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悪夢編
第十一話 疑い1
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「もうヤダ、あっくん。これどう思う?」
「きゅあ~?」
ネモは試験管内の反応を見て、嫌そうにそう言えば、あっくんは屋台で買った串焼きをモリモリ串焼きを食べながらも、なにが? と首を傾げた。
「これ、あの屋敷で差し入れしてもらったスープ」
「ぎゅっ」
嫌そうな顔をするあっくんに、ネモは苦笑する。
そう。偶然にも件のスープを確保していたネモは、なにが入っているのか割り出す為に検査したのだ。
そして、結果、パーレ草の他にも数点人が摂取してはならない薬草が入っていたことがわかった。
「この結果を見るに、裏社会で使われていたことがある薬が浮かび上がるのよね。これ、効果を考えると暗示をかける時に使うものなんだけど……」
しかし、暗示などそう簡単にかけられるものではないし、この薬を使ってそれを成すのは相当難しい。
「この薬だと、呪術か魔法での暗示を補助する程度のものだし……。これを実際に使って暗示を成功させてるとしたら、相当な腕の持ち主よね」
呪術と魔法は体系の違うものの、両方とも奇跡を成す技である。双方共に暗示をかける為の術もあるのだが、それには必ず補助薬や魔道具を必要とするが、今回使われている薬は毒性は弱い代わりに、暗示の成功率が低くなる。それを成功させているのなら、その暗示をかけた呪術師だか魔導士だかは相当の腕前の持ち主という事になるのだ。
「けど、あの屋敷で暗示をかけて得する人間って、誰になるのかしら?」
明らかに金の無い状態だし、どうせ暗示をかけるなら、あの奥様の神経質な横暴さをどうにかしたいとは思わないのだろうか?
「執事のベンさんはなんか違和感を感じるし、スープにはヤバイ薬草が入ってし。ハウエル夫人は半年前に引っ越してきて、病を患っている。サミュエル君は町のお嬢さんに人気があって、メイドのアンナさんはおばちゃん曰く嫉妬深い。……そもそも、あの規模の屋敷に使用人が四人だけ、ってのもおかしいのよね」
顎に手をやり、考え込むように呟く。
あっくんはそんなネモの呟きを聞きながら、串焼きの入った紙袋から串焼きを取り出し、モモモと程よくハーブと塩が程よく利いた肉を食べる。
「考えれば考える程、分からなくなってきたわ……」
そもそも、裏社会で暗示などというコアな目的のために使われる薬を、誰がスープに入れたのだろうか?
スープはコックが作ったものだろうが、隙を見て違う人間が薬を投入した可能性も考えられる。
そう考えながら、ネモは苛立たしげに髪をかき回す。
「あー、もう! 厄介なモノに関わっちゃったなぁ……」
そう呻き、串焼きを食べようと紙袋の中身を見て、絶句する。
「あっくぅぅぅん?」
「きゅっ」
ネモの低い声に、あっくんの肩がギクリと跳ねる。
ニ十本近く串焼きが入っていた筈の紙袋の中身は、肉のついていないただの串が入っているだけだった。
***
翌日、ネモは町に情報収集に出かけた。ハウエル家に関しての情報を得るためだ。
ハウエル家は宝石や良い服を売りに出せた程度には良家だったのだから、『家』として何かしらの情報があるだろうと思ったのだ。
しかし、ネモのそれは外れることとなる。
「無い?」
「ああ、無いな」
そう言うのは、薄暗い路地に居た情報屋だ。
情報屋とは、塒にしている町や、周辺の地域の情報を集め、金などで売っている存在のことだ。
町には必ずそういったものを生業としている者がおり、この町にもこの情報屋の男が居た。
「ハウエル家、ってのは聞いたことが無い。この国の貴族名鑑には間違いなく載ってないだろうし、そういう名前の金持ちは聞いたことが無い」
「でも、ハウエル家の奥様って、いかにも良家の没落した家の夫人、って感じだったわよ?」
ネモはそう言うが、情報屋は肩を竦めただけだった。
「別の国の人間なら、可能性はあると思うぜ。流石の俺も、他の国の金持ちの名前は網羅してねぇからな。俺が知ってるのは有名どころだけだ。ま、その有名どころにもハウエル家は無いな」
「なるほど……」
ネモは情報屋に金を払い、裏路地から出る。
さて、情報屋から情報を買えないとなると、どうすべきか、と悩んでいると、不意にあっくんがネモの頬をぺちぺちと小さい手で叩いた。
「きゅきゅっ!」
「あっくん、どうしたの?」
ネモが尋ねれば、あっくんは尻尾を揺らしながら、ある商店を指さした。そこは、加工食品を販売している店だった。
「もしかしてジャムが欲しいの?」
「きゅいっ!」
元気よく肯定するあっくんに、ネモは苦笑する。どうにも、あっくんはこのごろジャムに嵌っていた。ある町で食べた桃ジャムに嵌り、そこから各地の特産品で作ったジャムを欲しがるようになったのだ。
「そうね。せっかっくだし、一つ買って行こうかしら」
「きゅっきゃ~!」
わーと、と喜ぶあっくんを横目に、ネモは店へ入っていく。
店には、スタンダードなベリー系のジャムと、この土地の特産品だというアプリコットジャムが置いてあった。
ネモはアプリコットジャムを手に持ちながら、そう言えばあのハウエル夫人もマーマレードジャムがお気に入りだと言っていたな、と思い出す。
「そう言えば、ワインが有名な領地なのよね」
ワインも買って行こうかな、とワインの棚を見つつ、連鎖的に美談のワインのことを思い出す。
その美談のワインを、ネモは原産地で飲んだことがある。美味しい物があればふらりと行ってみるのが旅の醍醐味の一つだ。だから、ネモはその領の近くまで用事があって行ったとき、せっかくだからとそこまで足を延ばしたのだ。
そして、美味しいワインに舌鼓を打ちつつ、サージス領の人に当時の苦しい状況や、どれだけアーロンという人に助けて貰ったかを聞いた。
「確か、アーロン・マクシード子爵って名前の――」
そこまで言って、固まる。
マクシードはという家名は、最近何処かで聞かなかっただろうか?
脳裏をよぎる顔は、柔らかそうな銀の髪に、金の瞳の美少年。
「まさか……」
ネモは浮かび上がった可能性に、天を仰いだ。
「きゅあ~?」
ネモは試験管内の反応を見て、嫌そうにそう言えば、あっくんは屋台で買った串焼きをモリモリ串焼きを食べながらも、なにが? と首を傾げた。
「これ、あの屋敷で差し入れしてもらったスープ」
「ぎゅっ」
嫌そうな顔をするあっくんに、ネモは苦笑する。
そう。偶然にも件のスープを確保していたネモは、なにが入っているのか割り出す為に検査したのだ。
そして、結果、パーレ草の他にも数点人が摂取してはならない薬草が入っていたことがわかった。
「この結果を見るに、裏社会で使われていたことがある薬が浮かび上がるのよね。これ、効果を考えると暗示をかける時に使うものなんだけど……」
しかし、暗示などそう簡単にかけられるものではないし、この薬を使ってそれを成すのは相当難しい。
「この薬だと、呪術か魔法での暗示を補助する程度のものだし……。これを実際に使って暗示を成功させてるとしたら、相当な腕の持ち主よね」
呪術と魔法は体系の違うものの、両方とも奇跡を成す技である。双方共に暗示をかける為の術もあるのだが、それには必ず補助薬や魔道具を必要とするが、今回使われている薬は毒性は弱い代わりに、暗示の成功率が低くなる。それを成功させているのなら、その暗示をかけた呪術師だか魔導士だかは相当の腕前の持ち主という事になるのだ。
「けど、あの屋敷で暗示をかけて得する人間って、誰になるのかしら?」
明らかに金の無い状態だし、どうせ暗示をかけるなら、あの奥様の神経質な横暴さをどうにかしたいとは思わないのだろうか?
「執事のベンさんはなんか違和感を感じるし、スープにはヤバイ薬草が入ってし。ハウエル夫人は半年前に引っ越してきて、病を患っている。サミュエル君は町のお嬢さんに人気があって、メイドのアンナさんはおばちゃん曰く嫉妬深い。……そもそも、あの規模の屋敷に使用人が四人だけ、ってのもおかしいのよね」
顎に手をやり、考え込むように呟く。
あっくんはそんなネモの呟きを聞きながら、串焼きの入った紙袋から串焼きを取り出し、モモモと程よくハーブと塩が程よく利いた肉を食べる。
「考えれば考える程、分からなくなってきたわ……」
そもそも、裏社会で暗示などというコアな目的のために使われる薬を、誰がスープに入れたのだろうか?
スープはコックが作ったものだろうが、隙を見て違う人間が薬を投入した可能性も考えられる。
そう考えながら、ネモは苛立たしげに髪をかき回す。
「あー、もう! 厄介なモノに関わっちゃったなぁ……」
そう呻き、串焼きを食べようと紙袋の中身を見て、絶句する。
「あっくぅぅぅん?」
「きゅっ」
ネモの低い声に、あっくんの肩がギクリと跳ねる。
ニ十本近く串焼きが入っていた筈の紙袋の中身は、肉のついていないただの串が入っているだけだった。
***
翌日、ネモは町に情報収集に出かけた。ハウエル家に関しての情報を得るためだ。
ハウエル家は宝石や良い服を売りに出せた程度には良家だったのだから、『家』として何かしらの情報があるだろうと思ったのだ。
しかし、ネモのそれは外れることとなる。
「無い?」
「ああ、無いな」
そう言うのは、薄暗い路地に居た情報屋だ。
情報屋とは、塒にしている町や、周辺の地域の情報を集め、金などで売っている存在のことだ。
町には必ずそういったものを生業としている者がおり、この町にもこの情報屋の男が居た。
「ハウエル家、ってのは聞いたことが無い。この国の貴族名鑑には間違いなく載ってないだろうし、そういう名前の金持ちは聞いたことが無い」
「でも、ハウエル家の奥様って、いかにも良家の没落した家の夫人、って感じだったわよ?」
ネモはそう言うが、情報屋は肩を竦めただけだった。
「別の国の人間なら、可能性はあると思うぜ。流石の俺も、他の国の金持ちの名前は網羅してねぇからな。俺が知ってるのは有名どころだけだ。ま、その有名どころにもハウエル家は無いな」
「なるほど……」
ネモは情報屋に金を払い、裏路地から出る。
さて、情報屋から情報を買えないとなると、どうすべきか、と悩んでいると、不意にあっくんがネモの頬をぺちぺちと小さい手で叩いた。
「きゅきゅっ!」
「あっくん、どうしたの?」
ネモが尋ねれば、あっくんは尻尾を揺らしながら、ある商店を指さした。そこは、加工食品を販売している店だった。
「もしかしてジャムが欲しいの?」
「きゅいっ!」
元気よく肯定するあっくんに、ネモは苦笑する。どうにも、あっくんはこのごろジャムに嵌っていた。ある町で食べた桃ジャムに嵌り、そこから各地の特産品で作ったジャムを欲しがるようになったのだ。
「そうね。せっかっくだし、一つ買って行こうかしら」
「きゅっきゃ~!」
わーと、と喜ぶあっくんを横目に、ネモは店へ入っていく。
店には、スタンダードなベリー系のジャムと、この土地の特産品だというアプリコットジャムが置いてあった。
ネモはアプリコットジャムを手に持ちながら、そう言えばあのハウエル夫人もマーマレードジャムがお気に入りだと言っていたな、と思い出す。
「そう言えば、ワインが有名な領地なのよね」
ワインも買って行こうかな、とワインの棚を見つつ、連鎖的に美談のワインのことを思い出す。
その美談のワインを、ネモは原産地で飲んだことがある。美味しい物があればふらりと行ってみるのが旅の醍醐味の一つだ。だから、ネモはその領の近くまで用事があって行ったとき、せっかくだからとそこまで足を延ばしたのだ。
そして、美味しいワインに舌鼓を打ちつつ、サージス領の人に当時の苦しい状況や、どれだけアーロンという人に助けて貰ったかを聞いた。
「確か、アーロン・マクシード子爵って名前の――」
そこまで言って、固まる。
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