※踏み台ではありません

悠十

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辺境編

第十四話 魔物狩り

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 セス達一行は、順調にダンジョン探索を行っていた。
 現在セス達は第十階層に居る。第六階層まではテオドア一人で魔物を狩っていたが、セーフポイントを過ぎ、第八階層に入ってからはセスが少しフォローしながら戦っていた。

「テオドアも大分強くなっていたんだな」
「そうだぜー。坊ちゃん、頑張ってたもんよ」
「僕はもっと強くなりますよ! 見ていて下さい、兄上!」

 仕留めたブラックホーンウルフと言う名の魔物を手早く解体しながら、男達が和気藹々と話していると、周囲を警戒していたアビーが三人に注意を促した。

「セス様、あちらから魔物の気配が近づいてきます」
「ああ、分かった」

 セスとテオドアが立ち上がり、ダリオはブラックホーンウルフの解体を続ける。

「俺の手はいらないよな?」
「うん、大丈夫だよ」
「近付いてくる気配からして、無難に倒せる程度の相手だろう」

 ダリオの確認にテオドアは頷き、ナイフを構える。
そして、セスはその後ろで、いつでもフォローを入れられる様に楽な姿勢を取り、集中する。

「来た……」

 そうテオドアが呟いたと同時に、視界に二匹の角の生えた熊、ホーンベアが現れる。

「大物だな。テオドア、行けるか?」
「はい! 大丈夫です!」

 そして、テオドアはそう言うと同時に、弾丸の如く飛び出した。
 そして、相手が構える前に首筋を一閃。

――ギャォォ……!?

 身体強化魔法によって強化されたテオドアの一撃に、ホーンベアは悲鳴を上げる。そして、その太く強靭な腕を振り下ろすが、既にそこにテオドアは居ない。
 テオドアはその時は既に上空に飛んでおり、そのままホーンベアの首めがけてナイフを突き刺した。
 ホーンベアはそのまま絶命し、テオドアは首からナイフを素早く引き抜き、バックステップで目の前を通り過ぎたもう一匹のホーンベアの攻撃を躱す。
 そして、一匹と一人は正面から対峙した。
 単純な力ならホーンベアの方が上だが、速さはテオドアの方が上だ。しかし、正面からやり合うとなると、少し面倒である。
 これがダンジョンの外であるなら時間をかけて一人で倒させるのだが、ここはダンジョンだ。ダンジョンは魔物の遭遇率が外より断然高く、遭遇時間のペースも早い。
 その為、とっとと倒してしまうのが一番だ。
 そう判断し、セスは口を開く。

「<<沼に沈め>>」

 言葉に魔力を込めた、短縮詠唱である。
 その魔法は力を発揮し、ホーンベアの足元を沼へと変えた。

――グゥッ!?

 いきなり足元が沈み込み、体制を崩したホーンベアの隙を突き、テオドアが駆ける。
 その勢いのままホーンベアの首筋を切り裂き、その脇を抜け、背後に着地する。

――ギャァァッ‼

 ホーンベアが悲鳴を上げ、テオドアを睨みつける。
 しかし、ホーンベアが報復を果す事はなった。

「<<氷よ、鋭く、貫け>>」

 再びの、短縮詠唱。
 鋭い氷柱の様な氷の塊が複数現れ、ホーンベアを貫いた。
 その攻撃に気を取られ、ホーンベアがテオドアから目を離したその一瞬。
 テオドアはホーンベアの傷ついた首筋に、ナイフを突き立てた。
 素早くナイフを引き抜き、距離を取る。
 テオドアはホーンベアの様子を見るが、ホーンベアは少しふらついた後、そのまま倒れた。
 テオドアはそろりと倒れたホーンベアに近付き、絶命した事を確認する。

「兄上、これ、どうしましょう?」
「そうだな……。接敵のペースが速すぎて、解体が間に合わない。仕方ない、時間停止の魔法袋に入れて、後日改めて解体しよう」

 そう言うと、セスは徐に口は広いが底が浅い大きな袋を取り出す。

「セス様、一体何個魔法袋を持ってるんだ?」

 魔法袋は高価なマジックアイテムである。それをホイホイ何個も出してくるセスに、ダリオが呆れ半分に問う。
 しかし、その質問に答えたのはアビーだった。

「沢山ですよ。なんせ、セス様はご自分で魔法袋を作れますからね」
「は?」

 まさかの自作と聞き、ダリオは唖然とする。

「え、いや、魔法袋だぞ? すげー作るのが難しい、って聞いた事があるんだが……」
「難しいですよ? けど、作れるんです」
「兄上は凄いんだぞ!」

 アビーはホーンベアを魔法袋に入れながらそう答え、テオドアは嬉々としてセスを褒め称える。

「魔法袋が作れる様になって、その時調子に乗って沢山作っちゃったんですよね。あんまりたくさん作ったものだから、出入りの商人に値崩れするから買取拒否されてましたっけ……」
「へー……」
「兄上凄い!」

 呆れ半分、感心半分でダリオがアビーの言葉に適当な相槌を打ち、テオドアはキャッキャと無邪気にセスを褒める。
 そして、セスは気まずげに三人からそっと視線を逸らしつつ、粛々とホーンベアを魔法袋に入れる作業を手伝ったのだった。



   ※ ※ ※



 ダンジョン探索一日目の夜は、十四階層のセーフポイントで過ごすことになった。
 十四階層では他に数組の冒険者グループが居り、それぞれが野営の準備をしていた。

「よし、ここら辺にテントを張るか」

 ダリオが選んだ場所は、他のグループが目に入り、程々に距離がある場所だった。
 後でダリオがこっそり教えてくれたのだが、時々手癖の悪い冒険者が居るので、全体を把握できる場所に陣取っていた方が良いらしい。
 テントを全員で協力して張り、適当に石を拾ってきて竈を作る。火はダンジョンでは枯れ枝等が乏しい為、キャンプ用の魔法道具のコンロを使用する。

「それじゃあ、今日の夕飯は普通の冒険者が食べる様な物にしましょうか」

 そう言って、アビーは堅パンや干し野菜などを取り出しながら、セス達に尋ねた。

「そうだな。此処は他人の目が多いから、明らかに出来立ての料理を取り出すのは不味い。時間停止の魔法袋を持っていると宣伝しているようなもんだ」

 アビーの言葉に頷き、そう言ったのはダリオだった。
例え善良な冒険者だとしても、魔が差すことも有るかもしれない。特に相手が子供とあれば、嘗めてかかって、その気持ちを後押ししてしまう可能性もある。
 その通りだと思ったセス達は、普通の冒険者の食事の準備に取り掛かる。

「干し肉は今回のは上等な物だから、炙って食べた方が美味い。これが低品質の物だと、他の物と煮た方がマシになる」

 そう言いながら、ダリオが干し野菜を器に入れ、そこに水を入れた。
そして、芋の皮を剥き、それを適当な大きさに切って鍋に入れる。
セスとテオドアも芋の皮むきを手伝ったが、セスは日頃薬品を作るのにナイフを使う為、なかなかの手つきだったが、テオドアは周りがドキドキするような有様で、剥き終わった芋は大きさが最初の半分くらいになってしまい、周囲の笑いを誘った。
芋の皮むきが終わり、適当な大きさに切り分けて水と共に鍋に入れ、火にかけた。
 その鍋が沸騰してしばらくすると、アビーがキューブ型の調味料を入れた。

「これ、最近発売された冒険者向きのコンソメ味の固形調味料なんですって。味見に一つ使ってみたんですけど、結構美味しかったですよ」
「へえ、最近は便利な物があるんだな……」

 アビーの説明に、ダリオが目を丸くする。
 ダリオは忘れそうになるが、死人である。それも、死んだのはそれなりに昔だ。ダリオ自身情報収集をして自分が死んだ時代と現代では齟齬が少ないのは確認していたが、それでも細々としたものは変わっており、こうして時折時代の変化を感じる事がある。
 鍋に溶けていく固形調味料を興味深げに眺めながら、鍋をかき回す。鍋からはコンソメの良い匂いがした。
 その間にアビーが堅パンを切り分け、セスとテオドアは干し肉を鉄串に刺していった。
 しばらくして、鍋の中身は煮え、ダリオは水分を取り戻した干し野菜を鍋に入れ、しばらくそのままそれを煮込んだ。
 頃合いを見て、アビーが鉄串を火の周りに刺していき、堅パンを配る。

「ダリオ、もうそろそろ良いんじゃないですか?」
「ん~、そうだな」

最後に少し塩と胡椒で味を調え、ダリオは器にスープをよそう。

「熱いからな、気を付けて食べろよ」

 セス達は器を受け取り、中身を覗いてみれば、干し野菜は水分を取り戻して膨張し、大き目の芋がゴロゴロと入っていた。
 全員に行き渡った所で、ダリオが破顔し、言う。

「よし、それじゃあ、食うか! いただきます!」
「いただきます」
「わ~い! いただきます!」
「ちょっと、ダリオ、なんで貴方が号令をかけるんですか!」

 そうして、賑やかな食事が始まった。

「お~、やっぱり凄いな、固形調味料。スープの味が塩と胡椒だけのものより断然美味い」
「テオドア、食べられるか?」
「大丈夫ですけど、パンが物凄く硬いです」
「テオドア様、そういう時はお行儀が悪いですけど、スープに浸して食べると食べやすくなりますよ」

 スープの味は悪くなく、堅パンはスープに浸して食べれば問題なく食べられた。
 炙った干し肉の味も悪くなく、炙ったおかげで油分がとけ、少し柔らかくなって食べやすかった。
 そうして食事を終え、後片付けをしながら夜の見張り番について相談する。

「坊ちゃん達は初めてなんじゃないか?」
「そうだな。そもそも外で泊まるというのが初めてだ」
「私は一応何度も経験がありますよ」

 ダリオの言葉に、セスは頷き、アビーが経験者である事を告げる。

「よし。一応、俺とアビー嬢ちゃんで交互に見張り番をするから、それに付きあう感じで体験してみてくれ」
「分かった」
「は~い!」

 ダリオの指示にセスは頷き、テオドアは元気よく了承の返事をした。

「それじゃあ、ペアを組みましょう。私はセス様と――」
「アビー嬢ちゃんはテオドア坊ちゃんとな」

 アビーの欲望に濡れた提案を素早く却下し、ダリオはテオドアとペアになるよう指示し、セスに早くテントに入って寝る様に言う。

「ちょっと、ダリオ! 何を勝手に! セス様とテントで一緒に寝るのは私――」
「アビー……」

 欲望に正直なアビーの言葉を遮り、テオドアがその腕を掴む。

「お前は、僕と見張り番です」

 ドスの効いた声でにっこり笑うテオドアに、アビーはたじろぐ。

「兄上、しっかり見張っておきますので、ゆっくりお休みください」
「あ、ああ……、ありがとう……」

 微笑んで告げられた言葉に礼を言い、セスは大人しくテントに入って横になった。
 言外に、アビーをちゃんと見張っておきます、と言われたような気がするのは、きっと気の所為じゃないだろう。
 遠くからアビーの啜り泣きが聞こえた気がしたが、セスは疲れも有り、その日はさっさと眠ってしまったのだった。
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