ヒロインですが、胃薬を処方されています。

悠十

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「実はね、学園で常駐してる医師から君のことを聞いてね」
「はい」
「パトリシアの視線が気になって体調を崩したんだって? すまないね、私の婚約者が」
「いえ、そんな……」
「実はね、私も彼女の様子が気になってたんだよ。なんだか、君を警戒しているように見えてね」
「はい」
「だから申し訳ないけど、君のことをちょっと調べさせてもらったんだ。結果はもちろん白だったよ」
「はい。大事な婚約者様に関わることですから、仕方がないかと思います」
「けどね、じゃあ、なんであんなに君を警戒するのか分からないんだ。パトリシアに聞いてみてもはぐらかされてしまうし」
「はい」
「だからね、もし、君に何か心当たりがあるなら、教えて欲しいんだ」

 キャロルは長い沈黙のあと、苦渋の決断、と言わんばかりに渋い顔をして、口を開いた。

「あの、荒唐無稽な話になるんですが、私の心当たりは本当にこれだけなので、どうか最後までお聞きいただけるよう、お願いいたします」

 王太子はにっこりと笑んで、頷いた。



   ***



「ざっくぅぅぅ! こわかったよぉぉぉ!」
「うおっ⁉」

 半泣きのキャロルに出合い頭に飛びつかれ、ザックはよろける。
 
「おい、危ないだろうが! ――というか、どうした。なんかあったのか?」
「ううぅ……、王太子殿下とお話しして来た……」
「はあ⁉」

 ぎょっと目を剥くザックに、キャロルは怖かった、怖かったんだよ、と訴える。

「いったい何でそんなことになったんだ?」
「ほら、保健室のお医者様。あの先生から私の体調に関して話が行ったみたいで、パトリシア様のことを気にしてらっしゃる殿下はいい機会とでも思ったんじゃないかな? もう、隠しても良い事はなさそうだから、洗いざらい話して来たよ」
「あー……、そうだな。下手に隠した方が面倒になりそうだからな」

 下手に隠して妙なことになるより、頭のおかしい奴だと思われた方がマシそうだ、とザックは頷く。
 
「これからどうなると思う?」
「さあ……? ただ、あの有能な殿下のことだ。お前を敵と認識しない限り、変なことにはならないと思うぞ」
「敵って認識されたらどうなっちゃうの!?」
「んん~……」

 泣き出しそうなキャロルの手を取り、ザックは言う。

「一緒に逃げてやるよ」
「えっ……」

 ポカン、とするキャロルに、ザックは真剣な顔をして言う。

「一緒に逃げて、一緒に居てやる。大丈夫だ。お前を一人にはしない」
「ザック……」

 キャロルは唖然としてザックを見つめ、じわじわと脳に沁み込むようにザックに言われた言葉を理解する。
 そして、蕾がほころぶように微笑み、嬉しそうに頷いた。
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