悪役令息? いいえ。俺は納豆召喚できる経年劣化スマホバッテリーのような者です。

くすのき

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お食事イベント

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 そんな突っ込みを胸中でしつつ、席を立つ。次の授業に向け、ソラが金魚の糞よろしく着いてきているか気を使いながら歩く事暫し、俺の前を進んでいた者達が一斉に歩みを止め両端へ寄る。
 その先にはまるでモーゼのように渡る金髪と緑髪、ラディウスとヴァンの姿。
 俺達も有象無象に倣い、端によって臣下の礼をとる。

「お疲れ様、どうだった?」

 俺いや俺達の前で足を止めた彼が問う。
 十中八九、ソラを加えた授業に支障は無かったどうか。それも生徒だけでなく教諭陣も含めての質問。流石、次期国王。着眼点もさることながら順調にストーリーを進めていらっしゃる……多分。
 ならば俺もそれに応えなくては。周囲に不審がられないよう言葉を選びつつソラを推す。

「本日も大変為になる講義でした。彼も興味深そうに耳を傾けておりました。平民とはいえ地頭はそれほど悪くはないかと。まあ貴族には遠く及びませんが」

 ――うん、そういや俺、語彙力無かったわ!!

「……そうかい」

 ほら、ラディウスもどう反応すべきか困って微妙な顔して当たり障りのない返事しかしてこない。
 本当に申し訳ない。
 穴があったら入りたい気持ちをひた隠していると、察してくれたのかヴァンが話題を変える。

「そういえばさっきそこでネロに出くわしたんだが、何かあったか。えらく苦虫を噛み潰したような顔してたんだが」

 どうやら本人に直接問い質してはいないようだ。
 ただそれをこの場で口に出すのは憚られる為、目付けの件で少々と濁せば両者「あぁ」と小さく頷く。

「アイツはラディウス大好きだからな。ま、後でフォローしておく。――っと、さっき話してたんだが昼はどうするつもりだ」
「それでしたら道案内も兼ねて彼と二人で食堂に。ですので申し訳ありませんが昼の会議には少々間に合わないかと」
「それについては問題ないよ。既にもう議題は纏めて提出しておいたから夕方の会議で間に合うよ。それに私もまだ虹について知見を得たいと思っていたところでね。ソラ君、君さえ良ければ昼食は一緒にどうだい?」
「はっ、はい。喜んで!」
「ナギもそれでいい?」
「殿下の御心のままに」

 頭を掻くヴァン。
 いい加減慣れてほしいものだ。
 去っていく彼らを見送り、その姿が見えなくなってから、ソラがぽつりと告げる。

「なんていうか王太子殿下って近寄り難いというか少し怖――あ、違っ。そういうつもりじゃなくて、あのあの、すみません!!」
「ハァ……今のは聞かなかった事にしますが、くれぐれも口には気をつけるように。それから殿下の双肩には国の未来だけでなく多くの国民の命と将来も乗っているのですから、それを良く理解するように」
「はっ、はい。肝に銘じます!」

 少し叱りすぎただろうか。
 彼の背後にチラつく茶々丸の幻影に罪悪感を覚えつつ、肩の力を抜く。

「ところでつかぬ事をお訊きしますが、ソラさんはテーブルマナーについてはどの辺りまで習得していますか?」
「えっと……」

 あ、駄目だなコレ。

「分かりました。ではアレルギーや好き嫌いの有無についてですが――ないんですね。でしたら昼食時は俺と同メニューにした上で食べ方も俺の真似をするように」
「お手数おかけします……」
「今更ですので一々申し訳なさそうにしないで下さい。俺のはあくまで目付けとして当たり前の業務です。さぁ、行きますよ」



 * * *



 正午を知らせる鐘が鳴る。
 俺は上京したての田舎っ子のような反応を繰り出すソラを軽くたしなめつつ、食堂へと歩を進めた。やはり時間も時間とあって中はそれなりに混雑を見せている。
 逸れないよう人垣をかき分ける。
 因みに目指す先は二階席。ヒロイン(♂)を伴い、あまり長くない階段を登ると、声がかかる。
 その声の主はヴァン。
 彼は席から立ち上がり、俺達に向けて手を振っていた。その周りには当然ラディウスとネロがいる。

「お待たせして申し訳ありません」
「お」「私達も今来た所だよ」

 遅いと言いかけたネロを遮り、ラディウスは朗らかに笑う。

「お、お招きいただきましてありがとうございます!」
「こちらこそ来てくれて有り難う。座って」

 許しを得て腰掛けるや否や、控えていたボーイの男がそれぞれにメニュー表を差し出す。
 そこには貴族子息が通う学園だけあって三ツ星レストラン顔負けの高級食材が並んでいる。
 俺はそこから比較的食べやすく、味の濃すぎない物を見繕い、二つ注文する。なんかその際、ラディウスから意味ありげ(怖い方)な視線を送られたような気がしたが多分気の所為じゃないだろう。
 そんなに敵視せんでもええやん。
 雑談を交わし、ほどなくすると注文した料理がそれぞれに元へ到着する。
 ラディウスは栄養バランスの整った物、ヴァンは腹ペコ男子大好きTheパワー飯、ネロは身長いや骨を強くするカルシウム増々メニューだ。まさに三者三様。
 最後に俺達のあっさり食べやす飯の登場だ。

「ごゆっくりどうぞ」
「うわぁ……美味しそう」

 目の前のそれにソラが目を輝かせる。
 まるで初めてお子様ランチを目撃した子どものよう。
 だが――

「ソラ君。申し訳ないけど俺と君の交換してもらえる?」
「え、あ、はい。いいですよ」
「おい、行儀が悪いぞ」

 んなもん百も承知だ。
 ネロの苦言を無視して俺は交換したスープを一口口に入れる。途端、口内に広がるあり得ない苦み。
 俺は直ぐ様ナプキンを口に当てて中身を吐き出す。

「ナギ?」
「申し訳ありません、殿下。――そこのボーイ、来い」

 俺は先程のボーイを鋭く睨む。

「な、なんでございましょう」
「何を入れた?」
「お、仰っている意味が良く」

 この期に及んでまだ白を切ろうとするボーイ。

「そうか。ならこの舌が痺れる感覚は新しい調味料、と言いたいのか」
「――へぇ」
「っ、」

 その瞬間、ラディウスから極寒の冷気が発される。

「それはとても興味深いね。ナギ、後学のために私にも一口貰えるかい?」
「なりません、殿下!!!!」

 身を乗り出し、スプーンを浸した彼にボーイが叫ぶ。それに伴い、食堂内の空気が水を打ったように静まり返った。

「……フェメーレの毒だな」

 いつの間にか席を立ち、虫眼鏡のような物でスープを覗いたネロが言う。
 フェメーレの毒。
 毒性は極めて大した事は無いが、舌が長時間痺れる事から貴族間では嫌がらせの道具として広く認知されている毒物だ。
 やはり毒だったか。
 グラスの水を含み、口の中を洗いながらボーイの一瞬のニヤけ顔に気付いて良かったと心から安堵する。

「……警備兵」
「お、お許しを。お許しください!」

 警備兵にドナドナされていく給仕男。
 謝るくらいなら最初からすんなである。

「だっ、大丈夫ですか。エンジュ様」
「もんひゃいないれふ」

 かなりの量が入れられていたのだろう。
 問題ないという単語が上手く言葉にならなかった。これは保健室で解毒剤を貰う他ない。マナー講座は次回に持ち越しだ。
 拙いながらも保健室に行くと告げれば、何故かラディウスも席を立つ。

「ひとひぇいへまふ」(一人で行けます)
「それだと伝え辛いだろう。それに学園長に話があるんだ」

 相変わらず極寒の冷気を纏ったラディウスは一歩も引く気はないようだ。確かに気になる相手が毒喰らうところだったのだから無理もないのだが、別に俺の付き添いは要らなくね?

「すまないが食事はまた今度にしよう。ヴァン、ネロ。彼を宜しく頼むよ」
「分かった」
「はーい」
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