錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

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令嬢は踊る

第六十三話 作法

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 さて、ジュリエッタのお茶会に行く事になったはいいが、ここで心配事が持ち上がる。
 それは、お茶会での作法だ。
 ヘンリーとエラ以外は、それに縁のなかった者達である。
 そのため、『台所錬金術部』の面々は、ジュリエッタのお茶会へ行く前に、お茶会の作法の確認する事となった。
 お茶会初心者のレナやイヴァン、国の文化が違うが故に勝手を把握しきれていないチアン、長く生きてはいるが気取ったものを避け、我が道を行くネモの為に開かれたプチ勉強会である。
 一応、それぞれが最低限してはいけない事は知っているらしいのだが、不安があったためにヘンリーが最終確認をすると言い出したのだ。
 そうして、ある程度確認を終え、ヘンリーが、よし、と少しばかり安堵したように頷く。

「皆、ちゃんと覚えているみたいだな。取りあえず、私的なお茶会ならそれを守っていれば、まあ、大丈夫だ」

 その言葉に同意するように、エラも頷く。

「それぞれの身分や背景は、お茶会に呼ぶからには、あちらも少しは調べている筈ですし、多少失敗した所で大目に見てもらえるかと思います」

 そして二人は言外には出さなかったが、どうせ一番のお目当てはチアンなのだから、大きな失敗などしなければ、早々に忘れてくれると思っていた。正直、あの美貌を好きになったのなら、チアン以外の人間の記憶など、彼を前にしたら多くは覚えてはいられないだろう。
 そんな風に考えている二人に、このクラブで一番の問題児が尋ねる。

「ねえ、私的なお茶会だと、無礼ってどこまでなら許される?」

 あっくんの胃袋を満足させるまで茶菓子を要求するのって駄目かしら、というネモの質問に、二人は遠い目をした。
 流石は熟練の問題児。無礼前提で行こうとしている。
 
「いや、駄目気に決まってるだろ」
「ええ、流石にちょっと……」
「やっぱり?」

 それなら、あっくん用に自前の茶菓子を持って行くのは? と更に尋ねられ、駄目だと首を横に振る。
 そんな遣り取りに、レナは小首を傾げる。

「ネモ先輩はあっくんを連れて行くんですか?」
「むしろ、連れて行かないという選択肢は無いわね」

 胸を張ってそう言われ、レナはヘンリーを見る。

「あの、貴族のお茶会に契約召喚獣って連れて行っていいものなんですか?」
「あー……、まあ、普通は連れて行かないな。暗黙の了解、ってやつだ」
「上級冒険者の方とかだと、小型の契約召喚獣だったら、まあ、なんとか……」

 冒険者の場合だと、むしろそれらしいとして、非日常を垣間見るという意味で歓迎される場合もある。

「逆に聞くけど、私があっくんから目を離しても良いわけ?」
「よし、絶対に連れて行け。目を離すな」

 ネモのその言葉に、ヘンリーが素晴らしい速さで掌返しをした。
 そして、それを聞いて紅茶を飲んでいたチアンが、ふと顔を上げる。

「思ったんだが、それならポポも連れて行くべきだろう」
「えっ?」

 ポポには留守番をさせようと思っていたレナは、驚いてチアンを見る。

「いや、正直、ポポは生まれたばかりで、一匹でいる際、どういう行動を取るのか未知数だ。式神である以上、主人の命令は絶対だが、目を離した隙に人でも喰らったら一大事ではないか?」
「連れて行きます!」

 チアンの指摘に、レナが鳥肌を立てて宣言した。
 レナはポポを鷲掴み、言う。

「良い、ポポ。人は食べちゃ駄目だからね? 絶対、食べちゃ駄目だからね⁉」
「ボァァァ……」

 レナの必死の形相に、ヘンリーが恐る恐る尋ねる。

「あの、レナ? それは、どういう意味だ? ポポはもしかして、人を食べ――」
「まだ食べてません!」

 皆まで言わせず否定したが、まだって何? とドン引きされた。
 そんな一連の話を聞き、イヴァンがポツリと呟く。

「隣国の公爵令嬢のお茶会に、地雷の如き小動物を連れて行って良いんでしょうか?」

 見た目はキュート、中身は無邪気、その実態はダイナマイト。
 『台所錬金術部』の面々は、現実からそっと目を逸らした。
 こうして、主催者の意図せぬ所で、『チキチキ☆公爵令嬢のお茶会~とてもヤバイ小動物を添えて~』が開催される事が決定したのであった。
 

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