48 / 57
悪夢編
第十一話 疑い1
しおりを挟む
「もうヤダ、あっくん。これどう思う?」
「きゅあ~?」
ネモは試験管内の反応を見て、嫌そうにそう言えば、あっくんは屋台で買った串焼きをモリモリ串焼きを食べながらも、なにが? と首を傾げた。
「これ、あの屋敷で差し入れしてもらったスープ」
「ぎゅっ」
嫌そうな顔をするあっくんに、ネモは苦笑する。
そう。偶然にも件のスープを確保していたネモは、なにが入っているのか割り出す為に検査したのだ。
そして、結果、パーレ草の他にも数点人が摂取してはならない薬草が入っていたことがわかった。
「この結果を見るに、裏社会で使われていたことがある薬が浮かび上がるのよね。これ、効果を考えると暗示をかける時に使うものなんだけど……」
しかし、暗示などそう簡単にかけられるものではないし、この薬を使ってそれを成すのは相当難しい。
「この薬だと、呪術か魔法での暗示を補助する程度のものだし……。これを実際に使って暗示を成功させてるとしたら、相当な腕の持ち主よね」
呪術と魔法は体系の違うものの、両方とも奇跡を成す技である。双方共に暗示をかける為の術もあるのだが、それには必ず補助薬や魔道具を必要とするが、今回使われている薬は毒性は弱い代わりに、暗示の成功率が低くなる。それを成功させているのなら、その暗示をかけた呪術師だか魔導士だかは相当の腕前の持ち主という事になるのだ。
「けど、あの屋敷で暗示をかけて得する人間って、誰になるのかしら?」
明らかに金の無い状態だし、どうせ暗示をかけるなら、あの奥様の神経質な横暴さをどうにかしたいとは思わないのだろうか?
「執事のベンさんはなんか違和感を感じるし、スープにはヤバイ薬草が入ってし。ハウエル夫人は半年前に引っ越してきて、病を患っている。サミュエル君は町のお嬢さんに人気があって、メイドのアンナさんはおばちゃん曰く嫉妬深い。……そもそも、あの規模の屋敷に使用人が四人だけ、ってのもおかしいのよね」
顎に手をやり、考え込むように呟く。
あっくんはそんなネモの呟きを聞きながら、串焼きの入った紙袋から串焼きを取り出し、モモモと程よくハーブと塩が程よく利いた肉を食べる。
「考えれば考える程、分からなくなってきたわ……」
そもそも、裏社会で暗示などというコアな目的のために使われる薬を、誰がスープに入れたのだろうか?
スープはコックが作ったものだろうが、隙を見て違う人間が薬を投入した可能性も考えられる。
そう考えながら、ネモは苛立たしげに髪をかき回す。
「あー、もう! 厄介なモノに関わっちゃったなぁ……」
そう呻き、串焼きを食べようと紙袋の中身を見て、絶句する。
「あっくぅぅぅん?」
「きゅっ」
ネモの低い声に、あっくんの肩がギクリと跳ねる。
ニ十本近く串焼きが入っていた筈の紙袋の中身は、肉のついていないただの串が入っているだけだった。
***
翌日、ネモは町に情報収集に出かけた。ハウエル家に関しての情報を得るためだ。
ハウエル家は宝石や良い服を売りに出せた程度には良家だったのだから、『家』として何かしらの情報があるだろうと思ったのだ。
しかし、ネモのそれは外れることとなる。
「無い?」
「ああ、無いな」
そう言うのは、薄暗い路地に居た情報屋だ。
情報屋とは、塒にしている町や、周辺の地域の情報を集め、金などで売っている存在のことだ。
町には必ずそういったものを生業としている者がおり、この町にもこの情報屋の男が居た。
「ハウエル家、ってのは聞いたことが無い。この国の貴族名鑑には間違いなく載ってないだろうし、そういう名前の金持ちは聞いたことが無い」
「でも、ハウエル家の奥様って、いかにも良家の没落した家の夫人、って感じだったわよ?」
ネモはそう言うが、情報屋は肩を竦めただけだった。
「別の国の人間なら、可能性はあると思うぜ。流石の俺も、他の国の金持ちの名前は網羅してねぇからな。俺が知ってるのは有名どころだけだ。ま、その有名どころにもハウエル家は無いな」
「なるほど……」
ネモは情報屋に金を払い、裏路地から出る。
さて、情報屋から情報を買えないとなると、どうすべきか、と悩んでいると、不意にあっくんがネモの頬をぺちぺちと小さい手で叩いた。
「きゅきゅっ!」
「あっくん、どうしたの?」
ネモが尋ねれば、あっくんは尻尾を揺らしながら、ある商店を指さした。そこは、加工食品を販売している店だった。
「もしかしてジャムが欲しいの?」
「きゅいっ!」
元気よく肯定するあっくんに、ネモは苦笑する。どうにも、あっくんはこのごろジャムに嵌っていた。ある町で食べた桃ジャムに嵌り、そこから各地の特産品で作ったジャムを欲しがるようになったのだ。
「そうね。せっかっくだし、一つ買って行こうかしら」
「きゅっきゃ~!」
わーと、と喜ぶあっくんを横目に、ネモは店へ入っていく。
店には、スタンダードなベリー系のジャムと、この土地の特産品だというアプリコットジャムが置いてあった。
ネモはアプリコットジャムを手に持ちながら、そう言えばあのハウエル夫人もマーマレードジャムがお気に入りだと言っていたな、と思い出す。
「そう言えば、ワインが有名な領地なのよね」
ワインも買って行こうかな、とワインの棚を見つつ、連鎖的に美談のワインのことを思い出す。
その美談のワインを、ネモは原産地で飲んだことがある。美味しい物があればふらりと行ってみるのが旅の醍醐味の一つだ。だから、ネモはその領の近くまで用事があって行ったとき、せっかくだからとそこまで足を延ばしたのだ。
そして、美味しいワインに舌鼓を打ちつつ、サージス領の人に当時の苦しい状況や、どれだけアーロンという人に助けて貰ったかを聞いた。
「確か、アーロン・マクシード子爵って名前の――」
そこまで言って、固まる。
マクシードはという家名は、最近何処かで聞かなかっただろうか?
脳裏をよぎる顔は、柔らかそうな銀の髪に、金の瞳の美少年。
「まさか……」
ネモは浮かび上がった可能性に、天を仰いだ。
「きゅあ~?」
ネモは試験管内の反応を見て、嫌そうにそう言えば、あっくんは屋台で買った串焼きをモリモリ串焼きを食べながらも、なにが? と首を傾げた。
「これ、あの屋敷で差し入れしてもらったスープ」
「ぎゅっ」
嫌そうな顔をするあっくんに、ネモは苦笑する。
そう。偶然にも件のスープを確保していたネモは、なにが入っているのか割り出す為に検査したのだ。
そして、結果、パーレ草の他にも数点人が摂取してはならない薬草が入っていたことがわかった。
「この結果を見るに、裏社会で使われていたことがある薬が浮かび上がるのよね。これ、効果を考えると暗示をかける時に使うものなんだけど……」
しかし、暗示などそう簡単にかけられるものではないし、この薬を使ってそれを成すのは相当難しい。
「この薬だと、呪術か魔法での暗示を補助する程度のものだし……。これを実際に使って暗示を成功させてるとしたら、相当な腕の持ち主よね」
呪術と魔法は体系の違うものの、両方とも奇跡を成す技である。双方共に暗示をかける為の術もあるのだが、それには必ず補助薬や魔道具を必要とするが、今回使われている薬は毒性は弱い代わりに、暗示の成功率が低くなる。それを成功させているのなら、その暗示をかけた呪術師だか魔導士だかは相当の腕前の持ち主という事になるのだ。
「けど、あの屋敷で暗示をかけて得する人間って、誰になるのかしら?」
明らかに金の無い状態だし、どうせ暗示をかけるなら、あの奥様の神経質な横暴さをどうにかしたいとは思わないのだろうか?
「執事のベンさんはなんか違和感を感じるし、スープにはヤバイ薬草が入ってし。ハウエル夫人は半年前に引っ越してきて、病を患っている。サミュエル君は町のお嬢さんに人気があって、メイドのアンナさんはおばちゃん曰く嫉妬深い。……そもそも、あの規模の屋敷に使用人が四人だけ、ってのもおかしいのよね」
顎に手をやり、考え込むように呟く。
あっくんはそんなネモの呟きを聞きながら、串焼きの入った紙袋から串焼きを取り出し、モモモと程よくハーブと塩が程よく利いた肉を食べる。
「考えれば考える程、分からなくなってきたわ……」
そもそも、裏社会で暗示などというコアな目的のために使われる薬を、誰がスープに入れたのだろうか?
スープはコックが作ったものだろうが、隙を見て違う人間が薬を投入した可能性も考えられる。
そう考えながら、ネモは苛立たしげに髪をかき回す。
「あー、もう! 厄介なモノに関わっちゃったなぁ……」
そう呻き、串焼きを食べようと紙袋の中身を見て、絶句する。
「あっくぅぅぅん?」
「きゅっ」
ネモの低い声に、あっくんの肩がギクリと跳ねる。
ニ十本近く串焼きが入っていた筈の紙袋の中身は、肉のついていないただの串が入っているだけだった。
***
翌日、ネモは町に情報収集に出かけた。ハウエル家に関しての情報を得るためだ。
ハウエル家は宝石や良い服を売りに出せた程度には良家だったのだから、『家』として何かしらの情報があるだろうと思ったのだ。
しかし、ネモのそれは外れることとなる。
「無い?」
「ああ、無いな」
そう言うのは、薄暗い路地に居た情報屋だ。
情報屋とは、塒にしている町や、周辺の地域の情報を集め、金などで売っている存在のことだ。
町には必ずそういったものを生業としている者がおり、この町にもこの情報屋の男が居た。
「ハウエル家、ってのは聞いたことが無い。この国の貴族名鑑には間違いなく載ってないだろうし、そういう名前の金持ちは聞いたことが無い」
「でも、ハウエル家の奥様って、いかにも良家の没落した家の夫人、って感じだったわよ?」
ネモはそう言うが、情報屋は肩を竦めただけだった。
「別の国の人間なら、可能性はあると思うぜ。流石の俺も、他の国の金持ちの名前は網羅してねぇからな。俺が知ってるのは有名どころだけだ。ま、その有名どころにもハウエル家は無いな」
「なるほど……」
ネモは情報屋に金を払い、裏路地から出る。
さて、情報屋から情報を買えないとなると、どうすべきか、と悩んでいると、不意にあっくんがネモの頬をぺちぺちと小さい手で叩いた。
「きゅきゅっ!」
「あっくん、どうしたの?」
ネモが尋ねれば、あっくんは尻尾を揺らしながら、ある商店を指さした。そこは、加工食品を販売している店だった。
「もしかしてジャムが欲しいの?」
「きゅいっ!」
元気よく肯定するあっくんに、ネモは苦笑する。どうにも、あっくんはこのごろジャムに嵌っていた。ある町で食べた桃ジャムに嵌り、そこから各地の特産品で作ったジャムを欲しがるようになったのだ。
「そうね。せっかっくだし、一つ買って行こうかしら」
「きゅっきゃ~!」
わーと、と喜ぶあっくんを横目に、ネモは店へ入っていく。
店には、スタンダードなベリー系のジャムと、この土地の特産品だというアプリコットジャムが置いてあった。
ネモはアプリコットジャムを手に持ちながら、そう言えばあのハウエル夫人もマーマレードジャムがお気に入りだと言っていたな、と思い出す。
「そう言えば、ワインが有名な領地なのよね」
ワインも買って行こうかな、とワインの棚を見つつ、連鎖的に美談のワインのことを思い出す。
その美談のワインを、ネモは原産地で飲んだことがある。美味しい物があればふらりと行ってみるのが旅の醍醐味の一つだ。だから、ネモはその領の近くまで用事があって行ったとき、せっかくだからとそこまで足を延ばしたのだ。
そして、美味しいワインに舌鼓を打ちつつ、サージス領の人に当時の苦しい状況や、どれだけアーロンという人に助けて貰ったかを聞いた。
「確か、アーロン・マクシード子爵って名前の――」
そこまで言って、固まる。
マクシードはという家名は、最近何処かで聞かなかっただろうか?
脳裏をよぎる顔は、柔らかそうな銀の髪に、金の瞳の美少年。
「まさか……」
ネモは浮かび上がった可能性に、天を仰いだ。
11
あなたにおすすめの小説
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる