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駄目だコイツ
しおりを挟むネロ・リヴィエラ。
リヴィエラ公爵家三男にして公爵家の三男坊。容姿は水の妖精のような透明感のある美しさを纏い、幼い子供特有の少年とも少女とも取れる可愛らしさを持つ。
ただそれはあくまで黙っていればの話であり、現在彼の湖畔を彷彿とする瞳は敵意と嫌悪で満たされ、全身からは用なく話しかけるなという空気を発している。
一体俺が何をしたと嘆きたいところだが、それとなく身長を弄る、彼の開発した魔法具を誹謗中傷する、うっかりという呈で誤情報発信などその他諸々。
地雷原でタップダンスでもしてるのかというくらい信じ難い所業の数々――今すぐスライディング土下座しても絶対に許されない事しかしてなかった。
「記憶喪失だろうが僕はお前が嫌いだ。よって命の危機でも差し迫らない限り手を差し伸べるつもりはないからそのつもりでいろよ」
まぁそうなりますわな。
教室に着くなりさっさと席に着くネロ少年を追い、三つほど間を空けて俺も着席する。因みにこの場にはラディウス達の姿はない。その理由は単に彼らと専攻科目が異なっており、だからラディウスはネロに俺の事を託したという次第だった。
恐らく言葉通りネロ少年は本気で命の危機以外助けてくれる気はないのだろう。
だが流石にそれは困る。
俺は魔法技巧学に必要な道具を揃えた後、一枚だけ切り離したノートに文章をしたためる。内容は当然、以前の暴挙いや蛮行を詫びるもの。日記から知った呈で自らの愚かさをこれでもかと書き綴り、末尾に感謝を述べるのも忘れない。
そうして凶暴な保護猫(捕獲初日)に棒でご飯を差し出すように完成した手紙を渡す。
勿論これで許されるとは毛ほども思わないし、バッドエンド回避の為と問われれば否定も出来ないけども、何より俺がやった事で無いとはいえ、子供を傷つけたまま無かった事にする卑怯な大人でありたくなかった。
手紙を受け取ったネロは怪訝そうにしていたが破り捨てる事はせず、その代わり読み進めていく内にどんどん眉間に皺を刻んでいく。デスヨネー。
それでも今後も粘り強く謝罪していこうと決意した矢先、丸めた紙が彼から放られる。開いて見てみれば俺の謝罪文の上から赤い墨で『絶対に許さない』の文字――それと小さく、『但しこの場で唯一無二の物を進呈するなら考えなくもない』とあった。即座にネロを窺えば彼はニヤリと口角を上げていた。
そこに込められた意味は、どんな馬鹿でも察せるだろう。どうせお前には出来ないだろうね、だ。
俺の中で闘いのゴングが高らかに鳴る。
おう、受けて立とうじゃないかと。
「(つっても今手元に筆記用具しかねーし、流石にここで納豆の空容器出すのも⋯⋯てか俺ならそんな塵渡されたらブチ切れる自信しかねーわ)」
タイムリミットは教諭の到着まで。
実質そこまで時間的猶予はない。
しかしここで諦めるのも癪に障る。
どうすべきか頭を捻り、何気なくノートを視界に入れた瞬間、天啓が走った。
俺は直ぐ様ノートを一枚切り離し、そこから正方形になるよう幾つか作成する。
そしてその正方形をどうするか。
答えは一つ、折るだ。
一番小さい物から順に鶴、手裏剣、蛙、菖蒲、ドラゴンと小さい子が喜びそうな物を中心に作ってネロ少年に差し出す。
ナギ自身の記憶とかつてのファンブックを読み込んだ限りではこの世界に折り紙という文化は無かった。
さぁどうだとネロ少年の反応を確認すれば――猛烈な勢いで距離を詰めてきた。
「お前は何を考えているんだ?」
「あ、もしかしてお気に召しませんでしたか。すみません」
「そうじゃない!」
首を傾げる俺にネロ少年は駄目だコイツとばかりに片手で手を覆い、大きく息をつく。
「いいか、一度しか言わないから良く聞け。これは間違いなく売れる、というか無闇矢鱈に表に出していい物じゃない。まず然るべき場所に登録してこい」
これ唯の折り紙ぞ?
「えっと取り敢えず唯一無二ではあるんですよね。じゃあ謝罪については考えてくださると言う事で良いですか」
「⋯⋯お前、僕の話本当に聞いてた?」
「聞いてましたよ」
ネロ少年の溜め息がますます深くなる。
「記憶と一緒に知能まで失ったのか」
「それは少し言い過ぎでは?」
「誰でもそう思うんだよ⋯⋯ハァ。謝罪は受け取ったから近い内に特許取ってこい。それまでコレは表に出すな」
「え、面倒臭い⋯⋯」
「おーまーえーはー」
「あぁ、痛い痛い痛い」
小さな手でアイアンクロー――掌全体で相手の顔面をつかみ、指先で握力を使って締め上げ攻撃する技――をかまされ、俺は涙目になる。その小さな体の何処にそんな力が眠っていたのだろう。
「――分かったな」
「うう⋯⋯そんなに言うなら作り方含めてお教えしますので、リヴィエラ様が特許取って売るなりしてくださいよ。利益は俺が今までしでかした事の慰謝料って事にしていいですから」
「もう一回喰らうか?」
見たことのない満面の笑みを向けられ、俺は慌てて手でガードする。
「全く⋯⋯。僕は技術を奪い取って得た利益なんて露ほども欲しくないよ」
「だから進呈しますよ?」
「顔を差し出せ」
「待って待って待って。分かりました。分かりましたから!」
まだ僅かに痛む顔面を擦り、検討してもらえる言質は取っただけ良しとしようと自らを納得させる。
「ところでコレは僕以外に披露は?」
「リヴィエラ様が初めてです」
「そうか。――非常に非常にひっじょーに不本意だがお前のコレは素晴らしい技術だ。そして技術というのは開発した者が然るべき場所へ届け出るのも義務だと僕は思う。分かるか」
「はぁ」
「駄目だコイツ」
遂に頭を抱えてしまったネロ少年に俺は首を傾げる。いやだってさ、折り紙って俺が開発した訳じゃないんだよ。
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