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悠十

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1巻

1-5

   第四章


 さて、話は少し前に戻る。ベルクハイツ子爵アウグスト・ベルクハイツは、目の前に座る親子、特に息子のほうを見て、盛大な溜息ためいきをついた。

「君は、随分ずいぶんと怖い男だったのだな」

 万感の意をこめたその言葉に、目の前の男、フリオ・ブランドンはイイ笑みを見せる。
 フリオの隣に座る彼の父、ブランドン伯爵は誇らしいやら申し訳ないやら、けれどまぎれもなく喜んでいて、ひどく妙な顔付きになっていた。それに気づいたものの全てベルクハイツ家への好意ゆえなので、アウグストは見て見ぬふりをする。
 フリオはかなり前からルイスを追い落とす工作をしていたようだ。
 それはルイス自らの愚行により必要なくなっているが、それ以外のフリオが裏から手をまわしていた事柄が動き出していた。
 その一つが、マデリーンとグレゴリーの婚約である。
 フリオはルイスを追い落とした後にもベルクハイツ家と中央の貴族との繋がりを残すべきと、婚約者との仲が冷え始めた王族の血を引くマデリーンに目を付けていたのだ。
 そして、アルベロッソ公爵にシルヴァンとの婚約を解消し、グレゴリーをマデリーンの婚約者にえるよう吹き込んでいたのだ。
 ことは彼の思惑おもわく通り進み、マデリーンとグレゴリーが婚約してベルクハイツと中央貴族との繋がりは残った。
 あとは、宙に浮いたアレッタの婚約者の座である。
 フリオがアウグストを真っ直ぐ見つめ、言う。

「――ですが子爵、元々アイツは俺のモノで、俺はアイツのモノになるはずだったんです。全部、元に戻っただけですよ」

 そうでしょう?
 そう言って、悪戯いたずらが成功した悪ガキのように笑う彼の瞳の奥に、強い執着しゅうちゃくの炎が燃えているのを見て、アウグストは眉間みけんしわを寄せる。

「取りあえず、貴方方の気持ちは分かった。十分に考慮させてもらう。しかし、今は時期尚早だ。しばらく待っていただくことになるが、構わないだろうか?」

 ブランドン親子は笑顔でそれにうなずいた。


     ***


 フリオ・ブランドンは、『深魔しんまの森』を有するベルクハイツ領の隣の領を治めるブランドン伯爵家の三男坊である。
 幼少の頃からベルクハイツ領がいかに重要で、また、その当主がいかに偉大な人物かを耳に胼胝たこができるのではないかというほど聞かされて育ってきた。
 そんな彼が初めてベルクハイツ領へ行ったのは、十歳の頃だ。
 ベルクハイツの次期領主、アレッタ・ベルクハイツとの婚約の話が持ち上がったためである。
 当時十歳のフリオには受け入れがたかったが、貴族の子弟であるがゆえに黙って従う。しかしふたを開けてみればすぐに婚約、というわけではなかった。
 それは、アレッタがベルクハイツ家始まって以来、初めて生まれた女の子であり、さらには初めて領主が女性となるせいで、慎重に決めたいという親心からだ。
 なんとフリオ以外にも婚約者候補は二人いた。
 その時、フリオを含めた婚約者候補三人は戸惑とまどいもあらわに顔を見合わせたものだ。
 しかし、フリオの父は熱烈なベルクハイツ家のファンであり、気合の入れ方が他の二家と違う。張り切ってベルクハイツ家の婿むこ相応ふさわしい男にせんと息子をきたえ上げ、しょっちゅうベルクハイツ領へ送り込んだ。
 そんなことをされていたので、年の近いアレッタと自然に話すようになり、仲が良くなる。気づけばフリオはライバルと言うべき他の婚約者候補より頭二つ分はリードしていた。
 そんなある日のことである。
 フリオはベルクハイツ夫人に連れられて、特別鍛錬たんれんじょうへ向かった。
 そこはベルクハイツ家直系の者か、ベルクハイツ子爵もしくはその夫人の許可を得た者しか入れない特別な場所だ。
 そこですさまじい光景を見た彼は絶句する。

「立て、アレッタ! そのようなことで魔物が殺せるか!?」
「……っ、は……い……、ち、ちう、え……」

 ボロボロのアレッタがいた。
 まぶたれ上がり、頬の大きな切り傷から血が流れている。吐き捨てられたものはつばではなく、血のかたまりだ。


 彼女は剣を振り上げベルクハイツ子爵にりかかるが、子爵はそれを難なく避け、小さいアレッタを打ち、最後に吹き飛ばす。
 フリオは思わず駆け寄ろうとしたのだが、それを夫人に止められた。
 なぜ止めるのかと抗議しようとして、夫人の目を見てやめる。
 彼女の目は、怒りに燃えていたのだ。

「私、この国が大嫌いなの」
「え……?」

 唐突な言葉に彼は戸惑とまどい、夫人を見つめた。

「私の愛する旦那様を死地に縛りつけ、愛する子供達に死んでも国を守れ、守り続けろと言うこの国が大嫌いよ」

 傾国とまでうたわれた彼女の美しいかんばせを、怒りの炎がいろどり、なお秀麗に燃え上がらせる。

「アレッタは旦那様の力を濃く受け継ぎ、次代の当主にならなくてはいけなくなった。女の子なのに、あんな地獄のような訓練を毎日受けて……。それでも、この国を守るために当然で、必要なことだと心底思っているのよ」
「……っ」

 夫人の声色には、悲しみと、悔しさが混じっていた。

「ベルクハイツだから大丈夫? そんなわけないじゃない。旦那様達はいつだって死なないため、死なせないための努力をしているのよ」

 そして、夫人の燃える瞳がフリオをつらぬく。

「本来、旦那様達は魔獣の相手で手一杯なの。他家との交流だとか商談や領地の経営なんて、している暇はない。だって、ここは最低でも月に一度は魔物の氾濫スタンピードが起こる永遠の戦場なのよ」

 彼女は、教えようとしているのだ。ベルクハイツ家当主の伴侶に何が求められているのか。

「ベルクハイツの伴侶の仕事は、主の手をわずらわせないこと。戦場に立つ伴侶を、一つのうれいもなく戦いに専念させること。一つのほころびが、大切な人の命を奪う切っ掛けになるのだから」

 そう言うと夫人は鍛錬たんれんじょうに視線を戻し、フリオもまた黙ってそこに目を向けた。
 ちょうどアレッタが崩れ落ち、急いで数名の治癒師が駆け寄っている。治癒魔法によって彼女の傷がふさがれていった。
 治療が終わったアレッタを子爵が大切な宝物のようにそっと抱き上げ、気絶した娘を起こすまいとゆっくりと鍛錬たんれんじょうを出ていく。
 フリオは、その様子をずっと見ていた。
 その光景は彼の心に焼き付き、忘れられない、忘れることのできないものとなったのだ。
 月日が過ぎ、アレッタとの距離はとても近くなる。
 彼女は彼に甘え、フリオもまんざらではない。
 この頃にはすでに他の婚約者候補は脱落し、フリオが婚約者になるのはほぼ確定していた。
 もっともそのことは、未だにアレッタには伏せられている。どうやらベルクハイツ夫人の判断であるらしいのだが、どうしてなのかは当時のフリオには分からなかった。
 それでも、あの特別鍛錬たんれんじょうの光景を見て以来、彼は変わった。
 ベルクハイツ家の婿むこ相応ふさわしくあるため、必要と思われる様々な分野に手を出し、学んだ。
 そんな彼の努力を見たベルクハイツ子爵の感触は悪くないのに、夫人は「まだ足りない」と婚約の許可が下りなかった。
 そんな時だ。ベルクハイツ家の国への貢献が認められ、次代での陞爵しょうしゃくが決まったのは。
 子爵は女領主となるアレッタを心配していたため、はくが付くと喜んだ。フリオもまたお祝いの言葉を贈ったが、まさかそこに大きな落とし穴が待っているとは思いもしなかった。

「――アレッタが、婚約?」

 父に告げられた言葉に、彼は呆然とする。
 そのアレッタの婚約は、これを機に中央の貴族とより深く強く結びつくためのものだという。
 相手の男は宰相と騎士団長のお墨付きで侯爵家の次男坊。条件も悪くなく、断る理由がなかった。

「……ざけるな」

 黒い炎が胸を焼く。

「ふざけるな!」

 ぽっと出の男にアレッタをやる?
 ボロボロになって、転がされて、けれども立ち上がって戦場へ向かう彼女を、誰とも知れぬ男にやるというのか!
 何より、何より――

「あれは、俺の女だ!」

 黒い炎、それは、執着しゅうちゃくの炎だ。
 フリオは知らなかった。自分が、これ程までにアレッタにれていたことなど。
 けれどもそんな彼をあざ笑うかのように、アレッタとくだんの男との婚約は成立する。
 子爵はすまない、と青二才のフリオに直々じきじきに頭を下げ、夫人は静かな瞳で彼を見つめていた。
 フリオは、夫人の考えを理解できなかった。彼女がなぜアレッタとの婚約を「まだ足りない」と許可しなかったのかを。
 それが分かったのは、アレッタをあきらめきれずルイスを調べ上げていた時だ。

「はっ……、ああ、なるほど……」

 フリオは、ようやく気が付く。
 ベルクハイツ夫人は、こう言っているのだ。
 小さな油断が全てを失う隙になる。伴侶を守り通すには、それは許されないのだ、と。
 あの時の自分の覚悟は甘かった。油断していたのだ。他の婚約者候補は敵ではなく、横からかっさらう人間などいないと思っていた。
 しかし、今はどうだ。
 見事にアレッタを奪われた。

「夫人に鼻でわらわれそうだ……」

 フリオは髪をかき回し、溜息ためいきをつく。
 けれど、ルイスの調査結果からいくつかのことにも気づいた。
 一つ目は、ルイスの好みからアレッタがはずれているということ。
 あの男は、典型的なロマンチストで、自分より弱くはかないオヒメサマが好きなのだ。およそ、アレッタは当てはまらない。
 二つ目は、ルイスは程々ほどほどに優秀で無害ではあるものの、ベルクハイツの婿むこになったらたちまち有害になるだろうこと。
 かつて、夫人がフリオに語ったことは一応はできそうだが、伴侶を失わないために死力を尽くすことはしないと断言できた。なぜなら、相手に心底れ込む情がない。
 そして、三つ目。
 国がベルクハイツの手綱たづなを取りたがり、ベルクハイツの力を少しごうとしていること。

「馬鹿じゃねぇの……」

 この婚約は、ベルクハイツ家と中央の繋がりを強める一方、ベルクハイツ家を支える伴侶の手綱たづなを握ろうとする陰謀がある。
 しかし、王家も中央貴族もきっと気づいてはいまい。この仕掛けが成功すれば、たちまち自分達の首が絞まることに。
 それにそんなこと、あのベルクハイツ夫人が許すわけがない。

「と、すると、これは俺への試験でもあるわけか……」

 欲しければ、自分の手で取り戻せ。
 国を相手に、そうと知られず動け。
 夫人はそう言っているのだ。

「やってやろうじゃねぇか……」

 フリオの瞳に炎が宿る。
 国が仕掛けた陰謀を、ひそかにぶっつぶすために。
 時に、悪魔より狡猾こうかつと呼ばれるベルクハイツ家当主の伴侶に名をつらねるべく、こうして彼は動き出したのだった。



   第五章
  

 王宮の奥にある執務室で、ウィンウッド国王メイナード・ウィンウッドは書類をさばいていた。
 先頃あった一人息子のしでかした事件に頭を抱え、さらにその婚約者がやらかしていることに胃を悪くしたメイナードの顔色は悪い。
 青褪あおざめた顔で書類に目を通すその姿には、問題が起きる前の覇気はきはなく、やつれて見えた。
 側近は時折心配そうな目で彼を見るが、何も言わない。側近にできることは、少しでも王を休ませるために仕事の補佐をするのみである。
 そうして王が黙々と仕事をしていると、侍従が執務室に入ってきた。そして、何事か耳打ちする。
 そのしらせにメイナードは安堵あんどの息を吐き、侍従にうなずいた。

「兄上!」
「ああ、レオン。久しぶりだな」

 部屋に入って来たのは綺麗な金髪を長く伸ばし青い瞳を持つ、どことなくメイナードに似た、若く美しい男だ。
 男の容姿が王に似ているのも当然で、男はメイナードの弟、つまり、王弟であった。
 王弟レオン・ウィンウッドは長く国外にいたため、二人は久しぶりの再会となる。彼らは軽いハグをして喜んだ。

「兄上、何やら大変なことになっていると聞いたんだが」
「ああ。すまない、どうも子育てに失敗してな……」

 苦く、悲しげに言うメイナードに、本格的に参っていることを察し、レオンは場所を変えようと提案する。
 隣の応接室に移り、顔色の悪い兄にソファをすすめた。
 そして、メイナードが座り大きく息を吐いたのを確認して、自分もその向かいの席に腰を下ろす。
 侍女に飲み物を持って来るように命じ、用件を切り出した。

「兄上、大体の事情は聞いたんだが、国外にいたせいで全てを把握しきれていないんだ。最初から事情を説明してほしい」
「ああ。そうだな……」

 そう言ったメイナードは、背後に控えていた側近を呼んで事情を説明するように命じる。
 そうして側近がこの騒動の発端、連鎖して起きた問題を話す。話が進むにつれ、レオンの顔がだんだんとゆがんでいった。

「なんだ、それは。王太子殿下は一体何を考えている? レーヌ嬢もレーヌ嬢だ。なぜ、ベルクハイツの婚約者の手を取るんだ。いや、それ以前に、そのルイス・ノルトラートの行動が理解できない」

 頭を抱えるレオンに、メイナードが疲れた表情でうなずく。

「あの有様ありさまでは、とてもではないが王の座を継がせるわけにはいかぬ。よって、アランをはいちゃくし、幽閉することとなった」
「そうだったのか……」

 温度を感じさせない声だったが、王の瞳には悲しみがにじんでいた。レオンはそれに気づかなかった振りをする。

「私にはアラン以外に子がいない。よって、次の王はお前になる。今後は次期国王として自覚を持ち、よく努めるように」
「かしこまりました」

 メイナードの言葉に、立ち上がったレオンが右手を心臓に当てて腰を折り、了承の意を返した。

「……苦労をかける」
「まあ、家族なので」

 二人はよく似た疲れた表情で笑い合う。
 そんな二人の遣り取りを、置物のようにたたずむ護衛騎士の一人がじっと見ていた。護衛騎士はそれをあますところなく記憶し、交代の時間に自室に戻ると、机でペンを走らせる。
 端的に要点をまとめたそれは、報告書だ。
 報告書は机の引き出しの二重底の下に仕舞われる。そして翌日掃除に来たメイドによって回収され、秘密裏に彼らの主人のもとへ運ばれた。
 そうして届けられた報告書を読んだ彼らの主人の赤い唇が弧を描く。

「ふふ。陛下もボウヤも大変ねぇ」

 そうつぶやいて、赤い唇の美しい女は報告書を火のついた暖炉に放り込んだ。

「ちょっといじめちゃおうと思ったんだけど、やめておいてあげましょう」

 これ以上追いめたらつぶれそうだもの、と悪魔みたいに美しい微笑ほほえみを浮かべた女――オリアナ・ベルクハイツ子爵夫人は次の仕事に向かうべく部屋を出た。


     ***


 赤茶けた大地をいっぽんづのを持つ飢えたおおかみの群れが走っていた。
 この先にえさがいる。飢えを満たすために、本能のまま走る。
 群れが向かう先には、町があった。住人が三千人を超す、大きな町だ。群れがその町に辿たどり着けば、目をおおう惨劇が起きる。
 しかし、その惨劇は起こらない。飢えを満たすことなく、群れが殲滅せんめつされるからである。

「ふはははははは! 今日はおおかみか!」
「今回も小規模ですね。間引いておいて良かったです、ゲイル兄上」
「ああ。やはり日頃から気をつけていたほうが後が楽だな」
「バーナード兄上。前回みたいに突出しないでくれよ。前は兄上の隊が引き離されすぎて、結局俺が面倒を見ることになったんだからな」
「む、すまない! 気をつけよう!」

 おおかみの群れの前に立ちはだかるのは、四人の若者である。皆似通った容姿をしており、血の繋がりを感じさせた。
 彼らは若いながらも覇者はしゃの風格をまとい、只者ただものではないことを周囲に知らしめている。
 その四人の若者に付き従うのは、十二人の兵士で組まれた四つの隊である。

「ゲイル様! いっぽんづのが境界線を越えました!」
「ふむ、そろそろ頃合いか。よし、全員抜刀!」

 ゲイルと呼ばれた若者の号令に、他の三人が背負っていた大剣や戦斧せんぷを引き抜き、構える。

「隊員、構え!」

 付き従う兵達はやりを構えた。

「突撃!」
「ふはははははははははは‼」
「だから、突出するなと言っているのに!」

 号令と共に一人が爆速で飛び出し、その後を文句を言いつつ一人が追いかける。
 その後に、仕方ないなぁと言わんばかりの表情で、二人がひきいている兵達が続いた。
 彼らの後ろ姿をあきれた表情で残りの二人が見送り、顔を見合わせて肩をすくめる。そして予定の配置につくため、それぞれが走り出した。
 ここ、ベルクハイツ領では、魔物が日常的に『深魔しんまの森』と呼ばれる発生地からあふれてくる。
 少ない時は月に一度、多い時には数日おきにだ。それゆえ、この地を『永遠の戦場』と表現する人もいた。
 普通ならば、そんな土地に町を作ればすぐに魔物の波に呑み込まれ、壊滅してしまう。しかし、ここには普通ではない存在がいた。
 この地を治める領主一家である。
 ――ドッゴォォォォォ!
 遠方で爆音と共に土煙が上がり、数匹のおおかみがたの魔物が同時に空へ打ち上げられた。

流石さすがは、バーナード様。豪快だな」

 ――ズガァァァァァン!

「いやいや、うちのグレゴリー様もすごいぞ!」
「公爵家のお姫様が嫁さんになるってんで、ちょっとそわそわしてるんだよな!」
「張り切ってるよな!」

 兵達は誰も彼もが勇ましい面構えをしており、凶悪な笑顔で打ち漏らされた魔物をほふっていく。
 彼らが付き従う各隊の隊長こそが、その領主の一族だ。
 現在の領主一家は、祖父母、当主夫妻、そして、五人の子供達で構成されている。
 一番下の娘は王都の学園に入学し不在であるが、彼女もまたベルクハイツの子らしく、素晴らしく腕っぷしが強い。
 そんな一族の頭たる当主もまた、現在、領を不在にしていた。
 娘の婚約者だった男が阿呆あほうにも喧嘩けんかを売ってきたため、その男を張っ倒すべく直々じきじきに王都へ行っているのだ。
 きっとボコボコにされるんだろうなという兵達の予想を裏切り、くだんの男はすでにボコボコにされていたせいで、代わりにベルクハイツ流に染めろとお持ち帰りすることになっている。
 さて、今、領地に残って戦場を駆けるベルクハイツ家の人間は、当主の四人の息子達である。
 長男のゲイルは外見も性格も当主によく似ており、多くの人間に慕われていた。
 次男のバーナードは明るい人柄で、よく言えば無邪気、悪く言えば脳筋である。
 三男のディランは母親に似て聡明だが、少々腹黒い。他の兄弟より色気があり、彼の去った後に時折腰が砕けた女が発見されることで有名だ。
 四男のグレゴリーは実直な性格で、誰かのフォローに回ることが多い。まさか自分が公爵家のお姫様と婚約することになるとは夢にも思っていなかったため、必死になってマナーの見直しをしているところである。
 その四人が、現在のベルクハイツ領の守りのかなめだ。
 そんな彼らが守る町の城壁に、二つの人影があった。

「おお! あ奴らも腕を上げたのう!」
「そうですわね。あら、また魔物を打ち上げましたわ。あれはバーナードかしら?」

 一人は老人だが、老いてもなお只者ただものではない風格をしており、言うなれば老いた覇王はおうと言ったところである。
 もう一人は、妖艶ようえんな女だった。若くはないが、年齢を特定できない美貌びぼうの持ち主で、周りの男達がソワソワしている。

「あら、お義父とう様。大きな鳥が出てきましたわ」
「む、どこだ」

 オペラグラスで戦場の様子を見守っていた女が空を指さし、老爺ろうやに告げた。
 老爺ろうやは女が指さした先を見て、眉間みけんしわを寄せる。

「ふーむ。飛行型とは珍しい。よし、魔法兵! 火炎弾準備! 弓兵、次にそなえよ! 誰か、わしの弓を持てい!」


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