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第二幕
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リリアは努力家だった。
例え側妃といえども、王族の一員となるのだ。下手な振る舞いは国の恥となる。
その為、リリアは懸命に努力し、相応しい振る舞いを身に着けて行った。
しかし、王太子と仲睦まじいリリアには、やはり嫉妬の目が集まった。
嫌がらせを受けるリリアを庇ったのは、王太子とその側近達だった。しかし、それは悪手であった。そもそもが、彼等と共にあるのが気に入らないのだから、それでは火に油を注ぐだけだったのだ。
「リリアさん、このままでは良くないわ」
「はい。私も、そう思います」
「そもそも、貴女を庇う令息達には婚約者がいる人も居るの。彼女達が貴女を面白く思わないのも当然なのよ」
「はい、良く分かります。私、彼等から少し距離を取ろうかと思います」
「それがよろしいわ」
それから、アリシアは何とかして令嬢達とリリアの仲を取り持とうとし、間に入った彼女のおかげで事態は沈静化したが、それでも火種は残っている。
リリアの養子先を探すアリシアは、このまま正式な後ろ盾がない状態は良くないと感じ、その決定を急いだ。
そんな忙しそうなアリシアに陰から守られながらも、緊張感を持ちながら過ごすリリアは、これ以上令嬢たちを刺激するのは良くないと、自身を守ろうとしてくれる令息達から少し距離を置こうとした。
後に、リリアは気付く。きっと、それが最初の失敗だった。
「私を庇っていただいて、ありがとうございます。けど、私は大丈夫ですので、どうか貴方を大切に想っている方との時間を大切にしてください」
「リリア、何を言っているんだ。また君が辛い思いをするような事が有ったら、どうするんだ」
「いいえ、私は大丈夫です。それに、彼女たちの気持ちも分かるんです。貴方方を愛する方達にとって、私は面白くない存在です。ですから、彼女達の気持ちに配慮したいんです」
令息達はリリアに説明された事を理解しつつも、納得できなかった。高位の、力ある者の傲慢ともいえる自信が、自分達ならリリアを守りきれると過信し、リリアの令嬢達を刺激したくないという願いを切り捨てたのだ。
そうした令息達の過信が、リリアをより追い詰める事になる。
***
リリアは困惑した。自分を守ろうとしてくれた親切な令息達に、令嬢達を刺激したくないから距離を置かせてほしいと願ったのに、彼等は「遠慮するな」「大丈夫だ、俺達が君を守るから」などと言って、話を聞いてくれないのだ。
「困りましたわね」
「はい。何だか、話を聞いてくれなくて……」
アリシアとリリアは、何とも言えない悩まし気な溜息を吐く。
この頃から、リリアは令息達にほんの少しの苦手意識を抱くようになった。
それに、リリアの想い人は王太子クリストファー只一人で、令息達は友人以上にはならない人達なのだ。彼等に対し、彼等の周りの女性には配慮して当然なのだ。それを、彼等は分かってくれない。
だから、リリアは何度もやめてくれ、と言った。しかし、彼等は聞かなかった。
最終的にリリアの愛するクリストファーまでもが令息達と意見を共にし、リリアを囲い込んだ。
リリアの立場がますます悪くなり、アリシアも苦言を呈すが、彼等は止まらなかった。
そして、時悪く、事件が起きた。
隣国との小競り合いにて、アリシアの想い人が亡くなったのだ。
「アリシア様……」
「ああ、ごめんなさいね、リリアさん。大丈夫よ。ちゃんと役目を果たすわ。ええ、大丈夫よ……」
そうは言うものの、これには流石のアリシアも参ってしまい、リリアの守りがおろそかになってしまった。
それに対し、リリアは何の怒りも、恨みも無かった。むしろ、愛する人を失ったアリシアを心配し、それでも毅然と前を向こうと懸命に立つ彼女を尊敬した。
しかし、そんな二人の胸中をよそに、人々は動く。
そして、とうとう事件が起きた。
リリアが階段から突き落とされたのだ。
リリアの怪我は打撲程度で済み、命に別状は無かったが、これに王太子が激怒した。
すぐに犯人探しが行われ、最終的に上がった犯人が、アリシアだったのだ。
有り得ない、とリリアは言ったが、誰もリリアの言葉を聞いてはくれなかった。
「リリアは優しいから」
「あんな性悪女まで庇わなくて良いんだよ」
リリアはずっと声が枯れるまで否定し続けた。だって、有り得ないのだ。彼女が、リリアに嫉妬心を持ち、害する理由が無いのだから。
それでも、誰もがアリシアを悪しざまに言い、ついにはリリアの愛する男までもが、リリアの友に牙を剥いた。
「アリシアとの婚約を破棄し、彼女に罪を清算してもらう」
リリアはその言葉を聞き、信じられないものを見るような目でクリストファーを見つめた。
「待って、何を言っているの?」
「リリア、怖い思いをさせてすまなかった。必ず、俺がその原因を取り除いて見せるから」
「待って、待ってちょうだい! 何を言っているのか分からないわ! アリシア様は何もしていないのよ? むしろ、あの方は、ずっと私を守ってくださっていたのよ!」
クリストファーは必死な形相で自身に縋るリリアに、優しく、諭すように言う。
「リリア、君は貴族の女の恐ろしさを知らないんだ。そうやって慈悲深い顔をして、その裏では相手を蹴落とすのが彼女達の手なんだよ」
「クリストファー!?」
この男は、何を言っているのだ、とリリアは絶句した。
どうしようもなく、話が通じないのだ。この目の前に居る男は、本当にリリアが愛した男なのかと、信じられない思いでいっぱいだった。
その後、アリシアは捕らえられ、牢獄へと繋がれた。
リリアは必死に、なりふり構わず王太子や令息達にアリシアを解放するように取りすがるが、受け入れてもらえなかった。
「可哀そうに、あんな悪女に騙されて」
「心根が純粋な君には、ここは毒かもしれない」
「少し、休養が必要だよ」
令息達は口々にそう言い、リリアは休養の為に地方の屋敷へ強制的に送られてしまった。
そうして、事態はますます悪くなる。
ある貴族がアリシアの実家の力を削ごうと、ありもしない罪をでっちあげ、アリシアに罪をかぶせたのだ。
王太子達は、それ見た事かと、まるで鬼の首を取ったかのような顔をして、その情報に飛びついた。
そして、冤罪にもかかわらず、アリシアの処刑が決定した。
例え側妃といえども、王族の一員となるのだ。下手な振る舞いは国の恥となる。
その為、リリアは懸命に努力し、相応しい振る舞いを身に着けて行った。
しかし、王太子と仲睦まじいリリアには、やはり嫉妬の目が集まった。
嫌がらせを受けるリリアを庇ったのは、王太子とその側近達だった。しかし、それは悪手であった。そもそもが、彼等と共にあるのが気に入らないのだから、それでは火に油を注ぐだけだったのだ。
「リリアさん、このままでは良くないわ」
「はい。私も、そう思います」
「そもそも、貴女を庇う令息達には婚約者がいる人も居るの。彼女達が貴女を面白く思わないのも当然なのよ」
「はい、良く分かります。私、彼等から少し距離を取ろうかと思います」
「それがよろしいわ」
それから、アリシアは何とかして令嬢達とリリアの仲を取り持とうとし、間に入った彼女のおかげで事態は沈静化したが、それでも火種は残っている。
リリアの養子先を探すアリシアは、このまま正式な後ろ盾がない状態は良くないと感じ、その決定を急いだ。
そんな忙しそうなアリシアに陰から守られながらも、緊張感を持ちながら過ごすリリアは、これ以上令嬢たちを刺激するのは良くないと、自身を守ろうとしてくれる令息達から少し距離を置こうとした。
後に、リリアは気付く。きっと、それが最初の失敗だった。
「私を庇っていただいて、ありがとうございます。けど、私は大丈夫ですので、どうか貴方を大切に想っている方との時間を大切にしてください」
「リリア、何を言っているんだ。また君が辛い思いをするような事が有ったら、どうするんだ」
「いいえ、私は大丈夫です。それに、彼女たちの気持ちも分かるんです。貴方方を愛する方達にとって、私は面白くない存在です。ですから、彼女達の気持ちに配慮したいんです」
令息達はリリアに説明された事を理解しつつも、納得できなかった。高位の、力ある者の傲慢ともいえる自信が、自分達ならリリアを守りきれると過信し、リリアの令嬢達を刺激したくないという願いを切り捨てたのだ。
そうした令息達の過信が、リリアをより追い詰める事になる。
***
リリアは困惑した。自分を守ろうとしてくれた親切な令息達に、令嬢達を刺激したくないから距離を置かせてほしいと願ったのに、彼等は「遠慮するな」「大丈夫だ、俺達が君を守るから」などと言って、話を聞いてくれないのだ。
「困りましたわね」
「はい。何だか、話を聞いてくれなくて……」
アリシアとリリアは、何とも言えない悩まし気な溜息を吐く。
この頃から、リリアは令息達にほんの少しの苦手意識を抱くようになった。
それに、リリアの想い人は王太子クリストファー只一人で、令息達は友人以上にはならない人達なのだ。彼等に対し、彼等の周りの女性には配慮して当然なのだ。それを、彼等は分かってくれない。
だから、リリアは何度もやめてくれ、と言った。しかし、彼等は聞かなかった。
最終的にリリアの愛するクリストファーまでもが令息達と意見を共にし、リリアを囲い込んだ。
リリアの立場がますます悪くなり、アリシアも苦言を呈すが、彼等は止まらなかった。
そして、時悪く、事件が起きた。
隣国との小競り合いにて、アリシアの想い人が亡くなったのだ。
「アリシア様……」
「ああ、ごめんなさいね、リリアさん。大丈夫よ。ちゃんと役目を果たすわ。ええ、大丈夫よ……」
そうは言うものの、これには流石のアリシアも参ってしまい、リリアの守りがおろそかになってしまった。
それに対し、リリアは何の怒りも、恨みも無かった。むしろ、愛する人を失ったアリシアを心配し、それでも毅然と前を向こうと懸命に立つ彼女を尊敬した。
しかし、そんな二人の胸中をよそに、人々は動く。
そして、とうとう事件が起きた。
リリアが階段から突き落とされたのだ。
リリアの怪我は打撲程度で済み、命に別状は無かったが、これに王太子が激怒した。
すぐに犯人探しが行われ、最終的に上がった犯人が、アリシアだったのだ。
有り得ない、とリリアは言ったが、誰もリリアの言葉を聞いてはくれなかった。
「リリアは優しいから」
「あんな性悪女まで庇わなくて良いんだよ」
リリアはずっと声が枯れるまで否定し続けた。だって、有り得ないのだ。彼女が、リリアに嫉妬心を持ち、害する理由が無いのだから。
それでも、誰もがアリシアを悪しざまに言い、ついにはリリアの愛する男までもが、リリアの友に牙を剥いた。
「アリシアとの婚約を破棄し、彼女に罪を清算してもらう」
リリアはその言葉を聞き、信じられないものを見るような目でクリストファーを見つめた。
「待って、何を言っているの?」
「リリア、怖い思いをさせてすまなかった。必ず、俺がその原因を取り除いて見せるから」
「待って、待ってちょうだい! 何を言っているのか分からないわ! アリシア様は何もしていないのよ? むしろ、あの方は、ずっと私を守ってくださっていたのよ!」
クリストファーは必死な形相で自身に縋るリリアに、優しく、諭すように言う。
「リリア、君は貴族の女の恐ろしさを知らないんだ。そうやって慈悲深い顔をして、その裏では相手を蹴落とすのが彼女達の手なんだよ」
「クリストファー!?」
この男は、何を言っているのだ、とリリアは絶句した。
どうしようもなく、話が通じないのだ。この目の前に居る男は、本当にリリアが愛した男なのかと、信じられない思いでいっぱいだった。
その後、アリシアは捕らえられ、牢獄へと繋がれた。
リリアは必死に、なりふり構わず王太子や令息達にアリシアを解放するように取りすがるが、受け入れてもらえなかった。
「可哀そうに、あんな悪女に騙されて」
「心根が純粋な君には、ここは毒かもしれない」
「少し、休養が必要だよ」
令息達は口々にそう言い、リリアは休養の為に地方の屋敷へ強制的に送られてしまった。
そうして、事態はますます悪くなる。
ある貴族がアリシアの実家の力を削ごうと、ありもしない罪をでっちあげ、アリシアに罪をかぶせたのだ。
王太子達は、それ見た事かと、まるで鬼の首を取ったかのような顔をして、その情報に飛びついた。
そして、冤罪にもかかわらず、アリシアの処刑が決定した。
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