お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十

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第十六話

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 冬が過ぎ、春が来て、青葉が眩しいある午後の事。
 ブレスト皇国の皇妃、ヴィヴィアンが亡くなった。プレスコット王国の姫たるミリアリアが死んでから、優に半年は過ぎていた。
 ブレスト皇国の皇帝ジェームズとヴィヴィアンとの間に出来た姫は、母の死を嘆き悲しみ、部屋にこもりがちになった。
 残る妃である、プレスコット王国の姫と入れ替えられたミリアリスは、とうとうこの日が来てしまったと恐怖し、青褪める。
 ヴィヴィアン皇妃の死を様々な人間が惜しみ沈むなか、彼女の夫たる皇帝だけが毅然とした態度を取り、公務を果たしていた。
 これを見て、何も知らぬ人々は妻たる皇妃を亡くしても、人前では毅然とした態度を崩さぬ君主に、なんと芯の強い方だと感心した。
 しかし、この皇帝に以前から疑念を抱く者達は、彼の人は表面上だけ平気なふりをしているのではなく、本当に何も感じていないのではないかと思えてならなかった。何故なら、水面下で現在皇帝の寵愛を受けるミリアリア姫を正妃につけるための動きがあったからである。
 もしや、彼女を正妃に就ける為に皇帝がヴィヴィアン皇妃を暗殺したのではないか、と邪推する者が出て来たが、それはあくまで酒の席での趣味の悪い冗談であった。
 しかし、事はその冗談よりも悪質で、タチが悪い物なのだと知ったのは、ヴィヴィアン皇妃の死から程なくしてからだった。
 ヴィヴィアン皇妃の死を怪しんだロスコー王国の詰問。そして、プレスコット王国から来た外交官によるミリアリア姫との謁見を望む矢のような催促。
 それを断固として断り続ける皇帝に、プレスコット王国は後宮に居るミリアリア姫は本当にミリアリア姫なのかという疑問を投げた。
 そして、そこから両国との関係は悪化し、ロスコー王国とプレスコット王国は周辺国にブレスト皇国は信用できぬ国だと呼びかけた。
 結果、ブレスト皇国は孤立した。



 坂から転げ落ちるかのような顛末に、途中まで計画通りだったのに、何故上手く行かなくなったのか、と綺麗な顔を凶悪に歪める皇帝を水晶で覗き見て、呆れたように溜息をつく。

「上手くいくわけないじゃないの。ホント、馬鹿ねぇ」
「猫よりも脳みそが小さいんじゃないかしらぁ」

 こいつ馬鹿だ、と冷たい目でミアとノアは皇帝を見る。そして、水晶を操ってプレスコット王国の様子を見る。
 プレスコット王国では出兵の準備が勧められ、第二王子のジュリアンが兵を率いていくようだ。
 ジュリアンは口を一文字に結び、柔和な顔立ちをしている彼には似合わぬ厳しい表情で共に行く将軍たちと軍議を開いていた。
 彼等はロスコー王国と他の国と共に、四方からかの国を攻め落とすつもりのようだ。
 ミアは既に他人としか思えぬ――けれど、心のどこかで親しみを覚えている第二王子の顔を見つめながら、呟く。

「怪我とか、しないといいけど……」

 その呟きは、自分でも意外に思う程に情がこもっていた。
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