錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

文字の大きさ
104 / 151
芽ぐむ日

第十四話 休養日

しおりを挟む
 翌日のダンジョンアタックは、中止になった。
 その原因は、イザベラの筋肉痛である。
「う、腕が上がりませんわ……」
 半泣きでそういうイザベラに、ネモとレナは苦笑する。
「そりゃ、それなりに重量のある長い鞭なんてものを振り回せば、そうなるわよ」
「普段使わない筋肉を使ったのね」
 武器屋で調子に乗って鞭を振り回し過ぎたようだ。
 レナは鞄を漁りながら言う。
「筋肉痛はポーションで強制的に治すのは良くないの。塗り薬があるから、今日のダンジョンアタックはお休みしましょう」
「申し訳ありませんわ……」
 ひぃん、と泣きべそでもかきそうな顔をしたイザベラに、レナは思わずふき出した。

   ***

 宿の食堂で朝食を摂るべく一同は集まり、本日の予定を話し合う。
 テーブルの上ではあっくんが二皿目を食べ終え、ポポが寝ぼけ眼でパンを口に運んでいる。
「なるほど。では、レナ達は今日は休養日とするのだな」
「はい。ずっとダンジョンアタックをしてきましたし、この辺りで休むのは丁度良いと思うんです」
 チアンの言葉にレナは頷き、チームリーダーのイヴァンを見る。
「もちろん、それで良いよ。体に異常があるのに、ダンジョンへ潜るのは上層といえど自殺行為だからね」
 微笑んで頷くイヴァンに、イザベラが「申し訳ありませんわぁ」と情けない声を上げた。
「チアン殿下達は、今日はどうなさるんですか?」
「もちろん、金を稼いでくる」
「そういうわけだから、今日はダンジョンで泊まりよ。明日の夜には帰って来るから」
 キリッ、とした顔で言うチアンとは対照的に、ネモはげっそりとした顔で溜息をついた。
「師匠、結構な金額を稼げたとか言ってませんでしたか?」
「足りないんですって」
 本来、もう少し下層に潜っている筈だったが、負傷者を見つけたために帰還したため、目標金額に達しなかったそうだ。
「皇子という身分ゆえ、体裁を取り繕わねばならん。そのための金がない」
「皇子自ら稼いでいる現状で、今更体裁も何もないでしょうに」
 そもそもそれを国が出さないというのが問題であり、その手段を取らせたチアンは一体どういう無茶をして国を出たのかが気になるところだ。
 ネモにそのことを突っ込まれ、チアンは視線を彼方に飛ばした。
「異母兄を一人……、治療院送りにしてな……」
「は?」
 声を漏らしたネモはもちろん、レナ達もまた唖然としてチアンを見る。
「いやな、行かないでくれと縋られて、あまりの鬱陶しさに投げ飛ばしたら、予想外に飛んでな……。欄干超えて外に落ちて、腕の骨が折れた」
「アンタ、何やってるのよ……」
 そしてチアンが言うには、その異母兄の母親が大層な御家の出身だったらしく、怒った彼女が手を回してチアンの留学費用をがっつり減額したそうだ。
「異母兄には申し訳なく思ってはいる。だが、宮中は後継者争いで厄介な事になっておるし、早々に国から出なければ、面倒な仕事を回されかねなかったゆえ、仕方がなかったのだ。それを思えば、減額くらい問題ない。稼げばよいからな」
「それに付き合わされる身にもなって欲しいわ」
 そう言って、ネモは朝食を三皿食べ終えたあっくんにプチトマトを与えながら溜息をついたのだった。

 さて、ネモ達はダンジョンに向かう用意をすべく部屋に引き上げていき、イザベラは動くのが辛いということで、今日一日は宿で休むとのことだ。
「う~ん、けど、休みかぁ……」
 折角ダンジョン都市に来ているのだから、宿に居るのも勿体ない。
 何をしようかと悩んでいると、イヴァンが魔道具店へ行かないか、と誘ってきた。
「ダンジョン都市の魔道具店は面白いよ。錬金術師を目指すなら、行ってみる価値はあると思うんだ」
 それにレナはパチリと瞬いて、首を傾げる。
「素材屋じゃないんですか?」
 養母の経営する商会の研究員が、ダンジョン産の物が置いてある素材屋は面白いと言っていたのを思い出し、レナは尋ねた。
「もちろん、そっちも面白いよ。けど、まず行くなら魔道具屋だ。魔道具を見るのも面白いんだけど、それよりジャンク品狙いだね。そういうものをばらして、素材に戻して使うんだ。素材屋で買うより、よっぽど安価で手に入る。ダンジョン都市のジャンク品は狙い目なんだよ。ダンジョン産のものは質が違うからね」
 イヴァンが言うには、先日の武器屋のたたき売りされていた武器は、幾らかダンジョン産のものと思しき品が紛れていたそうだ。
「良い物があったんですか?」
「あったよ。ほら、あの歪んだレイピア」
 なんと、あのレイピアの刃はオリハルコンが混ざっていたらしい。
「ただ、オリハルコンが混ざってても、他に混ざっている素材のせいで普通の剣より柔らかくなっちゃったみたいだね。あれだと、直しても、すぐに歪むから別のものに転用する方がいい」
「なるほど……」
 そういう素材目的でジャンク品を探したいらしい。
「興味があります!」
 瞳を輝かせ、期待に満ちた目でイヴァンを見上げれば、彼はにっこり微笑んで頷いた。
「見分け方を教えてあげるよ」
「ありがとうございます!」
 そうして微笑み合う二人は、背後に近づく二つの爆弾に気付かなかった。
 爆弾はごく自然に二人に近づき、言った。
「あら、ダンジョン都市でデートだなんて、やるわね!」
「まったく、お似合いで羨ましいかぎりだな」
 爆弾発言を落として行ったネモとチアンはそのまま二人の横を飄々とした顔で通り過ぎ、宿を出て行った。
 通りすがりの犯行に、残されたレナとイヴァンは顔を真っ赤に染めて、硬直したのだった。
しおりを挟む
感想 453

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。