悪役令息? いいえ。俺は納豆召喚できる経年劣化スマホバッテリーのような者です。

くすのき

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俺は不認知型無害ストーカーになりたいんです

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 三人を見送り、完全に姿が見えなくなったところで脱力する。
 精神的疲労が肩いや全身に伸し掛かり、俺は小さく息を吐いた。

 攻略対象勢生鑑賞とか破壊力が高過ぎ。
 限界まで存在感を薄めて平静を装いながら、ひたすら心でシャッターを切った。何故この世界にスマホが無いのか本当に悔やまれる。あったら絶対記録におさめ、同志達と心置きなく萌えをぶつけあえるのに。
 だがまあ話したところで好感度一律0またはマイナススタートのナギでは確実に羨ましがられないだろうけども。

 しかしあの三人衆は一体何を話しにいったのか。正直かなり気になるところだが、無理に強行して唯でさえ低い好感度を下げ散らかしてヒロイン(♂)登場前に強制バッドエンド確定だけは御免被りたい。俺はまだこの世界で平和に推し活を続けていきたいのだ。

 そしてその上で注意点が一つ。
 俺は決して推しに認知、逆観察された状態で推し活したい訳じゃなく、あくまで不認知型で推しの生活を影から見守りたい無害なストーカーであらねばならないのだ。

「えっと⋯⋯ユーベルヤード様、俺に何か御用でも」
「いや、特に無い」

 ならばどうして凝視していらっしゃるのでしょう。
 喉元まで出掛かったそれを唾と共に胃に落とし、若干崩れた愛想笑いを返す。

「あの、周りの目もございますので」
「俺は気にしない」 

 いや気にしようよ。

「もしや俺の顔に何かついていたり、ユーベルヤード様のご不興を買ってしまいましたでしょうか?」
「無い」

 無いのかぁ~⋯⋯いや、じゃあ何だよ。
 貴方様の攻略は片手の指で足りないほどさせて頂きましたが流石にこれは思い至れない。それとも俺は今、世界から推しへの愛を試されているというのか。
 決して表情には乗せず悶々とする俺に、ナハトは俺が無意識に魔力を吸っていると話す。

「⋯⋯あ」

 直後、俺の口から喘ぎとも絶句ともしれない声が漏れ、慌てて口元に手を当てる。体中の血液が凍るかのようだった。

「たたた、大変申し訳ごじゃいましぇん!!」

 焦りと震えで呂律が回らない謝罪に、ナハトは表情を全く変えず唇を開く、

「構わない。好きなだけやれ」
「神かよ⋯⋯」
「人間だが?」

 苦く笑いつつ、だから見ていたのだと納得すると同時に、俺は全自動魔力吸引機かと内心で突っ込みを入れる。

「あの、ご不快でしたら直ぐに仰ってくださいね」
「問題ない」

 まぁそうでしょうね。
 もはや笑うしかない俺の元に談笑を終えたラディウス御一行が帰還する。

「ナギ」
「あ、殿下」
「何を話していたんだい?」
「魔力の件で少々。ユーベルヤード様も有り難うございました」
「ああ」
「ナギ。彼とはあまり交流しないよう言ったよね」

 ナハトを毛嫌いしての発言でありそれ以外の他意は一切ないと理解しているが、これ関係のない第三者視点では束縛系彼氏になるのではなかろうか。
 遠目に此方を窺う級友達の視線が怖い。

「申し訳ございませんでした」

 弁解せず深々と頭を垂れる俺の耳に息を呑む音が二つ届く。
 もしかせずともネロとヴァンの物だろう。先程も目にしたとはいえ、以前の我儘ナギの印象が強い彼らには俄には信じ難い光景パート2となったに違いない。
 本日何度目かの苦笑いを浮かべていると活発そうな少年の声が仲裁に入る。
 側近一の良心ヴァン・アエラスだ。

「ラディウス。もうそのくらいにしておいた方がいいぞ」

 彼は周りを見ろと言わんばかりに目線を軽く傾ける。忠言を受けた当人もそれに気付いて肩の力を抜く。
 だが話はそれで終わりじゃなかった。

「面白い主従関係だな」

 ナハトである。
 一見盛大な皮肉だと多くの者が捉えるだろう。だがほぼナハトマスターである俺から言わせれば、これはただの感想である。似たシーンがナハトルートにあったのを良く覚えている。
 しかしそれを知らない彼らは当然そうは受け取らない。
 周囲の空気が僅かに張り詰める。

「お前さぁ」
「ユーベルヤード様の従は違うのですか」

 切り込み隊長になろうとしたネロ少年を遮り、疑問をぶつける。

「必要最低限以外は関与しない」
「なるほど、そのような形でいらっしゃったので関心を寄せられたのですね」
「そうだ」

 張り詰めていた空気が緩む。
 どうやら一触即発の危機は免れたようだ。ほっと胸を撫で下ろし、そういう訳だと主へと振り返った矢先、背筋が粟立つ。

「相変わらずユーベルヤードは変わっているね」

 聖者の如き慈愛の笑みに俺の心臓は早鐘を打つ。笑顔の前、星が瞬くような僅かな瞬間に彼の無の表情を目撃してしまったがために。
 これほど険悪だったかと記憶の引き出しを漁るもナハトルート以外うろ覚えなので大して意味がなかった。
 もっとちゃんとやれば良かった。

「ナギ」
「はっ、はい」
「行こうか」

 何処にとは訊かなかった。
 俺は手元の教材と筆記用具を片し、急いで席を立つ。

「次の授業先ではネロに頼んでおいたから、困った事や何かあった際は彼を頼るようにね」
「承知致しました。――えっと宜しくお願い致します、リヴィエラ様」
「殿下の頼みだからね。くれぐれも勝手な行動はとらないでよ」

 生意気そうな子供が、ふんと鼻を鳴らす。
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