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精神攻撃は基本
しおりを挟む「どう? 痺れは治まってきた?」
「はひ」
ラディウスから受け取った解毒の錠剤を飴のように転がしながら、俺はさりげなく周囲を見渡す。
たまたま患者が不在なのは納得出来るとして保険医まで不在とはこれ如何に。いや別にね、俺も労働基準法を無視して常駐してろよと言うつもりはない。ただ俺という患者無視して王太子命令遂行はちょっと如何な物ではないだろうか。
「(せめて処置してから行こうよ)」
絶妙な気不味さに胃がしくしくと痛みを訴え始めたその時、件のラディウスが口火を切る。
何時スープの細工に気づいたの、と。
表情、雰囲気、口調。
そのどれにも怒りの気配はない。それどころか普段と変わらない態度に見える。だがしかし俺の中のナギの勘がお冠だと告げていた。
でも何故俺に向けられなければならないのか疑問を覚えつつ、なるたけ刺激しないよう最大限の注意を払い、質問に答える。
「あの給仕が踵を返した時です。顔に嫌なものを浮かべていたのが妙に気にかかりまして」
「口にした理由は?」
「言い逃れを防ぐ為と、万が一彼が口にして貴重な属性に不備が出てはならないと勝手ながら愚考致しました」
あくまでも目付けとしての仕事だと強調すれば、ラディウスの纏う空気が僅かにひりつく……ような気がした。
「次からは安易に口にしないように」
「ハッ。肝に銘じます」
これでもうこの話は終わりだよね。
そうだよね?
表で臣下の顔を形成しつつ、裏で雷に怯える小型犬と化している俺に、ラディウスが手を伸ばす。
触れた先は俺の左頬。
「殿下?」
「これでも心配したんだよ」
「申し訳ありませ、っ!?」
刹那、雷に打たれたような衝撃が走る。
「ナギ?」
「す、すみません。錠剤が変な所に引っかかってしまって」
我ながら苦しい言い訳だったが、咳払いをして彼の手から逃れる。
そんな俺にラディウスは気分を害した様子はなく、それどころか俺に水を飲ませようと率先して席を立った。
また彼の手を煩わせてしまった後ろめたさはあったものの、正直今はそれどころじゃなかった。
思い出したのだ。
相変わらず経緯は全く覚えていないが、先程ラディウスが俺の頰に触れたシーン。あれと全く同じ光景がゲームにあったと。
「(もしかしなくても俺、ラディウスルート邪魔した!?!?)」
心臓が飛び出して動いているみたいに五月蝿い。
「ナギ、お水だよ。……どうかした、顔色が悪いみたいだけど」
「え、あ、大丈夫です」
全然全く大丈夫ではないが、落ち着く為に受け取った水で喉を潤――
「んごっふ」
そうとしたが駄目でした。
激しく咳き込む俺の背中をラディウスが優しく撫でる。
「一回ちょっと横になろう。立てる?」
「ゴホッ、ゲホッ、ふぁい」
支えられながら寝台へ横になれば、間髪入れずラディウスの額が、俺のものと重ねられる。
「!?!?!?」
「――熱はない、いや少し上がった?」
眼前に迫った美貌に心臓が更に脈動を強める。
「ででで、殿下」
「ナギ。気分が悪くなったり、体が怠かったりはしてる?」
「大丈夫。大丈夫です!」
お願いですから離れてください。
もはや半泣きに近い顔で恐れ多くも御身に触れようとした瞬間、貝のように閉ざしていた扉が唐突に音を鳴らした。
ラディウスの顔が離れる。
それに今日一安堵しながら、来訪者に感謝せんと頭を動かし――
「!?」
「何故、君が」
利き手から血を流した推し、ナハトがそこに居た。
「? 怪我の手当に来ただけだ」
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