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令嬢は踊る
第十八話 放課後2
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何にせよ、事は起こり、ジュリエッタは王太子の企みを跳ねのけ、留学と称してランタナ王国へやって来た。
もしかすると、フーリエ公爵家としてはジュリエッタの婿として、最初はオーランドを、と考えていたのかもしれない。しかし、彼は下手を打ち、ランドール公爵から酷く失望され、彼の父親からの援助はほぼ期待できないものとなった。
それ故に、彼は踏み台として利用されることになったのだ。
彼の誘いのままにランタナ王国へ留学した目的は、ブルノー王国の王家と事を構える為に必要な後ろ盾だ。
だから、彼女はヘンリーに近づこうとしている。
「ジュリエッタ嬢に流し目を貰うんだが、明らかに気があるのはチアンにだろう? もう、馬鹿馬鹿しくてな。しかも、オーランドがそれを気にしているのに、ジュリエッタ嬢はチアンを気にするあまりそれに気付いていないわで……」
「うわぁ……」
「お疲れ様です……」
同情的な視線に、ヘンリーは疲れたように大きく息を吐く。
「オーランドの奴がチアンに何か仕出かさないか怖くてな。チアンの護衛をネモに頼もうと思ったんだ」
「あ、だからネモ先輩が居ないか聞かれたんですね」
エラが納得して頷く横で、レナが少し難しい顔をして尋ねた。
「あの、チアン殿下は護衛に関して了承されたんですか?」
それに対し、ヘンリーは苦い顔をして言う。
「いや、断られた。金が無いから護衛は雇えない、とさ」
「えっ」
「やっぱり……」
エラが驚いて目を見開き、レナは予想通りの回答が来て苦笑する。
「チアン殿下って、何をしているか分かりませんけど、自分でお金を稼いでますよね」
「そうだな。本人から聞いた事は無いが、無理に留学したもんだから、国からの援助はあまり無いらしい」
だから俺が出すって言ってるんだがな~、断られてしまった、と肩を竦める。
「でも、チアン殿下はお強いと聞きましたけど、ネモ先輩の護衛って必要なんですか?」
「いや、本当なら必要ない。けどな、オーランドの目から見て女が常に傍に居る、っていう状況が欲しいんだよ。あいつらは互いに遠慮が無いからな。良い具合に勘違いしてくれそうだろ?」
「ああ……、そういう……」
エラは納得した様に頷くが、それにレナが小首を傾げて尋ねる。
「けど、それだとジュリエッタ様が暴走しませんか?」
「むしろ暴走して欲しいね。何かしら問題を起こしてくれれば、国に返せるだろ」
腹黒いことを言うヘンリーに、レナは思わず引く。
「チアンとネモがジュリエッタ嬢如きにどうこうされる筈がないからな」
「如き……」
「でも、相手は公爵令嬢ですよ?」
エラが心配そうにそう言えば、ヘンリーはスンと真顔になる。
「帝位継承権を持つ奴がボロボロ死んでいく魔窟で後ろ盾が薄っぺらいのに生き残って、カンラ帝が止めるのを振り切って留学してくる奴と、途方もない年月を生きて良くも悪くも伝説を残している熟練の問題児だぞ? 大切に育てられたオヒメサマの手には負えないさ」
現に、俺の手にも負えない、と言うヘンリーに、レナとエラは微妙な顔をする。
「自滅してくれねーかなー」とぼやくヘンリーに、ふとレナは気になった事を聞いてみる。
「そういえば、ちょっと気になってたんですけど、隣国との関係云々抜きにしたら、ジュリエッタ様って個人的にはどうお思いですか? 美人で有能と聞いていますけど、ああいう方に奥方になってもらいたいとは思わないんですか?」
誰もが見惚れ、多くの人間に好かれているという彼女にヘンリーは興味は無いのだろうか?
そんな疑問に、エラも興味深そうにヘンリーを見る。
後輩二人のそんな視線を受け、ヘンリーは苦笑する。
「まあ、美人だし、打てば響く答えを返してくれそうだが、結婚したいとは思わないな。ちょっと俺の好みからズレてるんだ。ビジネスパートナー、もしくは友人までの付き合いになるな」
その答えに、二人は驚く。
「あんなに美人で、スタイルも良いのに?」
「そうだな」
「頭が良くて、身分も申し分ないのに?」
「そうだな」
えーっ、と目を丸くする後輩二人に、ヘンリーは苦笑する。
「俺はちょっと……、いや、かなり仕事で突っ走ってしまうからな。そこら辺に気付いて、止めてくれる人が理想だ。ジュリエッタ嬢みたいな盛り立てるのが上手なタイプは、共倒れになりそうなんだよ」
「ああー……」
「そういうことですか……」
確かに家で仕事の話ばかりしそうだ、と二人は頷く。
「殿下の健康の為にも、ジュリエッタ様には諦めて貰わないといけないですね」
「そうだな」
レナの言葉に、ヘンリーは面白そうに笑った。
もしかすると、フーリエ公爵家としてはジュリエッタの婿として、最初はオーランドを、と考えていたのかもしれない。しかし、彼は下手を打ち、ランドール公爵から酷く失望され、彼の父親からの援助はほぼ期待できないものとなった。
それ故に、彼は踏み台として利用されることになったのだ。
彼の誘いのままにランタナ王国へ留学した目的は、ブルノー王国の王家と事を構える為に必要な後ろ盾だ。
だから、彼女はヘンリーに近づこうとしている。
「ジュリエッタ嬢に流し目を貰うんだが、明らかに気があるのはチアンにだろう? もう、馬鹿馬鹿しくてな。しかも、オーランドがそれを気にしているのに、ジュリエッタ嬢はチアンを気にするあまりそれに気付いていないわで……」
「うわぁ……」
「お疲れ様です……」
同情的な視線に、ヘンリーは疲れたように大きく息を吐く。
「オーランドの奴がチアンに何か仕出かさないか怖くてな。チアンの護衛をネモに頼もうと思ったんだ」
「あ、だからネモ先輩が居ないか聞かれたんですね」
エラが納得して頷く横で、レナが少し難しい顔をして尋ねた。
「あの、チアン殿下は護衛に関して了承されたんですか?」
それに対し、ヘンリーは苦い顔をして言う。
「いや、断られた。金が無いから護衛は雇えない、とさ」
「えっ」
「やっぱり……」
エラが驚いて目を見開き、レナは予想通りの回答が来て苦笑する。
「チアン殿下って、何をしているか分かりませんけど、自分でお金を稼いでますよね」
「そうだな。本人から聞いた事は無いが、無理に留学したもんだから、国からの援助はあまり無いらしい」
だから俺が出すって言ってるんだがな~、断られてしまった、と肩を竦める。
「でも、チアン殿下はお強いと聞きましたけど、ネモ先輩の護衛って必要なんですか?」
「いや、本当なら必要ない。けどな、オーランドの目から見て女が常に傍に居る、っていう状況が欲しいんだよ。あいつらは互いに遠慮が無いからな。良い具合に勘違いしてくれそうだろ?」
「ああ……、そういう……」
エラは納得した様に頷くが、それにレナが小首を傾げて尋ねる。
「けど、それだとジュリエッタ様が暴走しませんか?」
「むしろ暴走して欲しいね。何かしら問題を起こしてくれれば、国に返せるだろ」
腹黒いことを言うヘンリーに、レナは思わず引く。
「チアンとネモがジュリエッタ嬢如きにどうこうされる筈がないからな」
「如き……」
「でも、相手は公爵令嬢ですよ?」
エラが心配そうにそう言えば、ヘンリーはスンと真顔になる。
「帝位継承権を持つ奴がボロボロ死んでいく魔窟で後ろ盾が薄っぺらいのに生き残って、カンラ帝が止めるのを振り切って留学してくる奴と、途方もない年月を生きて良くも悪くも伝説を残している熟練の問題児だぞ? 大切に育てられたオヒメサマの手には負えないさ」
現に、俺の手にも負えない、と言うヘンリーに、レナとエラは微妙な顔をする。
「自滅してくれねーかなー」とぼやくヘンリーに、ふとレナは気になった事を聞いてみる。
「そういえば、ちょっと気になってたんですけど、隣国との関係云々抜きにしたら、ジュリエッタ様って個人的にはどうお思いですか? 美人で有能と聞いていますけど、ああいう方に奥方になってもらいたいとは思わないんですか?」
誰もが見惚れ、多くの人間に好かれているという彼女にヘンリーは興味は無いのだろうか?
そんな疑問に、エラも興味深そうにヘンリーを見る。
後輩二人のそんな視線を受け、ヘンリーは苦笑する。
「まあ、美人だし、打てば響く答えを返してくれそうだが、結婚したいとは思わないな。ちょっと俺の好みからズレてるんだ。ビジネスパートナー、もしくは友人までの付き合いになるな」
その答えに、二人は驚く。
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「そうだな」
「頭が良くて、身分も申し分ないのに?」
「そうだな」
えーっ、と目を丸くする後輩二人に、ヘンリーは苦笑する。
「俺はちょっと……、いや、かなり仕事で突っ走ってしまうからな。そこら辺に気付いて、止めてくれる人が理想だ。ジュリエッタ嬢みたいな盛り立てるのが上手なタイプは、共倒れになりそうなんだよ」
「ああー……」
「そういうことですか……」
確かに家で仕事の話ばかりしそうだ、と二人は頷く。
「殿下の健康の為にも、ジュリエッタ様には諦めて貰わないといけないですね」
「そうだな」
レナの言葉に、ヘンリーは面白そうに笑った。
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