悪役令息? いいえ。俺は納豆召喚できる経年劣化スマホバッテリーのような者です。

くすのき

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供給も度が過ぎれば鼻血出る

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 患部に押し当てたハンカチを赤黒く染めたまま、首を傾げる彼。
 その目が不意に俺とかち合う。

「――魔力切れか?」
「違います! というか俺の事より早く手当て!!」

 気が付けばラディウス問題がすっぽ抜け、脳内は推しの怪我(一大事)で埋め尽くされた。
 誰だ俺の推しを傷つけた不埒者は!!
 目を血走らせる俺に対し、予期せぬ大声を耳にしたナハトとラディウスは目を瞠る。

「何ぼうっと突っ立ってるんですか! 早く止血と消毒!!」
「――了解した」
「……ナギ」
「あ」

 ラディウスの呼びかけに我に返るも時既に遅し。
 通常侯爵家の人間、それも縁もゆかりも無い者が次期公爵を怒鳴りつけるなどあってはならないし、白手袋ぶん投げられても決して文句言えないのだが――黙々と手当てに勤しむナハトにその気配は無かった。
 一先ず嫌われずに済んだと胸を撫で下ろし、ラディウスには崩れた笑みを送る。
 ラディウスは何も言わなかった。いや正確には何か言おうとしていたが、新たな来訪者によりそれは叶わなかった。

「お待たせしました!!」
「ハァ、ハァ。モットー先生、もう少しゆっくり……」
「……学園長」

 白衣の男に手を引かれて現れたダン◯ルドアを二割薄くしてフランシスコ・サビエルカットの老人。
 彼は息を整えるや否や、深々と頭を下げる。

「この度は誠に申し訳なく」
「その謝罪は私ではなく彼にすべきでは」

 にこやかに指摘しつつ、患者を放置した保険医にも苦言を呈するラディウスが怖い。しかもぷよ◯よの連鎖反応みたく俺の服毒を知ったナハトが椅子を弾く。

「何の毒だ!?」

 瞬歩じみた速度で距離を詰めた推しが肩を掴む。

「ユーベルヤード!!」
「だだだ、大丈夫です。大した物ではありませんし既に解毒済みですので。それよりご自身の手当てをなさってください」

 布団に血がついて勿体ない、じゃなかった。汚れてしまう。
 お前の患者だろ早くなんとかしろと想いを込めて棒立ちの保険医に変顔アイコンタクトを送れば、ようやっと動いてくれる。

「ユーベルヤード君はこちらに」
「五月蝿い。犯人は誰だ」

 真剣な表情の推しに見つめられ、俺の内なる乙女がときめく。

「君に関係ないだろう。口を挟まないでくれ」
「関係ある。コイツは俺の物だ」

 空気が凍った。
 学園長と保険医両名が「え、そうなの?」と視線を送ってくる。

「君にナギを下賜かしした覚えはないし、元々彼は私の物だ。誤解を招く発言は慎んでくれないかい」

 いや貴方もですやん――とは口が裂けても言えない。というかどっちも合ってるけど間違ってるから厄介だ。
 謎の睨み合いで火花を散らす彼らに俺はおずおずと口を挟む。

「あの、ちょっと宜しいですか。一先ず今回の犯人の目的と、彼が単独犯か否か伺っても?」
「あ、あぁ。犯人の名前はタダ・ノヒガーミという男爵家の男じゃ。ソラ君を狙った理由は彼に恥をかかせたかったそうで、まさか君が代わりに食べるとは思わなかったと自供した」
「何処に拘束している?」

 それを訊いてどうなさるの?
 殴りにというより殺りに行きそうなナハトの気迫に教師陣も気圧されている。

「ナハト・ユーベルヤード。学園内での犯人に対する個人的制裁は禁じられている。そうでしょう、学園長」
「う、うむ」

 いやそれだと学園外ならオーケーって事になりませんかね?

「あ、あのあの、犯人の処遇しょぐうについては如何いかように」
「そうじゃな……当初の標的が平民かつ微毒ではあったが、君、殿下の侍従が被害を受けた以上、重い刑罰はまぬがれんじゃろうな」
「なるほど……でしたら殿下。此度は殿下の口添えという形をとり、懲戒解雇に持っていきませんか?」

 俺の提案にラディウスとナハトは渋面を浮かべるも、ラディウスだけは直ぐに得心がいったように頷いた。

「私は構わないけど、ナギは本当にそれでいいのかい?」
「はい。今進めている政策に消極的なノヒガーミを動かすにはこれが宜しいかと」
「流石、私のナギだね。いつも私を一番に考えてくれて有り難う」

 微笑をたたえたラディウスがナハトに見せつけるように俺の頬を優しく撫でる。
 なんで火に油注ぐねん。

「し、臣下として当然の事でございます。ユーベルヤード様もそれでご納得頂けますでしょうか?」
「分かった」

 そう言うと治療を終えたナハトは寝台に腰掛け、徐ろに俺の肩を抱く。

「ひょわっ!?」
「丁度良いから魔力譲渡しておく」
「――肩を抱く必要はないのでは?」
「密着した方がより流れやすくなるのは以前に確認済みだ」

 睨み合いwith火花リターンズ。
 この状況に戸惑いを隠せない教師陣が俺達をただただ見やる。そして俺は――

「! ナギ!?」
「どうした」

 推しからの過大ファンサで鼻血が出て、意識を飛ばした。
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