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情報量が多い!⑩
しおりを挟む青を背景に一羽の鳥が羽ばたく。
遅れて仲間だろう鳥が続き、不格好な三角を形成する。
頭上では真っ赤な太陽が煌めき、表皮をじりじりと炙る。
俺は内心で舌を打つ。蜜蝋製の手作り日焼け止めを塗ってはきたが、既に汗で全て流れ落ちてしまった。ただでさえ顔に雀斑があるのに、染みの原因を全吸収するなど耐えがたい状況だ。それでも依頼の手前、絶対に文句は口にしない。
杖を掲げ、呪文を唱えながら前方を注視する。そこでは無事恋人となったレオが小鬼を一刀両断で屠っていた。
以前は死臭と血臭の入り交じる身の毛のよだつ光景だったが、そこに彼がいるだけで何も怖くはない。それどころか今は剣を振り下ろす、野性的な一面に腹の奥がじくじくと熱を持つ。
繋がる時は俺にも向けてくれるのかな、と思案して慌てて首を振る。
いけない。今は戦闘中だった。
新調した杖を掲げ、新たに会得した呪文を敵にぶつける。
その名も、混乱付与(中)。効果は、二十五秒間、対象の認識を塗り替えて同士討ちを誘発するスキルだ。
早速生贄となった小鬼が仲間へと棍棒を振り下ろし、その仲間達の間に動揺が走る。そしてその隙を見逃さず、ラムとグノーが数を減らす。
あれから二十と八日。
衝撃の事実に打ちのめされていた彼等だが、今も疾風迅雷のメンバーとして俺を受け入れてくれている。
『取り敢えず、中身はオレ達の知ってるユニなんだろ。じゃあいいわ』
そう言って、普段と変わらない態度で、交際中の俺達を祝福し、二日後の初夜に向けて童貞なレオの性教育を施しては要らんお節介をかましている。
最後の一体を殺し終え、一息つく。
ひい、ふう、みい……十一。
あの謎の大発生から大分落ち着いて、普段通りの討伐数だ。
流れた汗を拭っていると、納刀したレオが小走りで駆け寄ってくる。
顔面に血潮を被ったまま、満面の笑顔で俺を呼ぶ。
「ユニ、大丈夫だった?」
「皆がいるから大丈夫だよ。はい、顔拭いてあげるからちょっと屈んで」
近くなった顔面に胸が高鳴る。
ああ、俺の彼氏は今日も顔が良い。
ちょっと奮発した布で拭っていると、彼が幸せそうに口元を綻ばせる。
釣られて俺も笑顔になる。
「ふふ、幸せだなぁ。あ、そういえば身体の方は大丈夫?」
「うん。大分筋肉も戻ってもう息も上がらないよ」
捲った腕で力瘤を作る。
通常、一週間寝たきりになった場合、元の状態に戻る期間は一ヶ月とされている。だがゲーム世界特有のご都合主義なのか、俺の身体は二十日を過ぎた辺りからほぼほぼ元の状態に戻っていた。なので最近リハビリを兼ねて外の依頼をこなしているという訳だ。
出来ればスケベ三回分可能なくらい更に体力をつけたい。
じゃれ合いを目撃したグノーが茶々を入れる。
「なら二日後の初夜は特に問題はなさそうだナ」
「ぐ、グノー!?」
「うん。頑張ってレオを気持ち良くさせるから大丈夫!」
「……まさかレオが下なのカ?」
「ううん。当然俺が下だよ!」
「なら良かっタ。講義が無駄になるところだっタ」
「有難う。でも実地は全部俺が育てるつもりだから絶対にやらないでね」
「頼まれてもしないゾ」
「ちょっ、ユニ!」
もしシようものなら全面戦争も辞さない構えである。俺の覚悟にグノーが、からからと笑い出す。
「随分と愛されてるナ、レオ」
「いやまあそれはそうだけど」
「おら、お前等。何時までも喋ってねえで回収手伝え!」
「はーい」
ラムの号令に俺達も作業に向かう。
相変わらず解体、というかあの耳を切り落とす感触と魔核をほじくり出す感触は鳥肌ものだが、傍に彼氏がいるというだけで不思議と気持ちは軽い。
二体分の死体をレオに刻んでもらい、小山を築く。
そこに火をつければ冒涜的なキャンプファイヤーの出来上がりだ。
肉の焦げる臭いを漂わせながら、欠損部位が燃える。
とことことレオの横に立ち、彼の手に指を絡めれば、一瞬ビクついたレオだが直ぐに握り返してくれる。
若干耳が赤い。
これは後から判った事だが、レオは自分から結構スキンシップは取るものの、俺からの不意のアクションにはめっぽう弱いらしい。なのでちょっと性的な触り方をすると、意外と可愛い反応を返してくれるのだ。
「相変わらずお熱いこった」
「そう? ラム達には負けると思うけどなぁ」
「そうだナ」
「そこは嘘でもそんな事はないって言おうよ」
「断ル」
「え~」
火葬しながらする会話ではないが、誰一人それを疑問視する事はない。
バチッと腹の辺りが弾けた直後、ラムが思い出したかのように告げる。
「そういや初夜はどの体位でヤるつもりだ。バックか騎乗か?」
「ちょっ、ラム!」
「俺は騎乗位にするつもりだけど、レオがしたいなら、正直どの体位でも良いかな」
「ユニっ!」
なんという会話だろうか。
そう言いたげにレオが顔を覆う。
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