2 / 18
第一話
しおりを挟む
ミアは覗き込んだ水晶には、離宮に床に倒れたミリアリアの死体が映っていた。肌には既に血色は無く、やはりミリアリアは死んでしまったらしい。
ミアは、それに苦い顔をする。
あの死体は、ある意味前世の自分である。ミリアリアの記憶は持っているが、既にミアの人格を取り戻しているため、今の自分とイコールでは繋がらない。ある意味、近しい他人状態だ。
そんな前世の自分たるミリアリアだが、床に倒れたままという体制だ。そのことから、相変わらずこの離宮には誰も来ていないのだと知る。
「ちょっと、一国の王女よ? 嫁入りしてすぐに死んじゃったわよ? どうするのよ⁉」
前世の自分だ何だより、そっちの方が気になった。だって、ブレスト皇国が取り返しがつかないことを仕出かしている。ミリアリアは三度目覚め、気を失い死んだのだ。その三度は、朝、夕方、明け方くらいの時間だ。つまり、丸一日誰もミリアリアの様子を見に来なかったのだ。控えめに言っても過失致死である。あくまで、控えめに言って、のことだ。死んだのは王族である。国際問題であり、場合によっては戦争待ったなしだろう。
皇帝は何してるんだ! と激怒しながら遠見の水晶で王宮内を探し、見つける。
ブレスト皇国皇帝、ジェームズ・ブレスドが、金髪碧眼の美少女が仲良く庭園を歩いていた。
皇帝は艶やかな黒髪に、金の瞳を持つ大変な美丈夫だった。背も高くがっしりとした体つきは騎士にも劣らないのではないだろうか。
そんな皇帝の隣を歩く少女は、どこかあどけない可愛らしさを持つ美少女だった。年頃はミリアリアと同じくらいだろうか。二人は仲睦まじい様子で寄り添い、庭園をゆっくりと歩いている。
皇帝との睦まじさから、二人はただならぬ仲なのだと察したが、ミアは彼女が誰かを知らなかった。皇帝には正妃以外に后はおらず、愛妾も居なかったはずだ。
不信に思い、ミアは遠見の水晶の感度を上げ、音を拾う。
「まさか、ジェームズ様の側妃になれるなんて、夢みたい……」
鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえた。
「ああ、私もだ。しかし、私はミリアに正妃になってもらいたかったな」
「まあ、そんな、恐れ多い! 私はただの男爵家の娘です。側妃にだってなるのは難しいのに、私如きでは分不相応です!」
「そうか……。ミリアは欲が無いな」
皇帝は愛おしそうにミリアと呼ばれた少女の頬を撫で、微笑む。
「今日もまた、夜に尋ねて行くよ」
「は、はい……。お待ちしています……」
ミリアは真っ赤になりながらも、小さくそう言い、そんな彼女を皇帝は優しく抱きしめた。
――そんな光景を見て、魔女は叫ぶ。
「だから、誰よ、その女!」
ミリアと呼ばれた少女は、側妃になれるなんて、と言っていた。つまり、彼女はブレスト皇国の皇帝の側妃なのだろう。しかし、ミアがミリアリアの記憶を隅々まで攫ってみても、そんな記憶は無かった。
「そうすると、ミリアリアが国を出て嫁ぐまでに後宮に入った、ってことよね……」
しかし、どうにもおかしい。皇帝の様子から少女を溺愛しているのが分かるが、他国の姫が嫁いで来るというのに、後宮入りの日が近すぎる。それは、あまりにも配慮の無い行いだ。普通、家臣も正妃も止めるだろう。
「……もしかして、強行した?」
大きな権力持つ者に、まま見られる行動だ。それに、現在の皇帝は二十八歳であり、皇帝の座に就いたのは二十一歳と若かった。これは、前皇帝が急死したためにそうなったのだが、大国で大きな権力を持つ皇帝位に就けるには不安になる若さだった。
「なんか、勘違いしてそうね……」
ブレスト皇国の皇帝の権力は大きい。否、大きすぎると言っても良い程である。そのせいか、帝位の継承は慎重を極める。皇子を必ず最低でも三人は設けられ、厳しい目で選定されるのだ。そして、帝位はどんなに若くても次代が四十代くらいにならないと継承されてこなかった。
しかし、今代は残念ながら皇子は一人であり、先代は急死。有能であると評判であったが、果たしてその人格はどんなものなのか……
「やだぁ~、嫌な予感しかしな~い……」
ミアはビンビンに感じる魔女の予感に、情けない声を上げた。
ミアは、それに苦い顔をする。
あの死体は、ある意味前世の自分である。ミリアリアの記憶は持っているが、既にミアの人格を取り戻しているため、今の自分とイコールでは繋がらない。ある意味、近しい他人状態だ。
そんな前世の自分たるミリアリアだが、床に倒れたままという体制だ。そのことから、相変わらずこの離宮には誰も来ていないのだと知る。
「ちょっと、一国の王女よ? 嫁入りしてすぐに死んじゃったわよ? どうするのよ⁉」
前世の自分だ何だより、そっちの方が気になった。だって、ブレスト皇国が取り返しがつかないことを仕出かしている。ミリアリアは三度目覚め、気を失い死んだのだ。その三度は、朝、夕方、明け方くらいの時間だ。つまり、丸一日誰もミリアリアの様子を見に来なかったのだ。控えめに言っても過失致死である。あくまで、控えめに言って、のことだ。死んだのは王族である。国際問題であり、場合によっては戦争待ったなしだろう。
皇帝は何してるんだ! と激怒しながら遠見の水晶で王宮内を探し、見つける。
ブレスト皇国皇帝、ジェームズ・ブレスドが、金髪碧眼の美少女が仲良く庭園を歩いていた。
皇帝は艶やかな黒髪に、金の瞳を持つ大変な美丈夫だった。背も高くがっしりとした体つきは騎士にも劣らないのではないだろうか。
そんな皇帝の隣を歩く少女は、どこかあどけない可愛らしさを持つ美少女だった。年頃はミリアリアと同じくらいだろうか。二人は仲睦まじい様子で寄り添い、庭園をゆっくりと歩いている。
皇帝との睦まじさから、二人はただならぬ仲なのだと察したが、ミアは彼女が誰かを知らなかった。皇帝には正妃以外に后はおらず、愛妾も居なかったはずだ。
不信に思い、ミアは遠見の水晶の感度を上げ、音を拾う。
「まさか、ジェームズ様の側妃になれるなんて、夢みたい……」
鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえた。
「ああ、私もだ。しかし、私はミリアに正妃になってもらいたかったな」
「まあ、そんな、恐れ多い! 私はただの男爵家の娘です。側妃にだってなるのは難しいのに、私如きでは分不相応です!」
「そうか……。ミリアは欲が無いな」
皇帝は愛おしそうにミリアと呼ばれた少女の頬を撫で、微笑む。
「今日もまた、夜に尋ねて行くよ」
「は、はい……。お待ちしています……」
ミリアは真っ赤になりながらも、小さくそう言い、そんな彼女を皇帝は優しく抱きしめた。
――そんな光景を見て、魔女は叫ぶ。
「だから、誰よ、その女!」
ミリアと呼ばれた少女は、側妃になれるなんて、と言っていた。つまり、彼女はブレスト皇国の皇帝の側妃なのだろう。しかし、ミアがミリアリアの記憶を隅々まで攫ってみても、そんな記憶は無かった。
「そうすると、ミリアリアが国を出て嫁ぐまでに後宮に入った、ってことよね……」
しかし、どうにもおかしい。皇帝の様子から少女を溺愛しているのが分かるが、他国の姫が嫁いで来るというのに、後宮入りの日が近すぎる。それは、あまりにも配慮の無い行いだ。普通、家臣も正妃も止めるだろう。
「……もしかして、強行した?」
大きな権力持つ者に、まま見られる行動だ。それに、現在の皇帝は二十八歳であり、皇帝の座に就いたのは二十一歳と若かった。これは、前皇帝が急死したためにそうなったのだが、大国で大きな権力を持つ皇帝位に就けるには不安になる若さだった。
「なんか、勘違いしてそうね……」
ブレスト皇国の皇帝の権力は大きい。否、大きすぎると言っても良い程である。そのせいか、帝位の継承は慎重を極める。皇子を必ず最低でも三人は設けられ、厳しい目で選定されるのだ。そして、帝位はどんなに若くても次代が四十代くらいにならないと継承されてこなかった。
しかし、今代は残念ながら皇子は一人であり、先代は急死。有能であると評判であったが、果たしてその人格はどんなものなのか……
「やだぁ~、嫌な予感しかしな~い……」
ミアはビンビンに感じる魔女の予感に、情けない声を上げた。
182
あなたにおすすめの小説
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
事故で記憶喪失になったら、婚約者に「僕が好きだったのは、こんな陰気な女じゃない」と言われました。その後、記憶が戻った私は……【完結】
小平ニコ
恋愛
エリザベラはある日、事故で記憶を失った。
婚約者であるバーナルドは、最初は優しく接してくれていたが、いつまでたっても記憶が戻らないエリザベラに対し、次第に苛立ちを募らせ、つらく当たるようになる。
そのため、エリザベラはふさぎ込み、一時は死にたいとすら思うが、担当医のダンストン先生に励まされ、『記憶を取り戻すためのセラピー』を受けることで、少しずつ昔のことを思いだしていく。
そしてとうとう、エリザベラの記憶は、完全に元に戻った。
すっかり疎遠になっていたバーナルドは、『やっと元のエリザベラに戻った!』と、喜び勇んでエリザベラの元に駆けつけるが、エリザベラは記憶のない時に、バーナルドにつらく当たられたことを、忘れていなかった……
【完結】婚約破棄中に思い出した三人~恐らく私のお父様が最強~
かのん
恋愛
どこにでもある婚約破棄。
だが、その中心にいる王子、その婚約者、そして男爵令嬢の三人は婚約破棄の瞬間に雷に打たれたかのように思い出す。
だめだ。
このまま婚約破棄したらこの国が亡びる。
これは、婚約破棄直後に、白昼夢によって未来を見てしまった三人の婚約破棄騒動物語。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる