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第十五話

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 日当たりがよく、明るい日の日差しが部屋に差し込む。
 その部屋には豪奢でありながら、品の良さを失わない調度品が飾られており、女性らしい繊細な美しさのある部屋だった。
 その部屋の奥――寝室のベッドに腰かけて項垂れるのは、ブレスト皇国の側妃、ミリアリスである。
 ミリアリスは、いつもならあどけなくも愛らしい微笑みを浮かべ、生の喜びを謳歌していた。しかし、今では萎れた花の如く肩を落とし、混乱と絶望にまみれた顔をしていた。

「どうして……、こんな……」

 呟きは渇き、生気が無かった。
 この日、彼女は知ってしまったのだ。皇帝が、ミリアリスを正妃にする為にヴィヴィアン皇妃を殺し、更にはプレスコット王国の姫君であるミリアリア姫と入れ替える計画を立てていることを。
 先ほどまでうっとりと微笑みながら、もうすぐ君を私の隣に迎えられると告げたミリアアリスの愛しい男。彼は、ミリアリスに恐るべき計画を語り、聞かせた。
 信じられなかった。
 まさか、そんな恐ろしいことを考えていたなんて……
 混乱し、一人にしてくれと願ったミリアリスの意を汲んで、ジェームズは部屋から出て行った。
 ミリアリスの頭に、今まで見聞きしてきた様々なことが駆け巡り、勘違いしていたあれこれが、正しい情報に置き換わっていく。

「わたし、なんて馬鹿だったの……」

 数多のヒントが転がっていた。
 それに気付かず、取り返しのつかない所まで来てしまっていた。
 この先の破滅を予感し、ミリアリスは我が身を抱きしめ、小さく縮こまった。



 そんな様子を、ミアとノアは遠見の水晶で覗いていた。

「とうとう、気付いたみたいね」
「長かったわネェ」

 はー……、と主従揃って長い溜息をつく。
 
「あの皇帝が話したという事は、アホな計画がほぼ完了したんでしょうね。もう引き返すことは絶対に不可能だわ」
「そうネェ。皇妃サマ、きっともうすぐ死んじゃうんでしょうネェ」

 ロスコー王国があれこれしているらしいが、決死の覚悟で後宮に突入し、彼女を攫うくらいことをしなければ救出は無理だろう。そして、救出が叶ったとして、果たしてどれだけ生きられるかもわからない。

「こういう時って、魔女に依頼があったりしナいノォ?」
「大昔はあったみたいだけど、今は原則禁止されてるわね。結局、それって誘拐だし、内政干渉だもの」

 もしできるとすれば、脱出した後、護衛の依頼を受けるくらいがギリギリだろう。

「戦争になれば、ミリアリアの遺体も発見されるかしら」
「それはきっと、見つかるでしょうネェ」

 プレスコット王国の人々は、打ち捨てられ、変わり果てた無惨な姿を見ることになるのだろう。

「結局、あの皇帝がすることで得する人間なんて、だれ一人として居ないわ」

 ヴィヴィアン皇妃は死の淵に立たされ、彼女の娘たる姫は両親を失おうとしている。
 ミリアリス妃は知らぬ間に背負わされた罪の大きさに慄き、国民はこれから苦難の道を歩まねばならない。

「稀代の愚王として名を残しそうね」

 そう言って、ミアは震えるミリアリスが映る水晶の映像を掻き消した。
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