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第二章
「とりあえず、軽く戦闘をして問題がないか確かめてみるといい。相手は準備してやろう」
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アルベルトたちが向かった南の平原は、ほとんど魔獣が出ない場所だった。
申し訳程度の林が所々にあるだけで、何もない草原だ。
農地にする話もあったくらい平和な場所だが、王都とアニマルダンジョンと呼ばれている、猛獣系の魔獣が多く出現するダンジョンの間にあるため、ダンジョンが溢れた時の迎撃の場とするために放置されていた。
「すごい!軽ーい!本当にこれ、もらっていいの?」
新しい防具を身に着けたネリーが、その軽さを確かめるようにピョンピョンと跳ねる。
心なしかまだ成長しきっていない胸が揺れているような感じがして、モーリスとシモンの目はそこに釘付けになっていた。
「もちろんだ。後衛の女たちの分は負担にならないよう軽さと魔法に対する防御を考えてレイジフロッグの皮を使っておる。男たちは物理耐性重視でオーガの皮だな」
「オーガ!いいのか?」
驚きの声を上げたモーリスの顔は、満面の笑顔だ。
レイジフロッグもオーガも入手困難な素材ではない。派手な戦闘をする冒険者には物足りないくらいの装備だが、孤児院の少年少女には高価なものだった。
「かまわん。在庫が大量にあったのでな」
ナイは満足そうに頷いた。
初心者パーティーの皆がしっかりと装備を固めている一方、彼女の格好は、防具をほとんど着けていない普段着のようなものだ。元々猫だった彼女は締め付けのある服を好まない。
戦闘するように全く見えないが、彼女の服には付与魔法による絶対的な防御が為されていた。
それこそ、ダンジョンマスタークラスでないと傷ひとつ付けることはできないだろう。
実のところ、一見して普通に見えるモーリスたちの防具にも秘密があった。
防御力はとくに一般的なものと変わらないが、ただ一点だけ常識はずれな細工がされていた。
それは防具が破壊される強さの攻撃が加えられた場合、その威力を弱めて治療可能なケガに留めるというものだった。
ナイであれば同じ素材でも鉄壁の守りを施すことができたが、アルベルトと相談した結果、それはやめておこうという話になった。
初心者には分不相応な装備になるということもあるが、なにより初心者パーティーの成長を逆に妨げるのを危惧していた。
痛みのない戦闘は失敗や実力不足を省みる機会を奪い、成長する機会をも奪ってしまう。
ケガの痛みを知らなければ、自分の実力を勘違いしてただの無謀な冒険者が出来上がるだけだ。
「よかったな!お前ら!」
笑顔でそう言いながらも、アルベルトは心苦しいものを感じていた。
彼の防具も新しいものに変わっていた。
一見すると今までの防具と変わりないものに見える。
しかし、いずれもナイの手によって国宝級も超えるとんでもない性能が持たされていた。
そのせいで、普通の装備に喜ぶ少年少女たちを見て、自分だけが抜け駆けしたような、居心地の悪さを感じていたのだった。
「とりあえず、軽く戦闘をして問題がないか確かめてみるといい。相手は準備してやろう。マッドゴーレム!」
ナイの声に答えるように地面が盛り上がる。
そして盛り上がった地面は徐々に形を整えていき、四つの魔獣の形をとった。
「男たちには接近戦の練習用にゴブリンの能力を持たしたマッドゴーレムだな。女たちには遠距離攻撃の練習に速度の速いフィールドウルフだ。さあ、戦ってみるといい」
「おう!」
「ああ、ありがとう」
「はーい!」
「わかったわ」
口々に礼を言い、少年少女たちはマッドゴーレムとともに平原に散らばっていくのだった。
申し訳程度の林が所々にあるだけで、何もない草原だ。
農地にする話もあったくらい平和な場所だが、王都とアニマルダンジョンと呼ばれている、猛獣系の魔獣が多く出現するダンジョンの間にあるため、ダンジョンが溢れた時の迎撃の場とするために放置されていた。
「すごい!軽ーい!本当にこれ、もらっていいの?」
新しい防具を身に着けたネリーが、その軽さを確かめるようにピョンピョンと跳ねる。
心なしかまだ成長しきっていない胸が揺れているような感じがして、モーリスとシモンの目はそこに釘付けになっていた。
「もちろんだ。後衛の女たちの分は負担にならないよう軽さと魔法に対する防御を考えてレイジフロッグの皮を使っておる。男たちは物理耐性重視でオーガの皮だな」
「オーガ!いいのか?」
驚きの声を上げたモーリスの顔は、満面の笑顔だ。
レイジフロッグもオーガも入手困難な素材ではない。派手な戦闘をする冒険者には物足りないくらいの装備だが、孤児院の少年少女には高価なものだった。
「かまわん。在庫が大量にあったのでな」
ナイは満足そうに頷いた。
初心者パーティーの皆がしっかりと装備を固めている一方、彼女の格好は、防具をほとんど着けていない普段着のようなものだ。元々猫だった彼女は締め付けのある服を好まない。
戦闘するように全く見えないが、彼女の服には付与魔法による絶対的な防御が為されていた。
それこそ、ダンジョンマスタークラスでないと傷ひとつ付けることはできないだろう。
実のところ、一見して普通に見えるモーリスたちの防具にも秘密があった。
防御力はとくに一般的なものと変わらないが、ただ一点だけ常識はずれな細工がされていた。
それは防具が破壊される強さの攻撃が加えられた場合、その威力を弱めて治療可能なケガに留めるというものだった。
ナイであれば同じ素材でも鉄壁の守りを施すことができたが、アルベルトと相談した結果、それはやめておこうという話になった。
初心者には分不相応な装備になるということもあるが、なにより初心者パーティーの成長を逆に妨げるのを危惧していた。
痛みのない戦闘は失敗や実力不足を省みる機会を奪い、成長する機会をも奪ってしまう。
ケガの痛みを知らなければ、自分の実力を勘違いしてただの無謀な冒険者が出来上がるだけだ。
「よかったな!お前ら!」
笑顔でそう言いながらも、アルベルトは心苦しいものを感じていた。
彼の防具も新しいものに変わっていた。
一見すると今までの防具と変わりないものに見える。
しかし、いずれもナイの手によって国宝級も超えるとんでもない性能が持たされていた。
そのせいで、普通の装備に喜ぶ少年少女たちを見て、自分だけが抜け駆けしたような、居心地の悪さを感じていたのだった。
「とりあえず、軽く戦闘をして問題がないか確かめてみるといい。相手は準備してやろう。マッドゴーレム!」
ナイの声に答えるように地面が盛り上がる。
そして盛り上がった地面は徐々に形を整えていき、四つの魔獣の形をとった。
「男たちには接近戦の練習用にゴブリンの能力を持たしたマッドゴーレムだな。女たちには遠距離攻撃の練習に速度の速いフィールドウルフだ。さあ、戦ってみるといい」
「おう!」
「ああ、ありがとう」
「はーい!」
「わかったわ」
口々に礼を言い、少年少女たちはマッドゴーレムとともに平原に散らばっていくのだった。
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