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野良錬金術師
第二十六話 契約2
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ネモは鞄から紙とペン、インクを取り出し、サラサラと文書を作成してあっくんに差し出す。
「あっくん、ここに手形を貰える?」
「きゅ?」
「ネモ、それはなんだ?」
アルスの質問に、ネモは肩を竦めて答える。
「悪魔と契約する際に必要になる契約書よ」
その返答に驚き、紙をのぞき込めば、普段自分たちが使っている共通語の文字ではない言葉で文章が書かれていた。
「なんて書いてあるんだ?」
「ん~、要約するとあっくんの下僕になる代わりに世界樹の養分にはしない、っていう契約ね」
途轍もなく人権無視――否、悪魔権無視の契約書である。しかも世界樹の養分にしないだけで、他の手段は用いる事が出来るのだからたまらない。
あっくんは小首を傾げつつ、インクを手に塗って、契約書にペタッと手形を付ける。
それを持ってザクロの前に行き、紙を差し出す。
「じゃあ、血判をよろしく」
「そこはサインじゃないのかい⁉」
懐から針を取り出しつつ、腕を自由にするわけないでしょ、と言えば、ザクロは渋面を作って黙った。
「アンタは私達の命を狙って負けたの。敗者のアンタは勝者の私達に命を握られて当然でしょ」
ネモは巻き付く根の中からザクロの手を引き出し、容赦なく指先に針を刺して血判を押させた。
すると、契約書の文字が輝き出し、文字が紙から剥がれる。それは宙に浮き、全く同じ文章が二重に重なるように現れ、二つに分かれた。
それらは一つずつあっくんとザクロの元へ飛んでいき、それぞれに吸い込まれるようにして消えた。
「ネ、ネモ……」
「大丈夫。悪魔との契約はああいうふうになるの」
戸惑うアルスに短く答え、ネモはあっ君に近づく。
「あっくん、ごめん、ちょっと確認させてね」
「きゅ?」
ネモはあっくんをひっくりかえしたり、毛を掻き分けるようにして地肌を見たりと、くまなくその体を点検し、目的の物を見つけ――噴き出した。
「ぷっ! ちょ、ふふ、う、うそでしょ……!」
そのままゲラゲラと笑い出したネモに、アルスが目を丸くする。
「どうしたんだ?」
何故笑うのかと聞けば、ネモは面白そうに抱き上げたあっくんを差し出し、言う。
「あっくんの足の裏、見てちょうだい」
「んん?」
アルスはあっくんを受け取り、言われた通りにあっくんの足の裏を見つめ、それを見つけた。
「む……? これは、紋章か……? この、肉球のところに小さくポツンとある、黒子みたいな……」
「そう、それ!」
それは、蝙蝠の羽をモチーフにした紋章だった。
それはあまりに小さすぎて黒子のように見え、よく見ないと紋章だと分からない。
「これ、悪魔の契約印なんだけど、どこに、どんな大きさで現れるかで契約者との力関係が分かるのよ」
「へぇ……」
そうなのか、とアルスが頷いたところで、悪魔が嘘だ、と悲鳴じみた声を上げた。
「そんな、まさか、私の契約印が足の裏に⁉」
「ピンポーン! 大正解! 普通は心臓付近の胸や額、目に出るもんだけど、あっくんが強すぎて足の裏になったみたいね!」
流石は幻獣界の触るな危険。その力は、悪魔の伯爵位程度では足元にも及ばないようだ。
地面に降ろされたあっくんは、注目されていた自分の足の裏を見るも、何が変わったのかよくわからなかったらしく、不思議そうに首を傾げてタシタシと足踏みした。
「さて、あっくん。このままコイツをここに居させても邪魔なだけだから、しまっちゃ――いえ、生まれ故郷へ帰ってもらいましょう」
「きゅいっ」
「あー、精神世界へしまっちゃうのか」
完全なる邪魔者扱いだ。
あっくんはネモの提案に素直に頷き、「きゅっきゅ~」と鳴きながらバイバイと手を振る。
すると、ザクロが倒れていた地面が波打ち、まるで沼に沈むかの如く体が地面に沈んでいく。
「な、なんだこれは⁉」
ザクロはそれに驚き、身じろぎするが、それは無駄なあがきだった。沈む速度は変わらず、容赦なくザクロの体を飲み込んでいく。
「ネ、ネモ、あれは大丈夫なのか?」
「ん~、さあ?」
「えっ」
とても精神世界への帰還とは思えないありさまにアルスが不安になって尋ねると、ネモは爽やかな笑顔で首を傾げた。
その返答に固まるアルスに、ネモは肩を竦める。
「だって、悪魔に会うなんて、私はこれが二度目なのよ? しかも、契約して精神世界へ帰還させるなんて初めてだもの。聞くならあっくんに聞いてほしいわ」
そう言われてあっくんの方を見てみれば、あっくんは既にザクロへの興味を無くし、ドラゴンの尻尾をペチペチと叩いていた。その様は、なに作ってもらおっかな~、とでも言わんばかりである。
「まあ、生存の有無は分かるわよ? 死んだら契約印が消えるもの」
「お、おう……」
ネモの容赦ない言葉にアルスは引き気味に頷く。
引き気味ではあるが、止めないアルスとは別に、それでは困るザクロが声を荒げる。
「やめろ! くそっ、ご主人様! マスター! これを止めて下さい! 私はお役に立ちますよ! 何でも願いを叶えます! ご主人様!」
ザクロの必死の訴えに、あっくんは「きゅ?」と不思議そうに小首を傾げる。何故ザクロが慌ててるのか分からないのだ。なにせ、あっくんとしては生まれ故郷に帰そうとしているだけなのだから。
「ご主人様! ご――」
――トプン……
とうとう口元が地面に飲み込まれ、ほどなくして全身が沈み、波紋が広がる。
ザクロの喚き声が消え、洞窟内がシンと静まり返る。
ネモは小さく息を吐き、あっくんの方へ近づく。
彼を抱き上げ、その足の裏を確認すれば、そこには小さな紋章が在った。それに少し残念そうな顔をしつつも、ふっと力を抜いて小さく笑みを浮かべる。
「……さて、帰りましょうか」
その言葉に、アルスは大きく破顔し、あっくんは「きゅいっ」と元気よく返事を返した。
「あっくん、ここに手形を貰える?」
「きゅ?」
「ネモ、それはなんだ?」
アルスの質問に、ネモは肩を竦めて答える。
「悪魔と契約する際に必要になる契約書よ」
その返答に驚き、紙をのぞき込めば、普段自分たちが使っている共通語の文字ではない言葉で文章が書かれていた。
「なんて書いてあるんだ?」
「ん~、要約するとあっくんの下僕になる代わりに世界樹の養分にはしない、っていう契約ね」
途轍もなく人権無視――否、悪魔権無視の契約書である。しかも世界樹の養分にしないだけで、他の手段は用いる事が出来るのだからたまらない。
あっくんは小首を傾げつつ、インクを手に塗って、契約書にペタッと手形を付ける。
それを持ってザクロの前に行き、紙を差し出す。
「じゃあ、血判をよろしく」
「そこはサインじゃないのかい⁉」
懐から針を取り出しつつ、腕を自由にするわけないでしょ、と言えば、ザクロは渋面を作って黙った。
「アンタは私達の命を狙って負けたの。敗者のアンタは勝者の私達に命を握られて当然でしょ」
ネモは巻き付く根の中からザクロの手を引き出し、容赦なく指先に針を刺して血判を押させた。
すると、契約書の文字が輝き出し、文字が紙から剥がれる。それは宙に浮き、全く同じ文章が二重に重なるように現れ、二つに分かれた。
それらは一つずつあっくんとザクロの元へ飛んでいき、それぞれに吸い込まれるようにして消えた。
「ネ、ネモ……」
「大丈夫。悪魔との契約はああいうふうになるの」
戸惑うアルスに短く答え、ネモはあっ君に近づく。
「あっくん、ごめん、ちょっと確認させてね」
「きゅ?」
ネモはあっくんをひっくりかえしたり、毛を掻き分けるようにして地肌を見たりと、くまなくその体を点検し、目的の物を見つけ――噴き出した。
「ぷっ! ちょ、ふふ、う、うそでしょ……!」
そのままゲラゲラと笑い出したネモに、アルスが目を丸くする。
「どうしたんだ?」
何故笑うのかと聞けば、ネモは面白そうに抱き上げたあっくんを差し出し、言う。
「あっくんの足の裏、見てちょうだい」
「んん?」
アルスはあっくんを受け取り、言われた通りにあっくんの足の裏を見つめ、それを見つけた。
「む……? これは、紋章か……? この、肉球のところに小さくポツンとある、黒子みたいな……」
「そう、それ!」
それは、蝙蝠の羽をモチーフにした紋章だった。
それはあまりに小さすぎて黒子のように見え、よく見ないと紋章だと分からない。
「これ、悪魔の契約印なんだけど、どこに、どんな大きさで現れるかで契約者との力関係が分かるのよ」
「へぇ……」
そうなのか、とアルスが頷いたところで、悪魔が嘘だ、と悲鳴じみた声を上げた。
「そんな、まさか、私の契約印が足の裏に⁉」
「ピンポーン! 大正解! 普通は心臓付近の胸や額、目に出るもんだけど、あっくんが強すぎて足の裏になったみたいね!」
流石は幻獣界の触るな危険。その力は、悪魔の伯爵位程度では足元にも及ばないようだ。
地面に降ろされたあっくんは、注目されていた自分の足の裏を見るも、何が変わったのかよくわからなかったらしく、不思議そうに首を傾げてタシタシと足踏みした。
「さて、あっくん。このままコイツをここに居させても邪魔なだけだから、しまっちゃ――いえ、生まれ故郷へ帰ってもらいましょう」
「きゅいっ」
「あー、精神世界へしまっちゃうのか」
完全なる邪魔者扱いだ。
あっくんはネモの提案に素直に頷き、「きゅっきゅ~」と鳴きながらバイバイと手を振る。
すると、ザクロが倒れていた地面が波打ち、まるで沼に沈むかの如く体が地面に沈んでいく。
「な、なんだこれは⁉」
ザクロはそれに驚き、身じろぎするが、それは無駄なあがきだった。沈む速度は変わらず、容赦なくザクロの体を飲み込んでいく。
「ネ、ネモ、あれは大丈夫なのか?」
「ん~、さあ?」
「えっ」
とても精神世界への帰還とは思えないありさまにアルスが不安になって尋ねると、ネモは爽やかな笑顔で首を傾げた。
その返答に固まるアルスに、ネモは肩を竦める。
「だって、悪魔に会うなんて、私はこれが二度目なのよ? しかも、契約して精神世界へ帰還させるなんて初めてだもの。聞くならあっくんに聞いてほしいわ」
そう言われてあっくんの方を見てみれば、あっくんは既にザクロへの興味を無くし、ドラゴンの尻尾をペチペチと叩いていた。その様は、なに作ってもらおっかな~、とでも言わんばかりである。
「まあ、生存の有無は分かるわよ? 死んだら契約印が消えるもの」
「お、おう……」
ネモの容赦ない言葉にアルスは引き気味に頷く。
引き気味ではあるが、止めないアルスとは別に、それでは困るザクロが声を荒げる。
「やめろ! くそっ、ご主人様! マスター! これを止めて下さい! 私はお役に立ちますよ! 何でも願いを叶えます! ご主人様!」
ザクロの必死の訴えに、あっくんは「きゅ?」と不思議そうに小首を傾げる。何故ザクロが慌ててるのか分からないのだ。なにせ、あっくんとしては生まれ故郷に帰そうとしているだけなのだから。
「ご主人様! ご――」
――トプン……
とうとう口元が地面に飲み込まれ、ほどなくして全身が沈み、波紋が広がる。
ザクロの喚き声が消え、洞窟内がシンと静まり返る。
ネモは小さく息を吐き、あっくんの方へ近づく。
彼を抱き上げ、その足の裏を確認すれば、そこには小さな紋章が在った。それに少し残念そうな顔をしつつも、ふっと力を抜いて小さく笑みを浮かべる。
「……さて、帰りましょうか」
その言葉に、アルスは大きく破顔し、あっくんは「きゅいっ」と元気よく返事を返した。
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