39 / 69
第二章
「さて、アルベルトはどうする?」
しおりを挟む
全力で平原を駆けてくる複数の馬たち。
ちょうどアニマルダンジョンの方向から王都へ向かって進んでいた。
「ギルドの職員のようだな」
ナイの呟きにアルベルトは無言で頷き返す。
初心者パーティーの面々も、そのただ事でない様子に気付いて慌ててアルベルトたちのもとに駆け寄ってきた。
アルベルトたちが立ち上がり身構えていると、その集団から一騎だけ離れて彼らに近寄ってきた。
「お前たち!すぐに王都へ戻れ!ダンジョンが溢れたぞ!!」
それだけ叫ぶと、返事も聞かずにまた王都方面へ向けて駆け出して行く。
忠告をするために足を止めてくれたらしい。
「やはり、溢れたか」
「……やはり?」
アルベルトが目を向けると、ナイは型の良い目を細めて笑みを浮かべた。
「さて、アルベルトはどうする?」
真っ赤な舌で、桜色の唇をペロリと舐める。煽情的な動作で、アルベルトの心臓が鼓動が早まった。
ナイは獲物を求めている。
そのしぐさを見て、直感的にアルベルトは理解した。
「それは、逃げるか、迎え撃つかという意味か?」
動揺が表情に出ないようにあえて眉を寄せながら尋ねると、ナイは腕を伸ばしてアルベルトの首に絡ませる。
その撫でるような指の動きは、ナイの白く細い指と相まって淫靡さすら感じさせた。
「アルベルトが前面に出て迎え撃つか、我が前面に出て迎え撃つかという意味だ」
やっぱり……と、アルベルトはため息を漏らした。
ナイの中では獲物を狩れるチャンスに、逃げるという選択はないらしい。
ダンジョンから溢れた魔物程度だと、ナイにとってはネズミの群れくらいでしかないのだろう。
「魔剣の訓練も進み、ダンジョンから溢れた程度の魔獣なら十分対処できるようになった。そろそろ実戦をしてみたいのではないかと思ってな」
「……そうか。ところで、オレが十分に使いこなせるようになったタイミングでダンジョンが溢れるのは都合よすぎる気がするんだが、何かやったか?」
アルベルトはナイが笑みでごまかした、先ほどの『やはり』という呟きが気になっていた。
実にタイミングが良すぎるのだ。
なんでもできるナイなら、ダンジョンが意図的に溢れるように操作できるかもしれない。
短い付き合いだが、ずっと一緒にいたおかげで、ナイの性格は理解できていた。
ナイは自分がやりたいと思ったら、他人の迷惑を考えずに自分のやりたいことをやる。
「何もやっておらぬ。情報は集めていたからな。そろそろ溢れるころだと思って訓練の仕上がりの時期を合わせたり、お主らをこの場所に誘導したりはしたがな」
「いや、それはやってる内に入るんじゃないのか?」
「そうなのか?」
悪びれないナイをアルベルトは睨みつけたが、ナイは表情すら変えずまったく効果はなかった。
「……オレがやる。お前はみんなを守ってやって欲しい」
アルベルトはため息交じりに言ったが、その声にはどこか嬉しそうな響きが混ざっていた。
彼自身、自分が得た新しい力をどこかで試したかったのだ。
迷宮が溢れていなかったとしても、いずれはどこかへ今までの自分では無理だった敵と戦いに行っていただろう。
人の良いアルベルトだが、彼もまた冒険者だ。
力を得れば、試したくなるのは本能だ。
アルベルトの拳は自然と強く握りこまれ、身体は高揚感に震え始める。
「よし!今回は我はサポートに回ろう。無様な戦いを見せる出ないぞ?」
そう言いながらナイは首に回していた腕に力をこめるとアルベルトの頭を引き寄せ、軽く耳を噛んだのだった。
ちょうどアニマルダンジョンの方向から王都へ向かって進んでいた。
「ギルドの職員のようだな」
ナイの呟きにアルベルトは無言で頷き返す。
初心者パーティーの面々も、そのただ事でない様子に気付いて慌ててアルベルトたちのもとに駆け寄ってきた。
アルベルトたちが立ち上がり身構えていると、その集団から一騎だけ離れて彼らに近寄ってきた。
「お前たち!すぐに王都へ戻れ!ダンジョンが溢れたぞ!!」
それだけ叫ぶと、返事も聞かずにまた王都方面へ向けて駆け出して行く。
忠告をするために足を止めてくれたらしい。
「やはり、溢れたか」
「……やはり?」
アルベルトが目を向けると、ナイは型の良い目を細めて笑みを浮かべた。
「さて、アルベルトはどうする?」
真っ赤な舌で、桜色の唇をペロリと舐める。煽情的な動作で、アルベルトの心臓が鼓動が早まった。
ナイは獲物を求めている。
そのしぐさを見て、直感的にアルベルトは理解した。
「それは、逃げるか、迎え撃つかという意味か?」
動揺が表情に出ないようにあえて眉を寄せながら尋ねると、ナイは腕を伸ばしてアルベルトの首に絡ませる。
その撫でるような指の動きは、ナイの白く細い指と相まって淫靡さすら感じさせた。
「アルベルトが前面に出て迎え撃つか、我が前面に出て迎え撃つかという意味だ」
やっぱり……と、アルベルトはため息を漏らした。
ナイの中では獲物を狩れるチャンスに、逃げるという選択はないらしい。
ダンジョンから溢れた魔物程度だと、ナイにとってはネズミの群れくらいでしかないのだろう。
「魔剣の訓練も進み、ダンジョンから溢れた程度の魔獣なら十分対処できるようになった。そろそろ実戦をしてみたいのではないかと思ってな」
「……そうか。ところで、オレが十分に使いこなせるようになったタイミングでダンジョンが溢れるのは都合よすぎる気がするんだが、何かやったか?」
アルベルトはナイが笑みでごまかした、先ほどの『やはり』という呟きが気になっていた。
実にタイミングが良すぎるのだ。
なんでもできるナイなら、ダンジョンが意図的に溢れるように操作できるかもしれない。
短い付き合いだが、ずっと一緒にいたおかげで、ナイの性格は理解できていた。
ナイは自分がやりたいと思ったら、他人の迷惑を考えずに自分のやりたいことをやる。
「何もやっておらぬ。情報は集めていたからな。そろそろ溢れるころだと思って訓練の仕上がりの時期を合わせたり、お主らをこの場所に誘導したりはしたがな」
「いや、それはやってる内に入るんじゃないのか?」
「そうなのか?」
悪びれないナイをアルベルトは睨みつけたが、ナイは表情すら変えずまったく効果はなかった。
「……オレがやる。お前はみんなを守ってやって欲しい」
アルベルトはため息交じりに言ったが、その声にはどこか嬉しそうな響きが混ざっていた。
彼自身、自分が得た新しい力をどこかで試したかったのだ。
迷宮が溢れていなかったとしても、いずれはどこかへ今までの自分では無理だった敵と戦いに行っていただろう。
人の良いアルベルトだが、彼もまた冒険者だ。
力を得れば、試したくなるのは本能だ。
アルベルトの拳は自然と強く握りこまれ、身体は高揚感に震え始める。
「よし!今回は我はサポートに回ろう。無様な戦いを見せる出ないぞ?」
そう言いながらナイは首に回していた腕に力をこめるとアルベルトの頭を引き寄せ、軽く耳を噛んだのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
196
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる