモの職業に驚いたのだろう。錬金術師は珍しい。

「はい、ありがとうございます。今回の盗賊は賞金がかかっていなかったようですので、地域泰平協力費のお支払いとなります」

 そうして金貨十七枚を受け取った。
 ちなみに、この世界のお金の価値は、日本円に換算すると以下のようになる。

 小銅貨…十円
 銅貨…百円
 銅板…五百円
 銀貨…千円
 銀板…五千円
 金貨…一万円
 金板…十万円
 晶貨…百万円
 晶板…一千万円

 晶貨は何度か見た事があるが、晶板は見た事が無い。こればかりは大商人や国が大きな取引をするような時にしか使われない貨幣だ。
 受け取ったお金をとっととバックの中に仕舞い、依頼が貼ってある掲示板へ向かう。長く旅をしていると、抱えていた在庫がよその土地で高額で取引されていることがある。そうした依頼が無いかどうかの確認だ。
 そうして依頼書をチェックしていると、俄かに騒がしくなる。
 周りの視線が向かうのは、階段から降りて来た体格の良い壮年の男と、明らかに質の良い鎧と騎士服を着た初老の男だ。
 壮年の男は冒険者ギルドのギルドマスターだ。対する初老の男は、この国の騎士だろう。着ている物から地位もそれなりに高いと人物だと推測できる。

「それでは、よろしくお願いいたします」
「ええ、分かりました。――しかし、あの方も相変わらずですな」
「本当に。しかし、今回ばかりは困ります。……いえ、いつも困ってはいるんですがね」

 そんな会話をして、初老の騎士が去って行った。
 それを何となく見送り、呟く。

「将軍……いや、それよりは下? でも、それなら……」

 ネモはもう一度掲示板をざっと見渡し、めぼしい依頼がない事を確認して、ギルドから出る。
 歩きながら、さっきの騎士について考える。
 あれは、明らかに地位が上の人間だ。そして、体格的に冒険者上がりと分かるギルドマスターに丁寧に接し、親し気な様子すら見せていた。高貴な生まれの人間は、悪気が無くともそういう人間を下に見ることが多いが、あの騎士にはそういう様子が無かった。ああいう人間は、国に重宝されている筈だ。
 野菜を売っていた店主の言葉を思い出す。

「多分、王子付きの騎士よね……」

 上の王子達が健在で、七人目で加護持ちとなると上層部では持て余していそうだ。
 こういう場合は面倒な権力争いを避けるために王家から籍を抜いて出家するのだが、そんな話は聞いていない。
 それに現在の王には側室はおらず、七人の子供達は全て王妃が産んだ子供だ。実家関係の権力争いが起きないだけ面倒が少ない。
 そして、あの騎士はそんな王子に媚びることも、侮ることもしないだろう印象を受けた。
 印象そのままの人物であれば、そんな人物を王子の傍につけているなら家族仲も悪くなさそうだ。
 さて、そんな王家の信頼が厚いであろう騎士がこの町に居るということは、どういうことか。

「加護持ちの王子が町に居る。つまり、王族ですら現場に出なければならない程の案件、ってことか……」

 国家規模で厄介な事件に発展しそうな問題である事が確定した。
 ネモは口をへの字に曲げて渋い顔をする。

「……あっくん」
「きゅ?」

 肩口のあっくんは可愛らしく首を傾げてネモを見た。

「お昼は屋台で色々食べよっか!」
「きゅっきゅ~い!」

 ネモは思考放棄し、取りあえずやけ食いをすることにした。



   ***



「まさか金貨三枚分も食べるとは……」
「きゅきゅっ」

 バキュームの如く屋台の食べ物を食べまくったあっくんは、テヘペロとでも言わんばかりの顔をする。本当に、その小さなお腹の何処に入っているのやら。
 疲れた顔で宿屋の扉を開けば、宿屋夫妻とその息子の再会ノシーンが目に飛び込んできた。
 おやまあ、と目を瞬かせてると、ゼラがこちらに気付いて少し恥ずかしそうな顔をした。

「ああ、ごめんなネモちゃん。こんな入り口でさ」
「いえ、大丈夫ですよ。息子さん、帰って来たんですね」

 母親から熱烈なハグを受けて気恥ずかしそうな顔をしている黒髪の青年は、ゼラに似ていた。
 
「おい、ルド。今日は泊っていけるんだろ?」
「ああ、一日だけだけどね」

 彼はゼラの言葉に頷き、その拍子にネモと目が合う。

「あ、すみません。お客さんですよね」
「あ、いえ、気にしないでください」
「ルド、この子はネモちゃんだ。ネモちゃん、こいつが息子のルドだ」

 紹介され、ネモは「よろしく」と手を差し出し、ルドと握手した。

「そして、今日の晩飯のグレートボアの肉の提供者だ。凄いんだぜ、この子がグレートボアを狩ったんだ」
「えっ」

 驚いた様子のルドに、「いや、正確には狩ったのはあっくんですよ」と訂正を入れる。
 「あっくん?」と首を傾げるルドに、肩口のあっくんを指させば、疑わしそうな顔をされた。まあ、気持ちは分かる。見た目はマスコット体系の可愛い白リスだ。

「あっくんは幻獣ですから、見た目通りの存在じゃありませんよ」
「まあ、そうですよね……」

 まじまじと見られ、あっくんはキャッと照れたように顔を手で隠した。

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