※踏み台ではありません

悠十

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辺境編

第十八話 接触

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「い、居たぁぁぁ!」

 ダンジョンの二十一階層で、その声が響き渡ったのは、夜の七時を回った頃だった。
 その声が届く周辺に居たものは、声がした方向へ視線をむける。
 それは、セス達も例外では無く、その声の主へ視線を向け、セスは思わずテオドアの目を隠した。

「えっ、何ですか、兄上?」
「あ、いや、つい……」

 声の主は、いつぞやの痴女一行だったのである。
 よく見てみれば、過激な恰好だった女性陣はボディラインが多少強調されているものの、肌色率は減っていて、前と比べれば随分真面まともな恰好になっていた。
 セスはテオドアを解放し、テオドアは不思議そうに首を傾げた。
 そうこうしている内に、痴女一行こと『光の刃』の面々がこちらに近付いてきた。

「あのっ」
「はーい、其処まで。うちの坊ちゃん達に何の御用ですか?」

 勢い込んで近づく『光の刃』の面々の前に体を滑り込ませたのは、アビーだった。
『光の刃』一行の印象は、先日のアレコレで悪い。そんな情操教育に悪そうな一行を、大人であり、セスに仕える侍女であるアビーが彼等を易々と己の主人に近付かせる訳が無かった。
 突然のメイド服の女の登場に、クリフォードが慌てて謝罪した。

「あ、すみません、突然。俺達は冒険者で、パーティー名を『光の刃』と言います。俺は、リーダーのクリフォード・アンカーソン。エルフの少女の捜索をしていました」
「エルフの少女の捜索、ですか?」

 アビーが胡散臭い物を見るような目でクリフォードを見るが、それは仕方がないだろう。エルフと言うのは美男美女揃いなものだから、人買い等に攫われやすいのだ。
 そんなアビーの様子に、その心配を察したキャロルが言葉を重ねる。

「実は、七階層のセーフポイントで彼女のパーティーメンバーが随分気落ちした様子だったので、理由を聞いたのです。そうしたら、エルフの少女を置いて来てしまったとの事だったので、私達が救助を請け負ったんですわ」

 その言葉に反応したのはリフィルだった。
 ビクリ、と肩を大きく揺らし、不安げに視線を彷徨わせている。
 そんなリフィルの様子に気付いたデオドアが、そっとリフィルの手を取って微笑む。

「大丈夫だよ、僕達が居るから」

 その言葉に、リフィルがポッ、と頬を赤く染めた。
 それを生温い目で見ながら、セスも頷く。

「そうだな。関わったからには、最後まで面倒を見る。彼等に保護されるも良し、俺達に保護を求めるのも有りだ」

 そんなセスの言葉にリフィルは少し安堵した様に強張った体の力を抜き、セス達におずおずと尋ねる。

「あの……、えっと、えっと、皆さんに助けていただきたいです。お願いします!」

 頭を下げるリフィルに、セスは微笑んで「大丈夫、最後まで責任を持つよ」と言い、『光の刃』一行に向き直った。

「すみません。リフィルはこちらで保護しますので、貴方方に依頼したパーティーには、取り合えず無事である事を伝えていただけますか?」
「えっと……」

 セスの言葉に戸惑う様子を見せたクリフォードに、リフィルもおずおずと言う。

「あの……、今はあの人達に会いたくないです……。だから、一緒に行くのはちょっと……」
「あ、そっか。そうだよね、ごめん……」

 ただ、助けなきゃ、という事で頭を一杯にしていたものだから、リフィルが自分を見捨てたメンバーとは顔を合わせたくない、という心情で、仲間達の元へ連れて行こうとする自分達の手を拒む可能性をすっかり頭から抜け落ちていた。
クリフォードはそこまで気を回せなかった事を謝罪し、再度言葉を重ねる。

「あの、彼等には君が無事だった事だけは伝えておくよ。それで、もし俺達の手が必要なら言ってくれ。いつでも手を貸すから」
「あ、はい……。ご親切に、ありがとうございます。……あの、探して下さって、ありがとうございました」

 ただ純粋に心配されているのであろう事を察し、リフィルは素直に礼を言い、頭を下げた。
 そんなリフィルに『光の刃』一行は微笑みを返し、もし良ければ明日ダンジョンを一緒に出ないか、と誘ってきた。

「一応、救助を依頼されたからには、君が無事にダンジョンを出るまで見届けたいんだ」

 そう言うクリフォードに、リフィルはオロオロとしながらセス達を見て、セス達はそれを承諾した。

「仕方ないですね。まあ、元々、明日はダンジョンから出るつもりでしたし」
「ここは二十一階層だから、明日中にダンジョンから出るには、魔物を斃しても無視して行くことになるが、それでも良いのか?」

 アビーは溜息交じりに肩をすくめ、ダリオがクリフォードに尋ねる。

「はい、大丈夫です。俺達は彼女の救助が目的ですから」
「えーっと、リフィルちゃん……、だったよね?明日は、よろしくね?」
「あ、は、はい。あの、よろしくお願いします」

 緊張気味に返事をするリフィルに、クリフォード達は明日はよろしく、とだけ言い、離れて行った。
 そうして彼等はセス達がキャンプを張った所から程々に離れた所にキャンプを張るつもりらしく、女達のはしゃぐ声が聞こえてきた。

「これは、あれだな。ごく稀に見る、ハーレム男って奴だな」
「そうですね。ただ、ハーレムを実際作れるかと言うと微妙そうですが」

 『光の刃』一行の様子を遠目に見ながら、ダリオとアビーがそう評した。

「どういう事だ?」

 首を傾げるセス達に、セスはギリギリ良いとして、他の子供二人に言って良いものかと悩みつつも、アビーは口を開いた。

「ハーレムと言うのは、要は王の後宮です。女達のリーダーたる第一夫人が他の女の存在を認め、上手く纏め上げなければ、ハーレムは荒れます。多少夫の寵愛を争う事があろうと、亀裂を走らせるような事はあってはならないのです」

 元魔王城の後宮勤めのアビーの言葉に、魔王の子たる異母兄弟はそう言えばそうだったな、と頷き、リフィルは目を白黒させる。

「ですが、あの『光の刃』の人達は、明らかに他の女を認めず、あの少年を手に入れようとしてますからね。あれは、あのままではいられませんね」
「修羅場が約束されたパーティーか」
「面倒そうですね」
「えっと、えっと……」

 色恋に未だあまり興味の無いセスとテオドアは気の無い返事をし、リフィルはチラチラと『光の刃』一行のキャンプに視線を投げる。

「行かなくてよかった……」

 いつかは分からないが、修羅場が起こる事が予想されるパーティーとはあまり関わりたくないと思うのが、普通である。
 そんなリフィルに、少し悪戯っぽい顔をして、アビーが言う。

「もし今回『光の刃』の一行に助けられてたら、リフィルちゃんもあのリーダー君に惚れてたかもしれませんね」
「あー、吊り橋効果的なアレか」
「物語の鉄板だな」

 アビーの言葉にダリオとセスが頷き、リフィルは思わずハーレムメンバーの一人になった自分を想像し、はわわ、と蒼褪める。
 そんなリフィルを見て、アビーは吹き出し、他の面々も笑い声をあげる。
 そんな一同に、リフィルは情けない顔をし、テオドアがそんなリフィルに、大丈夫だ、と言わんばかりに優しく背を叩いた。
 そんなテオドアの笑顔に、リフィルはポッ、と顔を赤くした。
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