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悠十

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辺境編

第十三話 ダンジョン探索開始

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 買い物を終えて屋敷へ戻ると、即座にルシアンを彼の側近達が取り囲み、執務室へと連行していった。素晴らしい連携だった。
 さて、その翌日である。
 セス達は前日に荷物を用意し、例の時間停止の魔法袋に料理を詰め込み、ダンジョンへ出発した。
 ルシアンも行きたそうにしていたが、今回ばかりは留守番である。
 セスとテオドアは特殊な加工を施した防御力の高い服を着て、アビーはメイド服の上に軽めの皮鎧を纏っている。ダリオは諸事情により、破れても良い服だ。

「まずは冒険者ギルドだな。伯父上が町が出来上がるまでは簡易転移陣を置くと言っていた」
「そうですね。空いていれば良いですけど……」

 朝のそれなりに混み合うだろう時間を避ける為、少し早い時間に屋敷を出たセス達だったが、転移陣を利用する人間が短いながら列を作っていた。
 セス達もその列に大人しく並んだ。

「ああ、皆考える事は同じですね」
「まあ、こんなもんだろう。転移陣を使うには使用料が取られると聞いたから、向こうでテントを張って数日滞在する、っていうのもありそうだしな」

 アビーとダリオの会話に、成る程、とセスとテオドアは頷いた。
 そうこうしている内に順番が回って来て、四人分の使用料の銀貨二枚を払い、一行は狭い部屋へと通された。
 小さい窓が一つだけ付いており、ほんの少しの埃っぽさと、風通しの悪さから、ここは元は物置だったのでは無いかとアビーがあたりを付ける。

「転移陣を設置する丁度いい場所が此処しかなかったんでしょうねぇ」

 そう言って、足元の転移陣に視線を落とした。
 簡易転移陣は、複雑な魔方陣を特別なインクで描いたものになり、これが簡易ではなく正式な物になると、一枚岩の石板に彫り込む事になる。

「それでは皆さん、陣の外には出ない様にして下さい。それでは、転移を開始します」

 係員の言葉と共に、転移陣が薄っすらと光を纏っていく。
 そして、チリン、と三つほど鈴の音が鳴り、一瞬の浮遊感と共に転移が終了した。
 新ダンジョン近くのギルドの係員が近づいて来て、出口へと案内される。
 部屋から出た先に在ったのは、真新しい冒険者ギルドのロビーだった。

「お、殲滅公の所のセス様じゃねぇか」
「あ、バルト」

 転移陣の部屋から出てきたセス達に、丁度二階から降りてきたバルトが声をかける。

「もしかして、ダンジョン探索か?」
「ええ。出来たばかりのダンジョンは珍しいと聞いて、折角だから体感してみようかと」

 セスの言葉に、バルトは成る程、と頷く。

「魔物の氾濫の後だと、時々上階に上位クラスの魔物が残っている場合があるからな。危険だが、時々珍しい魔物を見る事が出来るんだ。それと、下層に生息する植物の種をくっつけて来て、思わぬ所で芽が出てたりする。ただ、そう言った植物は一代限りで枯れるから、初期のダンジョンでしか見れないんだ」

 バルトの説明に、セスとテオドアが目を輝かせる。

「今の時期だと、流石に上位の魔物は粗方高ランクの冒険者グループが狩っちまってるが、植物の方はこれからだな。よければ探してみると良い。ただ、上位の魔物を粗方狩ったとはいえ、残っている可能性もある。十分注意してくれ」
「分かりました」
「気を付けます!」

 セスは素直に頷き、テオドアは元気よく返事をした。
 そんな少年たちの様子に、バルトは笑顔を浮かべ、アビーとダリオも微笑まし気に、にっこりと笑った。

「まあ、上位の魔物が出ようが、大丈夫だろうがな」

 そう言ってバルトはアビーとダリオの方をちらりと見て、アビーはそれににっこりと、ダリオは余裕のある笑顔を返した。



   ※ ※ ※



 さて、ダンジョンである。
 セスがルシアンの一団に連れられて入った時はゆっくり見る時間は無かったが、発光するヒカリゴケやヒカリ茸によって洞窟内が明るく照らされるその光景は、やはり不思議なものに思えた。
 ダンジョンに入ってすぐの第一階層にはヒカリゴケやヒカリ茸以外の植物は無く、岩肌が只見えるだけだった。

「一階層ってのは、ダンジョンと外界の堺、って感じで、植物も無く、あまり魔物も湧かないんだ。だから、大体の奴はさっさと二階層に向かう」
「大体、って事は少しはこの階層に用がある人が居るの?」

 ダリオの説明に、テオドアが尋ねる。

「まあ、まるっきりの初心者が練習がてら潜るんだ。一階層の魔物は弱いし、数も少ない。だから、滅多な事も起きないからな」

 成る程、とテオドアは頷く。
 ダリオはダンジョンコンパスを取り出し、セスとテオドアに見せる。

「ほら、折角だからダンジョンコンパスを見てくれ」

 二人して覗き込んだそれは、普通のコンパスをは少し趣が違った。
 普通のコンパスは針が入っており、それで北を指し示すわけだが、ダンジョンコンパスには赤と青の二色の小さな魔石が入っており、それが丸いコンパスの外縁部分に小さく浮き上がり、指し示すべき場所の方角を示していた。
より深層へ行く為に見るべきは赤い魔石であり、それには『IN』、という文字が小さく彫ってあり、ダンジョンから出る際に見るべき青い魔石には、『OUT』と彫り込まれていた。

「わぁ、面白いですね、兄上」
「ああ。これを最初に考えた者は天才だな」

 物珍しそうに見る兄弟に、ダリオは微笑む。

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

 その言葉にセスとテオドアも笑顔を返し、そうして、一行は第二階層へ向けて歩き出したのだった。
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