お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十

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第五話

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 なんだか疲れてしまって、それ以上王宮内の様子を探る気にはなれず、ミアは早々に就寝した。
 翌日は魔女協会へ向かうため、早めに起き出し、ノアを連れて箒に跨る。

「魔女協会までは遠いから、飛ばすわよ。しっかり摑まっててね」
「はぁい。ご主人サマとお出かけナんて、久しぶりでわくわくしちゃうわぁ」

 ゴロゴロと喉を鳴らすノアに、ミアはクスリと笑って空へと舞い上がる。
 ミアたちがこれから向かう魔女協会は、魔女による魔女の為の互助組織である。なにせ、魔女とはその身に不老の神秘を宿し、神秘の技を行使するある種の超人なのだ。それ故に、時の権力者にその身を狙われたり、理解の無い地で迫害を受けたりしてきた。それをどうにかしようと立ち上がった当時の代表魔女が魔女仲間に呼びかけ立ち上げたのが、魔女協会である。
 その魔女協会では仕事を斡旋してもらったり、魔女が住むには安全な土地を紹介してもらえたりする。たまに魔女との友好的な付き合いの為に、国からの依頼を回されたりもするが、それは生活していくうえで仕方のないことなので、魔女達はなるべくその依頼を断らないようにしている。
 さて、その魔女協会に向かっている訳だが、実はこの魔女協会、物凄く辺鄙な所に在る。

「支部なら各国の王都にあるんだけど、本部は物凄く辺鄙な所に在るのよねー」
「お仕事の再開の手続きは、本部じゃないと出来ナいナんて、不便よネェ」

 姿勢を低くして猛スピードで箒を飛ばすミアに、ノアは抱き込まれるようにして箒にしがみつく。

「けど、どうにか半日もあればつく距離だからね。疲れたら言ってちょうだいね? 休憩いれるから」
「まだ大丈夫よぉ」

 そんなことを話しつつ、ミアとノアは渡り鳥の群れを追い越した。



   ***



 久しぶりに来た魔女協会の本部は程々に人が居たが、混んではおらず、手続きはすぐに終わった。
 意外と早く終わったので、頑張れば家に帰れるが、それも疲れる。やはり何処かの町で一泊し、ついでに観光でもしようかと考えながら席を立てば、不意に声を掛けられた。

「あら? もしかして、ミア?」

 声がする方へ振り向いてみれば、そこには深紅の美しい髪を持った美女が立っていた。

「まあ! スカーレットじゃない! 久しぶりね!」
「それはこっちのセリフよ! かなり長期の仕事だって聞いてたから、あと五十年は会えないと思ってたのに!」

 嬉しそうに両腕を広げ、近寄って来たのはスカーレット・ガーディナーという名の魔女だ。外見は二十歳そこそこに見えるが、彼女もまた魔女ゆえに不老だ。そして、彼女は珍しいことに、種族が魔女とエルフのあいの子であるハーフエルフだ。そのため、不老であれど魔女とバレずに人の世に紛れて暮らしやすく、実際に情報収集のために魔女を嫌う国の赴き、普通の町娘として人の世に紛れて暮らしていたことがある。
 二人は嬉しそうにハグをし、微笑み合う。

「ねえ、バルデの町でお茶しない? 宿はもう取った? まだなら一緒の所を取りましょうよ」
「あら、それは良いわね! じゃあ、早速行きましょう」

 そうやって魔女協会の本部を出て、町へ向かう。
 町では宿をとって、荷物を置いたらお茶をする為にカフェへ向かった。
 カフェはオープンテラスであれば使い魔もOKだと許可をもらい、お茶と季節のタルトを頼んだ。

「それにしても本当に久しぶりね。元気そうで良かったわ」
「スカーレットも元気そうで良かったわ。ノワールも元気そうね」
「ありがとうございます、ミア様。ワレもミア様がお元気そうで嬉しいです」
「うふふ。ありがとう」

 そして、スカーレットの使い魔である黒猫のノワールは、テラスは寒いから保温魔法をかけましょう、と尻尾を一振りしてミアたちが座るテーブル付近に魔法をかけた。

「あら。ありがとう、ノワール」
「気が利くわねぇ」

 お礼を言うと、ノワールはピンと背筋を伸ばし、誇らしげに胸を張った。同じ使い魔であるノアは、目を細めて微笑ましそうにそれを見ている。
 
「それで、仕事は随分早く終わったみたいだけど、大丈夫だったの?」
「あー……、それがねぇ……」

 微妙な顔をするミアに、スカーレットは目を瞬かせる。

「なに? なにかまずい事でもあったわけ?」

 少し身を乗り出して小声でそう尋ねるスカーレットに、ミアは視線を泳がせるも、スカーレットに顔を寄せ、小声で言う。

「仕事内容は守秘義務があるから言えないんだけど、ちょっとプレスコット王国の王宮と、ブレスト皇国の王宮にちょっと潜ってたのよ」
「えっ、王宮に?」

 目を丸くするスカーレットに、ミアは苦い顔で頷く。

「先に言っとくと、国政を魔女の力でどうこうするような仕事ではないから。ただ、ほら、プレスコット王国のお姫様がブレスト皇国に嫁いだじゃない?」
「えーっと、そういえば……、そうね?」

 プレスコット王国とブレスト皇国はスカーレットが住む国から遠いので、関心が薄い。そのため、薄っすらとそういう事を聞いたことがあるな、という程度の認識しかないらしい。
 それがどうかしたのかと首を傾げる彼女に、もっと近くに寄れと手招きし、内緒話をするように耳に口を寄せ小声で告げる。

「そのプレスコット王国のお姫様が、嫁いですぐに死んじゃったのよ。しかも、死体がまだ発見されてなくて、放置されてるの」
「っはあぁぁぁ!?」

 驚愕し、思わず叫ぶスカーレットに、ミアは慌てる。
 
「スカーレット! しーっ!」
「あっ、あら、ホホホ……」

 何事かと通行人の注目を集め、スカーレットは愛想笑いし、会釈してミアに向き直る。

「それって、ここで詳しく聞いても大丈夫な話?」
「それはちょっとマズイかも……」

 苦笑いするミアに、スカーレットは大きな溜息をついた。


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